昨年末に活動を開始し、去る7月に中間提言を公開した「カイシャの未来研究会2025」(主査:ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO 大野誠一)。「会社を『出会いの社(やしろ)』にしよう!」というスローガンを軸に、「想い」「旅の仲間」「変身資産」「主人公」という4つの領域から18のビジョンを発表しました。

そして、クローズドな研究会からオープンなフォーラム活動へと転じ、提言に留まることなく、カイシャを、そして社会を変えていく構想を描き、形にしていくことをゴールに、セカンドステージをスタート。そのオープンフォーラムを、20191216日(月)18:30より、大手町fabbitにて開催しました。

コンセプトは「『出会いの社(やしろ)』を一緒に創ろう!」。ビジョンを実現するプラットフォームやツールを、一緒に創ってくださる方々との活きた対話の場となるよう、定員は30名に設定。結果として、掲げたビジョンのひとつである「会社同士がもっとつながろう」という考え方に共感し、ご自身の会社もつながりたいと考えている経営者、経営企画・人事トップの皆様28名にお集まりいただきました。以下、詳細をレポートします。

 

【第1部】これまでの活動概要・中間提言の説明

まず大野誠一(ライフシフト・ジャパン:代表取締役CEO)が、開会のあいさつ、当日のゲストスピーカーの紹介と合わせて、全体像をコンパクトにプレゼンテーションしました(アウトラインはこちらをご参照ください)。

 

 

【第2部】各領域の構想プレゼンテーション

続いては、豊田義博(ライフシフト・ジャパン:取締役CRO / ライフシフト研究所)のファシリテーションのもと、研究会コアメンバーの皆様からの構想プレゼンテーションです。

コアメンバーの皆様には、会社を、個人を、社会を変えていくプラットフォームやツールを生み出そうと、「想い」「旅の仲間」「変身資産」「主人公」の中からそれぞれ担当する領域を持って頂き、構想を取りまとめて頂きました。

野田稔氏(明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科:教授)にはスーパーヴァイザーの役割を担って頂きました。

 

 

「想い」領域

「想い」領域の担当コアメンバーは、曽山哲人氏(サイバーエージェント:取締役 人事統括)と宮城治男氏(ETIC.:代表理事)。

当日は、曽山氏からのプレゼンテーションでした。以下がその概要です。

 

 

テーマ

一人ひとりが「想い」に気づける機会を創ろう!

コンセプト

自身の「想い」を探しあぐねている、迷っている多くの人たちが、自身の「想い」と向き合い、「そうか、こうだったんだ!」「これでいいんだ!」と、自身の「想い」に気づける機会を提供するプロットフォームを創造する。

背景・問題意識

◎「目が死んでいる」日本の会社員たちに、火をつけたい。
所属する会社に幻滅し、目の前の仕事の意味・価値を感じられずに、やる気を失っている日本の会社員たちを、そのままにしておけない。自身の「想い」に気づき、今の仕事に改めて意味・価値を見出す(リ・オンボーディング)、あるいは、新たな場所に転じる(転職に限らない、社内マーケットに様々な可能性がある)機会を提供していきたい。
◎「想い」の高尚化に歯止めをかけ、みんなを楽にさせたい。
「想い」を社会的で崇高なもの、オリジナリティが高いものでないと価値がない、とみなし、そのようなものを抱けていないことを恥じたり、無力感を感じてしまっている人が少なくない。ひとは誰しもが「想い」を持っている。それは社会価値の側面ばかりではない。個性価値、生活価値にも意味がある。

方向性

① 個別企業の「『想い』に気づける」施策を公開しよう!
一人ひとりが自身の「想い」に気づける研修・ワークショップなどを実施している企業はいくつもある。そうした企業のコンテンツをシェアする機会・仕組みを作る。
② NPO等が実施している「『想い』に気づける」施策をおススメしよう!
社会課題などと向き合う機会を通して、自身の「想い」への気づきを促し、目の前の仕事を見つめなおす場や機会を、NPOなどの組織・団体が提供している。そうした場や機会の存在を広めていく。

