《SessionⅡ》中根弓佳さん(サイボウズ:執行役員 人事本部長 兼 法務統制本部長)と考えるKX(カイシャ・トランスフォーメーション)5つの課題

人生100年時代にふさわしい「人と会社の新しい関係」の探索・提言を行っている「カイシャの未来研究会2025」(主査/ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO大野誠一)は、2025年3月より10回のシリーズセッション『昭和100年。「日本のカイシャ」はどこへ行く?~KX(カイシャ・トランスフォーメーション)5つの課題』を開催中です。
昭和100年となる2025年までに、昭和モデルの経営から脱却できない「日本のカイシャ」を、人生100年時代の会社=「“人”が主役の会社」へと変えていきたいと6年余にわたって活動してきた研究会の集大成となるセッションです。
毎回、研究会コアメンバーの一人がメインスピーカーとして、持論や想いを展開していきます。SessionⅡ(2025年4月14日開催)のメインスピーカーは、中根弓佳(サイボウズ:執行役員 人事本部長 兼 法務統制本部長)。「チームの生産性とメンバーの幸福の両立」というポリシーを掲げ、「100人100通りのマッチング」を目指しているサイボウズの中根さんとともに、“人と会社のつながり方”の未来を考えました。
<開催概要>
開催日時:2025年4月14日(月)12:00~13:00
メインスピーカー:中根弓佳さん(サイボウズ:執行役員 人事本部長 兼 法務統制本部長)
ホスト:大野誠一(ライフシフト・ジャパン:代表取締役CEO)
野田稔(明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科:教授)
豊田義博(ライフシフト・ジャパン:取締役CRO)

<このセッションのエッセンス>
開会の背景と前回アンケ-トの振り返り
KXシリーズ第2回セミナー、開催。人生100年時代における企業変革を探求。LifeShift Japanの大野氏・豊田氏が登壇し、日本企業の未来像を模索。前回(3月)のセミナーでは、野田先生を中心に「緊急避難の常態化」や「利己的合理主義」がキーワードとして提示され、会社というものの存在意義が問われた。社会構成主義的アプローチを基軸に、新たな組織のあり方を議論。
サイボウズの組織実験-人事制度の再構築
中根氏が登壇。「チームワークあふれる社会」を目指す企業理念を披露。”100人100通り”の働き方を追求し、個人の主体性と組織の生産性の両立を実験。フェーズ2からフェーズ3への移行期における組織変革の苦心を赤裸々に語る。チームワークの本質を、上下関係ではなく、対等で創造的な関係性として再定義している。従来の硬直的な評価システムを根本的に見直し、個人の市場価値と組織の目的を柔軟に融合させる新しいアプローチを採用。金銭的報酬だけでなく、個人の成長、学習機会、チームへの貢献度を総合的に評価。
「100人100通りのマッチング」という概念を通じて、個々人のキャリアと組織の戦略的ニーズを調和させる。
テクノロジーとの共進化
野田氏が注目したのは、ソフト技術とハード技術の融合。組織開発におけるAIの可能性、デジタルトランスフォーメーションによる働き方革新。AIをチームの一員として捉え、組織の価値観やカルチャーを学習させる「AIのオンボーディング」という革新的な概念を提唱。デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて、コミュニケーションの質と効率を劇的に向上させる戦略。テクノロジーを単なるツールではなく、組織の進化を促進するパートナーとして位置づけている。
関係資本の再構築
個人の資本と組織の構造資本を再定義し、チームとしての生産性と個人の幸福を同時に追求。オープンな対話と議論を通じて、信頼関係を深め、多様な個の力を最大限に引き出す仕組みづくりに注力。「自律分散」から「関係性重視」へのパラダイムシフトを実践している。教条主義に陥らない柔軟な組織変革の重要性を強調。個人の主体性を尊重しつつ、チームとしての成果を追求。1人ひとりが生き生きと活躍できる組織づくりへの挑戦を共有。
社会実験としての組織変革
サイボウズの組織変革は、単なる企業内の取り組みではなく、新しい働き方と組織のあり方を社会に提示する壮大な実験。個人の主体性、多様性、成長可能性を最大限に尊重しながら、チームとしての成果を追求する革新的なアプローチを継続的に試行錯誤している
