9月25日(金)20時~、LIFE SHIFT LIVE『京都移住のリアル~どこでも働ける時代のライフシフト』を開催しました。ゲストは、60歳を機に東京から京都へ移住、町屋をリノベーションしてコミュニティスペース「プロローグ」を立ち上げた佐久間憲一さん(63歳/ライフシフター・インタビューはこちら)です。当日は京都移住に興味を持つ40代~60代の方々が集い、「京都生活のほんとのところ」に耳を傾けました。詳細をレポートします。

■オープニングトーク(20:00~20:10)
大野誠一(ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO)ライフシフト・ジャパンの活動の紹介とともに、数多くのライフシフターへのインタビューから明らかになった「ライフシフトの4つの法則」についてレクチャーしました。

■ゲストプレゼンテーション(20:10~21:30)
続いてゲストの佐久間憲一さんをお招きし、移住のプロセスや京都の住み心地についてお話しいただきました。こんばんは、佐久間です。二条城から歩いて2~3分のところに住んでいます。今日はよろしくお願いします。

私が東京から京都に移住してきたのは2年前です。還暦を迎えて、いろいろと心境の変化がありました。2004年から出版社を経営してきましたが、この先も生涯現役で働こうと考えたとき、オフィスまでの往復2時間の通勤時間が無駄だな、できたら自宅兼オフィスで働きたいと思ったこと。自宅兼オフィスを構えるなら、そこにいろいろな人が集うコミュニティスペースを作りたいと考えたことなどです。

でもこれらは東京では無理だなと。だったらどこだったらできるのか。そんな流れで地方への移住について考えはじめたわけです。まずは移住地に求める条件をあげてみました。

<移住地の条件>
・映画館や博物館など文化的インフラが整っていること。これは自分の趣味嗜好であり、出版社経営という仕事上も譲れない。
・オンラインがあるとはいえ、作家やデザイナーなどとのお付き合いもあるので、東京へのアクセスの良さは重要。その他の地域や海外へのアクセスも大切。
・日常生活をするうえでの物価の安さ。
・地域の中での移動のしやすさ。車だけが移動手段といった地域は難しい。
・多様性やヴァリエーションを備えている。いろんな人がいて、いろんな産業があり、一面的ではない豊かさがあること。

京都は、『京都嫌い』で井上章一さんが書いているように、プライドが高くて何を考えているかわからないなど「いけず」なイメージがありますが、この条件に照らしてみると、実は条件に適った面白い町だという発見がありました。

<京都の特徴>
・美術館、博物館があり、町中にもギャラリーが点在していて、シネコンも充実。
・交通のハブで、驚くほど利便性が高い。新幹線で東へも西へも便利。伊丹空港まで50分、関空まで70分。
・生鮮食料品が安い。東京より2割は安い。鎌倉などとは大きく違う。
・平坦な町なので、市街地とその周辺の移動は徒歩か自転車でこと足りる。
・伝統的なものと革新的なものがハイブリッドで共生している。
・人口145万人の1割が学生。これは世界的にもまれで、独特のカルチャーがある。まさに多様性とヴァリエーションがぎゅっと詰まっている。

ほかにも住んで感じたメリットがあります。

<住んで感じた京都のメリット>
・驚くほど夜が暗くて新鮮。夜、働いたり活動したりしているのがばからしい。
・町の中心に川が流れ、どこにいても山並みが臨める。自然が身近に感じられる。
・地元の人向けには、実は安くておいしい飲食店が多い。
・たくさんのコミュニティが存在し、人と人のつながりにおいてスピード感がある。
・町がコンパクトでいろいろな個性があり、歩いていても飽きない(『もし京都が東京だったらマップ』参照)

京都は都会と田舎の中間の「トカイナカ」なんですね。田舎はどこでも排他的かつ保守的な側面がある。一方で『京都の平熱―哲学者の都市案内 』で鷲田清一さんが書いているように、京都は外から来た人がしのぎを削ってきた町で、進取の気性に富んでいる。移住者が引け目を感じる必要もないんです。

移住してからは、自宅の京町屋の1階をコミュニティスペースとして、「赤木かん子の世界文学講座」「知れば知るほど面白くなる京都の歴史と文化」「立川談幸師匠のオンライン落語コミュニティ」など、様々なイベントを行っています。コロナ禍で遅れていましたが、ブックカフェも11月に始動予定です。地元と移住者が交流する地域コミュニティの拠点になっていければと考えています。

■トークタイム 20:30~21:00
続いては、大野が聞き手となって、事前に参加者からいただいた質問にお答えいただくトークタイムです。

大野 まず移住後の出版社の仕事ついて教えてください。特に支障はないですか?
佐久間 ないですね。移住前は9名でやっていたのですが、今は京都に役員1名、埼玉に経理1名という体制。あとは外部に委託しています。出版業はもともとアウトソースビジネスですから、委託者と良い関係を構築しておけばリモートで支障はないです。2年前からZoomも使って仕事をしていましたから、コロナで世の中の働き方がこっちに近づいてきた感じです。

大野 完全に移住する前に二拠点生活をする人もいますが、佐久間さんの場合は?
佐久間 実は移住2年前に京都にワンルームマンションを借りて、毎月通っていました。移住目的ではなく、インバウンドが増えるなか京都はコンテンツとして商売になると思って人脈を作ることが目的でした。カミさんも年に何回か連れてきていたので、あとになってみると、移住のよい準備になりましたね。