施策案

◎好施策の発掘・公表……ウェブコンテンツとして提供
◎「想い」カンファレンスの実施……①②の公開ワークショップを実施

 

「旅の仲間」領域

「旅の仲間」領域の担当コアメンバーは、有沢正人氏(カゴメ:常務執行役員 CHO最高人事責任者)と中根弓佳氏(サイボウズ:執行役員 事業支援本部長)。

当日は、ご両名ともそろってのプレゼンテーションでした。

 

 

テーマ

「複業」を軸に、業種・職種を超えた人との出会いを広げよう!

コンセプト

ライフシフト・ストーリーには、多様な「旅の仲間」の存在が欠かせない。しかし、働いている人の多くは自身の所属する企業、かかわる仕事に閉じた狭い人間関係に終始している。「複業」を切り口にした、所属する業種・職種を超えた人々との出会いの機会を創出する

背景・問題意識

◎カイシャ人の多くは、閉じた世界の中に佇んでいる
カイシャの中だけの人間関係に終始し、カイシャ以外でも、同業者、同じ職種の人たちとの関係性にとどまる多くの日本のワーキングパーソン。こうした世界、人間関係だけでは、素敵なライフシフト・ストーリーは生まれない。共通する関心テーマを題材とした、業種・職種を超えた、多様な人たちとの対話の機会を創出したい
◎「複業」を広くとらえ、「公私混同」を推進したい
子育てもボランティアも「複業」。有償無償にかかわらず、誰かのため、何かのために、役割を担うこと、自身のリソースを提供することはすべて「複業」ととらえたい。つまり、多くの人はすでに「複業」している。その機会と、そこから得られている学びを自覚し、その機会を増やし、公私を分けずにその学びを「本業」にも生かしていってほしい。
◎個人の「想い」に沿った「複業」を増やしていきたい
一部企業において、社員の副業推進を業務の一環のように運営する動きがみられる。「複業」は、個人の「想い」がベースにあってのものであり、命令されたり誘導されたりするものではない。

施策案

◎「複業」推進プラットフォームの創出・普及
研究会が核となって、新たなプラットフォームを創出していくこともあるかもしれないが、複業を増やしていくいくつかの試みが、すでに始動している。そうした試みの普及を支援していくことも視野に入れて、今後の活動をデザインしている。

 

「変身資産」領域

「変身資産」領域の担当コアメンバーは、田中研之輔氏(法政大学キャリアデザイン学部:教授)と和光貴俊氏(ヒューマンリンク:代表取締役社長/三菱商事:人事部付部長)。

当日は和光氏からのプレゼンテーションでした。

 

 

テーマ

一人ひとりが「変身資産」を自覚できるツールを創ろう!

コンセプト

人生100年時代を前に、自身のキャリアを自身でマネジメントしていくことができずに、立ち止まってしまったり、好ましくない選択をしてしまい始めている多くの人たちが、自身の「変身資産(無形資産)」を自覚し、「よし、思い切って変わってみよう!」「もっと資産をためなくては!」と、以降の選択、行動を意思決定できるようなアセスメントツールを創造する。

背景・問題意識

◎有形資産ではなく、変身資産を、ライフプランニングの主軸に置く社会にしたい
社会変化、個人の価値観変化とともに、有形資産は、生活の糧の一部でしかなくなりつつある。ライフプランニングに求められるアセットマネジメントの主要項目に、無形資産、変身資産を据える時代が来ている。しかし、個人の無形資産を可視化するツールは現存しない。
◎現在のキャリアサポートシステムを抜本的に改めたい。
現在の転職市場、アウトプレースメント市場のあり方には課題が山積している。履歴書、職務経歴書では個人を十分に表現できず、また、キャリアコンサルタントの属人的な知識、伝手によってマッチングがなされている。
◎手間暇をかけた精緻なものではなく、シンプルで浸透力のあるものを生み出したい職種、業界ごとに細分化されていたかつてのコンピテンシーディクショナリーのように、運用が煩雑なものを生み出しても意味がない。