<このセッションのキーワード>
# KX(会社トランスフォーメーション)
# 社会実験
# チームワークあふれる社会
# 自律分散的な組織
# 対話と議論
# 100人100通りのマッチング
# 個人の主体性と組織の生産性の両立
# AIのオンボーディング
# 教条主義に毒されない
#中根弓佳
# ライフシフトジャパン
<参加者の声(アンケートより)>
→変化を追い求める覚悟と継続の姿勢に共感。
→世代間の価値観ギャップへの配慮。
→従来の会社観の再定義。
<アーカイブ映像(フル動画)>
<全文テキスト>
【Sessionスタートの背景及び「KX」メソッドと前回の振り返り】
大野:皆さんおはようございます。 ライフシフト・ジャパンの大野です。
2回目となりましたKXのシリーズセミナー、これからスタートします。ちょうどお昼時の時間で、順次入ってこられる方がいらっしゃると思いますが、よろしくお願いいたします。
「昭和100年を迎えて日本の会社はどこに行く」こんなテーマでこのシリーズを今年、先月3月にスタートし、年末まで、基本的には月に1度、このお昼時に進めていこうと思っております。ぜひ年末までお付き合いいただけると嬉しいです。
このシリーズは、私と、ライフシフト・ジャパンの豊田さん、それから明治大学の野田先生の3人で、ナビゲーションを進めてまいりたいと思います。 よろしくお願いします。
豊田:はい、よろしくお願いします。
野田:よろしくお願いします。
大野:前回、野田さんを中心に1回目の立ち上げ会をやりました。いろいろなアンケートのコメントをいただいております。野田さんからお話がありました。
「緊急避難の常態化」が、この失われた30年の一つのポイントだと。「利己的合理主義」というキーワードもプレゼンしていただきまして、会社がそもそも何のために存在するのか。もしかすると、この30年間、そういったところを日本の会社は見失っていたのかもしれないと思います。
その一方で、加害者みたいな犯人捜しをしてもしょうがない。特に加害者がいたわけじゃないんだよねと。構造的にそういうふうにならざるを得なかった部分も結構あったね、そんなお話があったと思います。
詳しい話は前回のアーカイブをまた見ていただければと思いますが、「KX」という話をするとき(のポイントとして)「社会構成主義的」な見方や、「コンヴィヴィアリティ」、「二つの分水嶺」もご紹介させていただきました。
私達は「青臭い話を真剣にやろうよ」ということでこの会を始めて、いろんな議論を積み重ねてきたわけですけれども、1人ひとりの想いを大切にした、新しい21世紀の、新しい会社のあり方を模索してきましたが、その一つのキーワードとして「KX(=会社トランスフォーメーション)」という話をしてきました。
前回、野田さんからプレゼンいただき、このようなアンケートをいただきました。
手応え感というか、野田さん、いかがでしょうか?
野田:(手応え)めちゃめちゃありますね!伝わってるなという感じを受けております。
ただ、ここに来てくださる方には、伝わるんですけども、大部分の日本人はここに来てくれていないので(笑)。そこにどうやって伝えていけるか、皆さんにもお願いしたいなと思いました。
大野:はい、ありがとうございます。事務局的にコントロールしてもらっている豊田さんは、前回の手応え感というか、このアンケートを見ての印象は、いかがですか?
豊田:はい。野田さん同様に、いろんな形で共感していただいてる、ずっとお付き合いいただいてることで、より深まっているというような声がある。その一方で、ちょうど今見ていただいてるコメントの下の2つがそうだと思うんですけれども。
「いろいろ悩ましいけれど、本当にちゃんと変われるんだろうか」と。「個人が目覚めても、受け止めている会社がなかなか変わっていない」みたいなことが、「静かなる退職」などに出るのかもしれない。ちゃんと変われるのか変われないのかが、まさに「別の意味での分水嶺」にいるのかということも、改めて皆さんのコメントから感じています。
大野:はい。ありがとうございます。
そして(次のページですけれども)今日は2回目ということで、この研究会のコアメンバーを立ち上げからずっとお付き合いいただいております、サイボウズの中根さんをゲストに進めていきたいと思います。 中根さんよろしくお願いいたします。
