「坂の上の坂 55歳までにやっておきたい55のこと」の著書もある藤原和博さんと、ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO大野誠一の対談形式でお届けするオンラインセミナー「『60歳からの未来』を旅する6日間」。7月7日(水)午後7時からDAY1『60歳成人説』が開催されました。当日は、60歳をこれからの時代の新しい「成人」ととらえる『60歳成人説』をキーワードに、今や「一つの山を登って下りる人生観では、人生を生き切れないし、死に切れない」という問題意識を提示しました。以下、その詳細をレポートします。なおDAY2「『現役』の未来像」は8月8日(日)午後8時開催です。詳細・お申し込みはこちら(Peatix)をご覧ください。

22歳から60歳まで働く時間と、60歳以降の自由時間はともに8万時間

佐藤(司会):みなさん、こんばんは。藤原和博さんが校長を務める「朝礼だけの学校」副校長の佐藤譲です。この学校は人生100年時代の処世術を学ぶ「生涯一貫校」。今年1月にスタートし、現在は10代から80代まで300人の方が入学されています。日本版ライフシフト社会の創造をミッションに掲げ、様々なコンテンツの発信やワークショップを展開するライフシフト・ジャパンの代表、大野誠一さんとの対話、とても楽しみです。ではお二人の自己紹介からお願いします。

藤原:こんばんは。教育業界のさだまさしこと、藤原和博です(笑)。本業は教育改革実践家です。リクルートで18年間、営業とマネジメントを経験し、40歳で退職。リクルート初のフェローという働き方を経て、成熟社会を豊かにしていくには、教育、介護を中心とした医療、住宅の改革が必要と実感。中でも教育の分野での改革に挑戦してきた、いわば社会起業家、イノベーターです。具体的には都内で初の義務教育の民間校長として杉並区立和田中学校の校長を5年間、その後、奈良市立一条高校の校長を2年間務め、コミュニティで学校を豊かにする、スマホを授業に持ち込んで授業を変革するといった取り組みをしてきました。これから6回、どうぞよろしくお願いします。

大野:ライフシフト・ジャパンの大野です。藤原さんとは私がリクルートに入社する前、大学5年生の時からの40年のお付き合いです。私のビジネスパーソンとしての基礎を作ってくれた師匠のような存在で、とにかく沢山の人を紹介してもらいました。リクルート入社後のキャリアとしては、最初の10年は営業や広報などさまざまな仕事を経験、その後の10年は人材系を中心に情報誌の編集長を務めました。その後、縁あってパナソニックに転身し、ジョイントベンチャーの立ち上げ、フリーランス時代を経て、2017年に書籍「ライフシフト」(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット/東洋経済新報社)にインスパイアされた仲間とともにライフシフト・ジャパンを設立しました。この6回のセミナーは、藤原さんにいじられながら頑張ります(笑)。

藤原:では本題に入っていきましょう。今回のセミナーのテーマは「『60歳からの未来』を旅する」。昔は人生が40年ぐらいで終わっていたのが、昭和の時代からずっと長くなってきて、まあそれでも人生80年ぐらいだったら、60歳で引退して、孫の世話をしたり、盆栽をいじったり、寂しくなったら犬を飼ったりしているうちに、10年、15年、20年の余生が終わるという理想があったわけです。ところが人生が90年、100年、120年になってくるとそうはいかない。計算してみると22歳ぐらいで就職して60歳ぐらいまで働く時間は8万時間ですが、60歳から現在の平均寿命まで生きたとしたら、自由時間は同じく8万時間にもなる。これはまさに人生を2度生きるということです。「60歳成人説」の所以はこのあたりにあります。

■人生は1回では生き切れない、死に切れない。「八ヶ岳型連峰主義」へ移行する

藤原:長寿というのは日本の予防医学とか教育とか衛生観念とか、さまざまな英知の結晶であって本当に素晴らしいことですが、幸せな生き方というものは変わってこざるを得ない。特に60歳以降については、35歳~45歳ぐらいの間に準備をしておかないと、ちょっと厳しい現実が待っているのではないか。では何を準備すればよいのか、どんな打ち手があるのか。それを明らかにしようというのがこのオープンセミナーの意図です。

まず問題意識をきっちり共有するために、僕が「坂の上の坂」(ポプラ社)で概念を提示し、「10年後、君に仕事はあるのか?」(ダイヤモンド社)でビジュアル化した、こちらの人生観の変化の図を解説しましょう。

人生のエネルギーカーブ(「10年後、君に仕事はあるのか?」より)