施策案

◎個人が毎年受けるような『変身資産ドック』の開発
人事領域で活用されている《Geppo》,《Ocapi》のようなシンプルなシステムを目指す。

 

「主人公」領域

「主人公」領域の担当コアメンバーは、島田由香氏(ユニリーバ・ジャパン:取締役 人事総務本部長)と藤井薫氏(リクルートキャリア:HR統括編集長)。

当日は、藤井氏によるプレゼンテーションでした。

 

 

テーマ

一人ひとりを「自在」な「主人公」にしよう!

コンセプト

一人でも多くの人が、自分の人生を「主人公」として生きてもらうために、自らが「自在」であることに気づいてもらう機会を提供する。

背景・問題意識

◎「主人公」意識を大切にしてほしい
主人公とは禅の用語。自分の中にいる本当の自分、あるべき自分のことを指す。自分らしさ、個性とは、人と違うこと、オリジナルであることではなく、あるがままの自分=「自在」であること。自分らしさは、探すものではなく、すでにそこにある=「自在」。しかし、人はその「自在」な自分に気づかない(あるのに、ないと思ってしまう)。そして、会社や世の中の常識に従ってしまう(ないもの、あると思ってしまう)。
◎「主人公」という言葉に含まれる感じの意味合いを大切にしたい
「主」とは主体、自身。「人」とは、かかわる他者。そして「公」とは、かかわる社会。それぞれが独立に存在するのではなく、つながっている。つながって初めて自分、自分らしさが現れる。間人主義にも現れている相互協調的な日本の自己観をベースに、社会や会社とのつながりを再生していきたい。
◎施策全体のベースになるものにしたい
「想い」「旅の仲間」「変身資産」は、「主人公」になるための大切な要素。「主人公」領域の施策は、全体のベースになるようなものになったほうがいい。

施策案

◎「主人公」であること、「自在」であることを自覚できる場を個人に提供していく。
その一例として、島田氏が、ユニリーバの人事責任者としてではなく、ご自身で普及活動をされている『Delivering Happiness』があげらた。
◎個人を「自在」な存在と捉え、「自在」な個人を活かす経営モデルを創出する
これまでにも、個人の自律を重視し、個人と企業の対等な関係を目指すマネジメントが模索されてきた。しかし、このフレームは、欧米の輸入モデル。合理的・機能的な考え方だが、個人を突き放している側面も否めない。日本らしいモデルの創出が期待される。

 

【第3部】ワールドカフェ方式でのオープンディスカッション

第2部でプレゼンテーションされた内容をもとに、会場に「想い」「旅の仲間」「変身資産」「主人公」領域のコーナーを設け、担当コアメンバーがコーナーホストとなってのオープンディスカッションを行いました。20分をワンセッションとし、全員がすべての領域のディスカッションに参加できるように4セッション行い、セッション終了後には、参加者からホストへとコメントカードを手渡してもらいました。各領域に集まったコメントシートの内容からは、ディスカッションの様子が浮き彫りになります。

「想い」のコーナー

◎コメントシート抜粋

  • 想いは大切だと思うが、他者に強制されるものではない。ふとした時に気づく。そんなコトがあれば素晴らしい。
  • 想い→ストーリー→主人公。
  • 走り始めたら、CANを統合する時間がなくなる。きっかけ作り大切。複業の共有=想いの共有。複業は、想いのパイロットの場会社の存在意義をはっきりさせないと個人の想いとのギャップがわからない。