中根:中根です。よろしくお願いいたします。
大野:今日はね。中根さんにぶっ飛ばしていただこうと思っていますので。楽しみにしております。よろしくお願いします。
大野:では、「KX」今日が初めての方もいらっしゃるかもしれないので、その考え方のフレームを、豊田さんから少しご紹介をしていただいてから、中根さんの話に入りたいと思います。豊田さん、お願いします。
豊田:私達が、この「KX」を掲げて活動している中で、「人的資本経営」という新しい潮流が立ち上がってきました。 「人生100年時代」の「人的資本経営」のありたい姿は、「”人”が主役の会社」。まさに、「1人ひとりが人生の主人公として学び続け変わり続けることができる会社」じゃないかと。それを実現する上で、今掲げている5つの視点 ①一人ひとりが、そのままの自分を解放している ②多様な属性、多様な価値観を持った仲間に溢れている ③部署、社内外の枠を超えたつながりから、共創が生まれる ④一人ひとりの想いや好奇心が事業創造や組織変革の起点となる ⑤そして一人ひとりが学び続け、変わり続ける機会に溢れている、こういうことがきちっと内在することを目指そうではないか、そういう議論をしてきています。

それを実現する上で、まず人生の主人公として個人が目覚めると 同時に、”人”を主役として組織が進化していく、そういうシナリオを実現していこうじゃないかと。 この組織の進化を実現していくプランとして、「KX」というコンセプトを掲げています。「KX」とは、一人ひとりが、自身の職場や仕事環境を、つながりの再創造を通して生まれた仲間とともに、さまざまな道具を活用しながら、「”人”が主役の会社」へと変えていく組織進化のプロセスです。それは4つのメソッドで表われています。この4つのメソッドを使って変えていこうと。

まず、①ありたい姿を見出す。これ、後ほど詳しくご説明します。 そして、②変化のサイクルを回す。実は、「変わり方」には一つの型があるだろうと。一人ひとりが心を解き放って、冒険を始め、想いが溶け合って未来が言葉になり、人が変わってくる。そういうサイクルを旅の仲間と交わっていきながら、なおかつ「KXを推進する道具」、いろんな道具を活用しながらやっていこうではないか、このようなメソッドを体系化してるのです。
このありたい姿を見出す5つのキーワード。先ほど一人ひとりが、そのままの自分を解放している、など5つの視点をお話をしましたが、それぞれを、”わがまま”セントリック、「ワガママ」じゃなくて「我がまま」、”旅の仲間”バラエティ、”つながり”リデザイン、”想い”ドリブン、”機会”インフィニティ、この5つのコンセプチュアルな言葉に託しています。 さらに、この5つそれぞれの言葉を体現していく上で、5つのブレークスルーツールを掛け算すると、全部で25にブレークします。例えば、左を読んでいただくと、「自分の”わがまま”を解放できていますか?」とか、「何でも語れるオープンな場ありますか?」などなど。この25の問いかけに関して、自分自身が、どこに引っかかって、どこを実現したいか、そんなことをイマジネーションしていただきながら、一人ひとりが自分自身のありたい姿を見出していこうと。
豊田:
こんなカードでイマジネーションをするような「道具」を、私たちも作っているんですが、前回、メインスピーカーの野田さんはこの3つのカードを選ばれたんですね。
「未来の話、青臭い話をしていますか?」。「青臭い」これはまさに野田さんのキーワードですし、「妄想」も、野田さんは趣味ということを公言してはばからないので。「ひとの人生に口出し」これはまさに、野田さんが道具として、いろんな会社の中でやられてるということですね。
豊田:今日ゲストにお迎えしている中根さんにも、同じように3枚のカードを事前に選んでいただいています。
1枚目が、「”わがまま”セントリック」のキーワードで、自分の「『人生の主人公は自分』だと思えていますか?」 そして「”想い”ドリブン」の中核である「会社とは、”想い”で繋がっていますか?」 そして「会社の”想い”をみんなで創っていますか?」。 これが、中根さんが大切にしたい3枚ということなんですが、今日、中根さんにお話いただくことにも、繋がる部分です。
この3枚を、中根さん、どんな背景で選んだか、から、お話を始めていただいてもいいでしょうか?