大野 では移住に関していわゆる「嫁ブロック」はありませんでしたか?
佐久間 なかったですね。一緒に京都にきていたので、楽しい場所だからよいんじゃない?と。我が家は長年、吉祥寺に住んでいたのですが、町が大きく変わってしまって愛着がなくなっていたのも大きかったですね。ただ京都が「終の棲家」かどうかはわからない。10年間はいようと思っていますが、10年たってまだいたいと思ったらいようという感覚です。そのあたりは自由でいたんですね。

大野 京都以外の候補地はありましたか?
佐久間 佐世保と高知です。佐世保には縁があって年2回ぐらい行っていたのですが、海も山もあって住みやすそうだし、長崎空港から50分で行ける。ただ27万人都市で、文化的インフラが弱かった。目安は30万人以上ですね。高知はモダンで面白い町。羽田からの便も多い。ただ周辺は車がないと不便なんですね。

大野 なるほど。やはり京都が条件にあっていたんですね。町屋はどうやって見つけたのですか?
佐久間 たまたま京都市長と話す機会があり、京都移住促進の部署を通じて不動産屋さんを紹介してもらいました。商店街にも興味があったので、商工課経由でも紹介してもらい、15~16軒みて決めました。

大野 賃貸ですよね。家賃はどれぐらいですか?
佐久間 このあたりの相場は30坪で家賃35~40万円ぐらいなんですが、ここはオーナーさんが私の活動に共感してくれて、改装OK、10年契約、現状復帰なしという条件で、格安で貸してもらいました。ラッキーでしたね。

大野 改装にあたってはクラウドファンディングを活用されましたね。
佐久間 ここは2階建てで上下合わせると140㎡あるんですが、知り合いの建築家に頼んで見積もりをとるとなんと4,000万円!新築したほうが安い(笑)。そんなお金はないので、とりあえず1,000万円で2階と水回りを改修。市長にそんな話をしたところ、「クラウドファンディングを使えばいい」と提案されたんです。京都市がREADY FORと提携していたんですね。それでブックカフェを作るためのファンディングを実施して、400万円の資金を集めることができました。

大野 すでに様々なコミュニティ活動を行っていますね。手ごたえはどうですか?
佐久間 東京とは違うコミュニティができてきています。町が小さいので、すぐにつながれて、人間関係が濃くなったように感じます。まあ、悪いことはできないですが(笑)。

大野 では前半の最後に、京都移住希望者へのアドバイスをお願いします。
佐久間 せっかくくるのだから、地元との付き合いを面白がれるほうがいいですね。多少違う文化があるわけですが、それが面白い。ぜひいらしてください。

大野 ありがとうございました。

■21:05~22:00 懇親会
5分間の休憩のあとは、懇親会です。少人数のアットホームな雰囲気の中、活発な質疑応答が行われました。

Q 移住後、地元の人とうまくやっていくコツはありますか?
佐久間 知ったかぶりが一番嫌われます。京都のリピーターの中には、地元の人より京都に詳しい人もいるのですが、地元の人にも面子があります。「いろいろ教えてください」というスタンスであれば、仲良くしてもらえます。

Q コミュニティスペースでの活動はボランティアという位置づけですか?
佐久間 住まいとコミュニティスペースを別々に借りていたら、採算をとることは難しかったと思いますが、住まいとして借りている一部で、お金を生み出しているという感じです。ブックカフェがスタートしたら、家賃分を賄うことはさほど無理ではないと思っています。

Q 京都に移住したいのですが、夫の定年がまだ先です。いっそ定年前に移住して、夫には東京に通勤してもらうという手もあるでしょうか。
佐久間 東京に比べて格段に家賃が安いですから、ありえるのではないでしょうか。車で10分ぐらいいけば、駐車場付きの一戸建てが4~5万円で借りられます。定期代を出しても、東京に住むより安いのではないでしょうか。

Q 学生時代を京都で過ごしたので、最近の京都のインバウンドの多さにびっくりしていました。今はコロナで様変わりしていますが、またインバウンドが戻ってきたら町や住み心地に影響があるのではないでしょうか。
佐久間 コロナ前はオーバーツーリズムで、バスに乗っても大きなスーツケースをもったインバウンド客で一杯でひと苦労でした。今は静かでよいですが、GDPの14~15%を観光に依存している京都はシフトチェンジが必要でしょう。京都は外からの移住者が変えてきた町。今はチャンスです。ぜひ京都で新しい仕事を作っていくようなイノベーターに移住してもらいたいと思っています。お待ちしています。

佐久間さん、ご参加の皆様、ありがとうございました!

<トークの中で紹介された書籍>
「京都ぎらい」(井上章一/朝日新書)
「もし京都が東京だったらマップ」(岸本千佳/イースト新書Q)
「京都の平熱―哲学者の都市案内」(鷲田清一/講談社学術文庫)

<参加者アンケートより>
・京都での暮らしと60歳からの移住について具体的で分かりやすいお話をありがとうございました。
・移住を体現されている方の生の声は行動を起こす者にとっては大変参考になり、力にもなりました!
・移住先を選ぶ視点が勉強になりました。
・人脈と職種を活かしていると感じた。
・「京都は外からの移住者で町を変える」という言葉が印象的でした。京都という場でチャレンジしたい気持ちがますます湧いてきました。
・首都圏から見た地方に対する見方に学びがありました。
・排他的な印象がある京都だが、一歩踏み込めば深い付き合いにもつながるということ。
・参加者の質疑応答時間が十分にとられており、双方向的であった点はよかった。もっと議論ができたら、尚面白かったかもしれない。

アンケートにご回答いただき、ありがとうございました。今後のLIVEの予定はこちらをご覧ください。