「旅の仲間」コーナー

◎コメントシート抜粋

  • 意外にも多くの会社が複業を認めていて驚いた。
  • まだまだ会社によって意識の差が大きいと感じました。世の中が変わる可能性は大きいとも感じました。
  • 個人のキャリア形成、仕事能力向上が縦軸。複業を通じた視野拡大、人脈形成が横軸。
  • 少し副業制度の縛りをゆるくしようと思いました。

「変身資産」コーナー

◎コメントシート抜粋

  • 変身可能性というKPIをメジャーにすると世界が変わりそう。
  • 上下のない多方向多面的なライフシフトを前提にした指標が欲しいです
。
  • 「会社」→市場価値は100年人生ではすべてではない。「幸せ」を実現する資産とはなにか?
  • 現資産の評価だけではなく、変身資産を増やすための行動量の評価もできるといい。アクション
    を促す機能もあるといいのではないか。

「主人公」コーナー

◎コメントシート抜粋

  • 主人公になるには「自分の人生」を生きる、選択に責任を持つ意識! 教育、環境が大事だと思いました。
  • 若い人たちの方が主人公感を持っている人が多くて、ミドル世代の方が実はヤバいと思う。
  • 自分も主人公。他人も主人公。すべてを許し、すべてを認め合うことがスタートと思います
。
  • 自然の中で自己を感じる。人の中では感じにくいのでは…。

 

【第4部】ラップアップ

コアメンバーの皆さんから、オープンディスカッションで出てきたご意見などを頂きました。そのさわりをご紹介します。

曽山氏
「想い」のハードルを下げることが重要だと思っている。言いやすくなる環境を作りたい。(野田氏が例示した)CAN、個人のできることに着目することがいいのではないか、というご意見もディスカッションの中では出てきた。自身のできることを意味付けしていくことから、自身の「想い」を創造していくことも有効なアプローチだ。
有沢氏
「複業」を許容している企業の方が多いのに驚いた。制約も少ない。日本も変わり始めていると強く感じた。一方で、「複業」の意味付けについては、まだ中途半端な感じだ。会社主導で複業を進めていく、ということがいけないわけではないが、個人が、自身の自由な時間に好きなことをしていく、という個人主導の複業が増えていってほしい。
中根氏
参加された方の会社の経営者がこう言っていたそうだ。「会社の中だけで人材を育成できると思うな」。その通りだととても共感した。自律した人材となってほしいなら、囲い込むのではなくどんどん外の機会に接してもらうことだ。それが、個人のためにも会社のためにもなるが、社会のバリューを高めることにつながる。自社のためなんて小さな、さもしいことは言わずに社会のため世界のために、複業を認めてほしい。
和光氏
転職マーケットでどんな値段がつくか、というキャリアレジュメをエンリッチするような資産だけではなく、もっと個人にとって価値のある多様な資産が定義され、それが一年間でどう変わったか測定できるものができるといい、という意見が多かった。幸福感、共感できる力、感能力のようなものも「資産」といえるのだろう。チャレンジだが、社会への価値はやはりありそうだ。
藤井氏
日本の教育システムや、社会の枠組みが、人が「主人公」になることにブレーキをかけている、個人が納得して自己決定、自己選択できることも大切だ、という意見が多く出てきた。主人公という漢字にあるように個人が他者や社会や宇宙や自然とつながっていることが自覚できると、自身の自在感が育まれるのではないか、働く環境が自然とつながっていることも大切ではないか、という話に発展した。
野田氏
「主人公」領域のホストをしていたが、「想い」「旅の仲間」「変身資産」の話が随所に出てきた。この4領域は有機的につながっていることを改めて実感した。いい場になったと思う。また、「他者の頭、知恵を借りる」ということの有効性も実感した。参加者の皆様に厚く感謝したい。そして、これからも皆さんを「使い倒したい」と思う。継続的なコミットを願う次第だ。

 

最後に、大野より「このようなつながりを広げて、様々な意見や考え方を集めて、コラボレーションできるプラットフォームを作っていきたい」という宣言で、オープンフォーラムを締めくくりました。