中根:はい、ありがとうございます。
中根:この3枚、 まさにこれから皆さんにご紹介するサイボウズの壮大な実験が、ここにも出てるかなと思うんですけれども。まずは、「会社さん」というのはいないので、それぞれの人が、「幸せの価値」とか「物差し」を、他人の物差しでは計れないっていうことがすごく大事だなって思っています。それを選んだのが、「人生の主人公は自分」というところです。
一番右端の「会社の”想い”をみんなで創っていますか?」は、「会社さん」は社長が想いを作るんじゃなくて、社長も1人の言い出しっぺで、その”想い”に「指止まりたい」「そんな感じのことを私も僕もやりたいと思ってるんだよ」とそんな”想い”で繋がったのが会社だと思っています。その”想い”に支配されないのが大事だと思ったのが、これ。
あと、真ん中(「会社とは”想い”でつながっていますか?」のカードを選んだ理由)は、チームとしての”想い”と、「自分が主人公」っていうところが一致するならそのチームにいたらいいし、一致しないなら別に違うチームに行けばいいじゃん、と思っているからです。ここの繋がってるっていうところで、何かお互いのハッピーが作れるかどうかってここなんだなぁって。
【サイボウズが創りたい「いいチーム」】
豊田:そんな3枚を選んでいただいた中根さんに、今日の「KX」のど真ん中のコンセプトである「人と会社がどんなふうに繋がっていくのか」、サイボウズの中でずっと実験を重ねてきて、今後も実験を続けていく(中根さんの)「ど真ん中のテーマ」ではないかと思います。 中根さんにお時間を差し上げます。よろしくお願いします。
中根:はい。よろしくお願いいたします。では、私の方から50分ぐらいで、今の私達の組織の進化、「社会実験」のお話をご紹介したいと思います。
私の自己紹介、さらっといきます。 サイボウズで人事とホームの責任者をしております。 サイボウズに入って、人事をやって10年ちょっとになりますが、人事の仕事以外にも地域のコミュニティに関わったり、B.LEAGUEのお仕事をしたりしています。
今度は「会社さん」の話をします。「会社さん」は、サイボウズグループウェアの開発販売運用を行っておりまして、昨年時点で大体1400人弱ぐらいの仲間がおります。私達がその「会社」としてどんな想い、我々が何を目的にして、ここでチームとなって繋がっているか?というところでいきますと、グループウェアを使って販売する、それを通じて、私達は「チームワークあふれる社会を作りたい」と。こう思っている仲間が、たまたま今集まっているのが、このサイボウズ株式会社だと思っています。それが、「グループウェア」というツールの上で、「チームワークあふれる社会をつくる」目的が、効率的で効果的に達成できる。そこで、そのグループウェアを使った仲間たちが満足して学習できる。その先に「チームワークあふれる社会を作る」っていうことに繋がればいいなと思って、活動しているチームです。
つくりたい世界観は、Purposeが、「チームワークある社会をつくる」なんですが、「チームワーク」「チームワーク」って言ってるんだけど、「チームワークって、いろんなチームあるじゃん。 どんなチームが私達の理想のチームなんだろう?」というのを言語化したのが、このCultureの部分になります。 「理想への共感」、まず、まさにここが、”想い”で繋がってるっていうことを大事にしよう、というのが1つ目。2つ目が、「多様な人たちがいます」と。この「多様性っていうのを互いに生かし合いましょう」と。
3つ目が、「チームで、同じ目的に向かってワークすることによって良い効果、成果を出そうと思ってるんだけれども、そのチームワークの成果を出すときに一番大事なのって人間の信頼関係だよね」と。「信頼関係の中で一番大事なこと」っていうのは、「嘘をつかないとか隠し事しないとか、そういうことだよね」って。 それはオープンな信頼関係を作っていく上で大事だよねと。さらに効果的に効率的に「チームワークあふれる社会を作る」「グループウェアが売れる」ということを考えると、隠し事をしていると非効率で仕方がない。常に人を疑いながら、本当かな?とか、何か隠してないかな?って言わなきゃいけない。「非効率」なこともあり、公明正大に信頼関係を築いていきましょうと。
4つ目に、一人ひとりには「主体的な個」というのがあります。 この「主体的な個」をすごく大事にしましょうと。自分が、「主体性」を持てないのであればこのチームにいる意味がないので、「主体性を持ってこんなことがやりたいよ」「こんなチームで一緒に仲間と関わって、より大きな成果を出したいよ」と、一人ひとりが自主的・自立的であるということを大事にしましょうと。「自立的になれない」「自主的になれない」というのであれば、このチームじゃない方がいいかもしれないねと。そして5つ目に、せっかくいろんな人が集まってるんだから、この対話と議論によって一緒に良い答えを導いていきましょう。こんなことができるチームが、我々にとって良いチームだよと定義をしました。

