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PROFILE

海野千尋さん(NO.55)

・NPO法人ArrowArrow 事務局長
・NPO法人二枚目の名刺 事業管理統括
・自由大学キュレーター 「ネオ・ファミリースタイル学」
・任意団体ALTメンバー
・編集・ライター

■東京都在住、37歳。広告代理店/編集プロダクション、ITベンチャー企業での勤務を経て、32歳でライフシフト。現在は3つの団体にかかわりながら、自由大学でのキュレーターも務めている。ライフシフトのきっかけは東日本大震災発生時、その当時無職だったことも手伝って、「誰かを助けに行きたくても、自分が立っていられないと他者を助けられない」と実感したことにある。以降、それまでは仕事とプライベートは全く別ものと考えていたのに対して、「近しい人と向き合う時間」や「自分の学び」などを大切にしながら、自分にとっての「豊かさ」を得られる時間を大事に日々過ごしている。

■家族:夫・娘(3歳)

■影響を受けた本 『僕たちは編集しながら生きている』(後藤繁雄)
『ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方』(伊藤洋志)
『なんのための仕事?』(西村佳哲)

 

「何のために働くのか」自問自答の繰り返し

私は、広告代理店/編集プロダクション、ITベンチャー企業とメディア業界を渡り、「伝えたいことを、メディアを通してどのように伝えていくことができるか」ということを経験してきました。でも、2社目のITベンチャー企業に勤務しているときにバーンアウトしてしまったのです。このとき、「どんなに好きな仕事でも、働きすぎると体が壊れる」ことを体験しました。

2011年東日本大震災時、私は無職でした。そのとき、「誰かを助けに行きたくても、自分が立っていられないと他者を助けることはできない」と実感しました。加えて、「1つのことだけに時間と労力を傾けていると何か起きたときに身動きが取れなくなる」という感覚を得たこと、実際被災地にボランティアに行ったときに誰かのために自分ができることをするというシンプルな視点を持つことができたこと、様々な立場の人が集まりサポートする体験をできたこと、その全てが繋がって「何のために働くのか」を自分の中で再構築することとなりました。

発想を転換で、仕事のマネジメントが可能に

現在、私は3つの団体にかかわっています。女性の就労支援活動をするNPO法人 ArrowArrow、組織や立場を超えて社会にベクトルを向けて活動する人を応援するNPO法人 二枚目の名刺、女性が精神的にも経済的にも自立することができるような社会を目指す任意団体 ALTです。さらに個人のプロジェクトとして、自由大学での講義(ネオ・ファミリー学)も担当しています。

いずれも「何のためにこの仕事をしているのか」、「何のためにこの場所にいるのか」がクリアで、働く意味を自分の言葉に落とせている場所です。またこのように複数の場所で働く選択をした背景には、伊藤洋志さんの『ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方』という1冊の書籍との出会いがありました。例えば東京都内で月30万円を得ていく生活をイメージしたときに、1つの仕事で1ヶ月に30万円を稼ぐのではなく、自分が求められる仕事5つで6万円ずつ稼ぐ、という形でも良いのではないか?という新しい働き方が提案されていて、その柔軟な発想に共感したのです。

私自身、一番金銭的に稼いでいたのはITベンチャー企業で働いている頃でしたが、今振り返れば、当時はお金を得ても、それを消費できる時間もほとんどなければ明確な消費対象もありませんでした。一方で現在は、生活を回していくための必要金額が見えているので、それに向けて自分の仕事をどうマネジメントしていくかという視点で捉えられるようになりましたね。

家庭内サミットを開くことで、家族で舵を取ることができる

私がライフシフトを決めたとき、夫とはまだ結婚しておらず、共同生活を送っている時期でした。ある日「仕事を2つやろうと思っている」と申し出たとき、彼は何も判断や評価をしなかったのですが、私はその反応が一番嬉しかったです。

結婚してからは毎年サミットを開き、アジェンダを設定して、少なくとも来年1年間の具体的な働き方やインカムの状況、お互いの今の興味領域や新しく行動したことは何かなどを話し合う時間を設け、相互理解を深める努力をしています。複数の仕事の割合も年々変化していくため、「来年はこうなりそう」「こんな風に働こうと考えている」ということの相談や報告はサミットを含め、逐一行っています。今はまだ3歳ですが、いずれこのサミットには娘も参加するようになるでしょう。家族という船の動かし方を、乗組員誰もが考えていくようになる、という家族の仕組みを意識しています。

「裏表」がなくなったという自覚

現在は、「近しい人と向き合う時間」や「自分の学び」などを大切にしています。金銭的な対価を得ることの優先順位が必ずしも最大であり一番ではなく、自分に豊かさが得られる時間を大事にしていますね。

同時に、自分でも分かるのですが、ライフシフトしてから自分の「裏表」を作らなくなりました。それまでは仕事とプライベートは全く別もので、それぞれ見せている顔も話もコミュニケーションの取り方なども、だいぶギャップがあったのだと自覚しました。現在、私にとっての居場所は複数ありますが、どこにいても、そこで見せている自分が限りなく「素」に近く、話している内容や態度に変動がないという感覚を持っています。それは自分が生きていて、一番楽になったなぁと思える現象でもあります。

固定観念を覆すことが共通目標

人生100年と言われると「長いな…」という印象を持ってしまいます。でも、100年になったとしても、自分のマインドと身体とのギャップが出てくることは避けられません。そうなったときに、そのギャップをどのように埋められるでしょうか。テクノロジーで補うだけではなく、自分のマインドをどう生き生きさせ続けられるのか、その感覚はこの後の人生でも自分が錆びないようにアップデートし続けたいです。

目下、私の目標は今やっている仕事の全てに共通して「固定観念を覆すこと」です。「出産したら仕事から離れる」という女性の働き方のセオリーを打ち破りたいと思いArrowArrowで活動していますし、1つの場所のみで働くことを良しとする風潮を壊したいと思い二枚目の名刺で活動しています。家族にまつわる固定化したイメージを打破したく、自由大学でネオ・ファミリースタイル学という講義も続けてきました。暮らしの変化に合わせながら、今後も自分が感じる違和感や周りからの固定観念に窮屈さを感じたら、形態や場所を変えて、それを壊すために動いていきます。

「やってみて考える」ことが大事

ライフシフトには不安がつきもの、というイメージがあるかもしれませんが、実は私はあまり不安ではありませんでした。と言うのも、東日本大震災を経験したときに感じた「自分の命が今日消えたかもしれない」という恐怖に比べたら、自分がこれからなすことへの不安や心配よりも「やってみて考える」という考え方と行動に、いつの間にか変容していました。

ライフシフト自体は勇気が必要なことかもしれませんが、今はそれをトライアルとしてできる仕組みや出会える場所もたくさんあるかと思います。

今いる場所から一歩でも外に出て、知らないことを知っていく、ということを何度でも試すことはきっと自分の糧になるでしょうし、その外向きの表現と同じくらい「自分とは何者か?」と言う問いを立てて内省する作業は必要に感じます。「あ、私ってこういう人間なのか」というルーツが見えてくると、次のステップが見つけやすくなるかもしれません。