これは3世代の「人生エネルギーカーブ」の違いを示したものです。一番上は明治時代を生きた世代。平均寿命が40年だった時代には、坂の上の雲(日本の独立やロシアの打倒といった大きな理想)に向かって、20代、30代で山を登り、その後は余生を送ればよかった。昭和から平成を生きる団塊の世代も、この価値観を引きずって、人生でひとつの大きな山を登る「富士山型一山主義」で生きてきた人が多い。これは先ほども述べたように、人生が80年だったから、なんとかなったわけです。

しかし人生が90年、100年、120年にもなってくると、一つの山ではとても生き切れないし、死に切れない。そこで登場してくるのが、三番目の重層的に山を重ねていく「八ヶ岳型連峰主義」です。本業をやりながら、20代でひとつ、30代でもうひとつというように支線を出していき、それが山並みになっていく。最初の山を登っている最中に、次の山のすそ野をつくっておくんですね。

そしてこれは現実にはコミュニティで自分の居場所を作っていくことを意味します。だいたい一つの仕事をマスターして居場所ができるようになるためには1万時間が必要。1日3時間なら10年間、6時間なら5年間、それぐらいの時間がかかるので、35歳~45歳ぐらいまでには自分の時間割を自分でしっかり管理して準備をしていく必要がある。逆にしっかり準備をしていないと、すごく寂しい時代が何十年と続いてしまうことになる。以上が皆さんに投げかけたい問題意識です。ではこんな問題意識に、ライフシフト・ジャパンはどう応えようとしているのでしょう。

大野:藤原さんがいうように人生が長くなるということは喜ばしいことのはずなのに、ワクワクすることができないという人が多い。そこでライフシフト・ジャパンはワクワクできる人生へと変化を起こしていく支援をしています。例えば、2年前に「実践!50歳からのライフシフト術」(NHK出版)という本を出版しました。これは50歳前後までは普通の会社員だった22人が、そこからスタートして新しい山をどう登っていったのかを紹介した本です。いわば人生100年時代のロールモデルの紹介本で、そういう事例を知るだけでも勇気が湧いてきます。

またこうしたロールモデルを発掘して紹介していく活動の中で見えてきた共通項を「ライフシフトの法則」としてまとめて、ワークショップという形で展開しています。誰しも忙しい日常の中で、じっくり自分の人生を見つめる時間を持つことは難しい。そこで1回2時間×3回の非日常の時間の中で、また日ごろ接点のない多様なメンバーとともに、人生の長さを実感し、この先どのような山を登っていくのかを考える機会を提供しています。

この5月には自分の心の中にある、「変化を前に進める心のアクセル」と、「変化を押しとどめてしまう心のブレーキ」を可視化する「変身資産アセスメント」をリリースしました。

具体的にはこちらの20項目になりますが、例えば「心のアクセル」の「違和感センサー」。大きなライフシフトも、いまの生活への小さな違和感を自覚して受け止めるところからスタートすることが多いので、そういったセンサーが機能している方が人生に変化を起こしていきやすい。また「心のブレーキ」の「年齢バイアス」。これは「もうこの年齢だから新しいことはできない」といった考えを強く持っていると、変化を押しとどめてしまうことになります。こんな風に自分の「変身資産」を知ることで、次のステップに向けて動きやすくなっていくと考えています。

60歳からでも8つのチャレンジができ、4つ失敗してもよい

大野:ところで藤原さん、さきほど60歳から平均寿命までは自由時間が8万時間あるというお話がありました。そして何か1つのプロになるには1万時間がいる。ということは、60歳からでも私たちは8つのプロになれる、60歳からでもまさに「八ヶ岳」に登れるとうことですよね?

藤原:そうです。そして8つチャレンジするなら、4つぐらい失敗してもよい。1万時間かけたけど、これは合わなかった、ものにならなかった、そういうものもあってよいと思います。僕自身も、和田中の校長になるまでには、住宅会社に投資をしたり、介護の分野でチャレンジしたりといろいろやっていました。

大野:つまりどんどん張っていくことが大事ですね。何かこれはというものを見つけてから動くのではなく、先に動いて見つけていく。

藤原:そうそう。とにかく先が分からない時代。目の前に霧がかかっている中でゴルフをするようなものだから、まず打ち出さないと始まらない。打ち出し続けていれば、半分以上、失敗したとしても「現役感」は得られる。「現役感」はビジネスパーソンの幸福感の一番核となるものだと思います。では「現役感」とは何か。それは「前○○」「元○○」と呼ばれる人ではなく、常に手を出し、足を出し、チャレンジしている人ではないかと思います。次回DAY2では、そのあたりを議論しましょう。ありがとうございました。

大野:ありがとうございました。次回も楽しみです。

*8月8日(日)午後8時から開催の「オンラインセミナー/『60歳からの未来』を旅する6日間」DAY2「『現役』の未来像」のお申し込みはこちら(Peatix)から。