チームの生産性、チームとしての効果、「会社さん」の効果も高いし、一人ひとりの満足度も高い。この両方が目指せている状態が「ワクワクするチーム」であって、「チームワークの成果が高いチーム」と言えるのだろうと思っております。
ここで、ご紹介なんですけど、「今サイボウズどんな実験してんの?」と言いますと、この赤枠で囲ったところの「フェーズ3」ぐらいに来てると思っています。「フェーズ2」の終わりから「フェーズ3」で何があるかと言いますと。サイボウズは仲間が増えてきました。仲間が増えたときの一つの恐怖感として、「つまらない大企業になりたくない」と。 トップが決めたものをそのまま歯車としてやるみたいな会社ではなくて、一人ひとりが主体的にやりたいということを大事にしながら、みんなで同じ目標に向かいながら、自分がやりたいと思っていたことがチームとしても実現されていく、かつ自分の幸せも実現されていくという世界を作りたいと思っていました。

【組織変革の苦心から現在のステージ”100人100通りのマッチング”へ】
ちょうどコロナの前にこの「ティール的」な組織、「自律分散的」な組織によって、分散しない「中央集権的」な組織ではなく、一人ひとりの個が主体的に意思決定できる組織を進めていこうと考えていました。 考えていたんですけれども、やっぱり、どんどん人が増えてきてさらにコロナでリモートワークが進んだということもあって、「自律分散的」にはなったんですが、「分散」というところが大きくなってしまったという反省があります。
それによって、せっかくチームで、1人ではできないことをチームで大きな成果を出すためにやって行こうと言っていたのに「大きな成果になっていない」とか「繋がっていないと」とか、一人ひとりが主体的に動けてはいるんだけれども、大きな成果にできてるかというと、まだまだ私達にはポテンシャルあるんじゃないか、ということで、2023年ぐらいから変わってきて、「フェーズ3」に入ってきました。
ここで考えたことが、「自律分散」や「我がまま」を私達も大事だとしてきたのですが、若干この”個”の方に寄り過ぎました。”個”の方に寄りすぎると、結果としてどうなのかというと、本当は一人ひとりの個人がサイボウズっていうところに入って、そのチームにジョインして、このチームの中で自分がやりたいと思っていた、同じような目標を持っていた仲間と協働して成果を出していくのだけど、この成果が小さくなっちゃうと、ひいては「自分としての成長」ややりたかったことが、実現できてないことになってしまう。それってどんなところから来るのかな?と思うと、この「自律分散」という言葉が誤解を招いたり、この”フェーズ1”から”2”に行くときに、「100人100通りの働き方」というのを出していたんですけれど、この「100人100通りの働き方」が、「働き方を大事にするんだ」ことだけにフォーカスして捉えられてしまったというところにあります。 それで、ここで変わりました。
先ほどご紹介した「チームの生産性とメンバーの幸福の両方を両立させましょう」ということへ。そして、働き方というところからもう少しレベルを上げて、”100人100通りのマッチング”という働き方は一部分でしかないので、どんなことにこのチームでチャレンジしたくて、それをどんな条件で、どんな時間・場所で実現したいのか、それが「チーム」であるサイボウズがやりたいと思ってやるべきだと思ってる仕事と、うまくマッチングを考えていきましょうと。
”100人100通りの働き方”から、”100人100通りのマッチング”という形に変わってきました。つくりたい世界観は変わっていなくて、チームの生産性と両立する”100人100通りのマッチングを作る”と。レンガ型ではなく、作りたい世界観が作れる。一人ひとりの幸福、学習とか成長が、そのチームの中でできるという、こんな石垣を組み合わせながらチームとして強いお城を作っていこうぜ、とそういう考え方に変わってきております。一旦ここで、現在のステージと社会実験を、ご紹介。ここまでとします。
大野:はいありがとうございます。中根さん、今の「できごと」っていうシートを、画面共有しておいていただいて、お話してもいいですか?
中根:かしこまりました。
【サイボウズの社会実験】
大野:おそらくここは、野田さんが、聞きたいことがてんこ盛りなんじゃないかなと。
まず、サイボウズという会社の存在そのものが、もう、「壮大な社会実験」だと僕はずっと思っていてですね。 特に、この「第2フェーズ」から「第3フェーズ」に変わっていく部分というのは、ものすごく、僕たちが「KX」で言っていたことを、まさに壮大に実験をして、サイボウズが組織側とのバランスを取っていく、非常に微妙なタイミングだったのかなと思うんですが。
中根:そうです。 はい。
大野:野田さん。このシートを見ながら、この「フェーズ2からフェーズ3への変化」みたいなところで、いくつか一番聞きたいところがいろいろあると思うんですが、いかがでしょうか?
野田:はい。 ちょっとこれを言うと、サイボウズの方々に失礼に当たってしまうのかもしれないな、とは思うんですけれども。一番、僕が今回の変化を拝見して、勘ぐったのは、まさに人数がどんどん増えてくるにしたがって、中に「未成熟な人」が入ってきちゃって権利主張ばっかり。前回の話で言う”利己的合理性”でしか動かないような人が、「ここの会社に行くと、オレもフリーライターできんじゃねーの?」っていうような。悪く言うとですよ。
とか、できるだけ自分の主張をするけれども、他人のためにあんまり動きたくないな、とかいうような、僕の言葉で言うと「未成熟な人たち」」が、ある一定数、混じり込んできてしまって、それが全体に非常によろしくないハレーションを起こしているんじゃないだろうかって勘ぐったんですけど。
中根:それは正解かっていうと、どうでしょう。その要素は否定できないと思ってます。
ただ、そうなった要因もあると思っています。実は、私達、大量離職して人の採用が非常に難しいときに、どうやって仲間を集めていくかという歴史をずっとたどってきて、今があるんです。この歴史をよく知ってる人と、この「ティールだ」「自律分散だ」と言っていたときに入社したメンバーとでは、理解が少し違うんです。 この2020年に、20年から22年って、メンバーが13%から15%ぐらい増えてきました。2020年に入社3年以内のメンバーが40%を超えたんです。「未成熟」というよりも、おそらくこの背景の制度とか、風土とか、こういう理想にしてるんだっていう背景の理解が不十分というところがあったんじゃないかと思うんです。人事の反省としては、理解が不十分な人たちに対しての説明とか共感を、もう少し丁寧にできる場や、”言葉づくり”をしておけばよかったのかなというのはあります。
野田:なるほど。わかりました。 実は、私が今おります明治大学のこの研究科も、今、大変多くの方に応募していただいてるんですけど、実は定員割れギリギリになったことが今から10数年前にあって、それを経験したことのある教員とそうでない教員の間に、結構「意識差」があるんですね。
中根:なるほどですね。
野田:はい。「なまっちょろいこと言ってたら、また泣きを見るぞ~」みたいな、古い人間もいるんですけれども、そうでない教員たちはあっけらかんとしちゃっていて。そこがすごく甘く見える。ですからそれはその人たちが「悪い」とか、「未成熟」というかというのではなくて、「経験値の差があるな」と思いました。
中根:そうなんです!それもあって、”100人100通りの働き方”から”マッチング”っていう言葉に変えました。ちょうどこの辺りで、人事制度がなぜこれになったのか、この制度を作ることによってどういう世界を目指してるのかというのを、できるだけ言語化していくことにチャレンジしてます。
言語化して「理想の世界」だけを描いてもなかなかわからないので、失敗例も事例としてつくっていくようにしたんですね。 もちろん、個人の名前は出せないので、共有の仕方は注意を払わなきゃいけないんですけれども。こういう失敗があって、この制度にしています。
制度をどんどん増やしていたんですが、増やしたものを無くしたりもしているんです。
例えば、この「育自分休暇制度」というのを廃止したんですよ。これは「自分を育てるために6年間休んでまた戻ってこられる」という制度で、我々が、採用が難しかったときに作った制度です。今はというと、会社側・チーム側もすごく変化していますし、本人側も変化しています。変化するにも関わらず、「どう変わるかわからないけれども、必ず3年後にこのチームに入れますって、そんなのわからなくない?将来のマッチングを確約するというのは、一定の1年とか1年半とか、新卒の方だったらアリかもしれないですけれども、そうじゃないのに6年間もコミットするってなかなか難しいよね?」というので、やめました。ただ、もちろん出たり入ったりは全然アリなので、「今こういうところでいいマッチングが作れるんだって!もうぜひウェルカム!戻ってきて!」みたいなそういう世界観に変えていきたいなと思って、やめたっていうのもあります。
野田:素晴らしい!会社自身も進化してますからね。世の中も変化してるわけだし。
やっぱり、制度そのものというのも、ある種の効果みたいなものも、変わってくるので。僕もね、思ってたの。辞めるんだ~とか、復活もあるんだ~とかって。それをちゃんと書くということが素晴らしいなと思いながら見ていたんですけど、やっぱりそうなんですね。
中根:はい。そうなんですよね。
【現段階:評価報酬のレンジイメージ形成への取り組み】
野田:この「レンジイメージ形成」っていうのは?ここ、よくわからなかったんですけど。
中根:評価です。評価に関して、いろいろと変わって来てるんですけれども。細かく分けた「給与レンジ」と、「職能レンジ」がないんです。 それをつくった頃もあったんですけど。なぜやめたかというと、IT企業で、いわゆるキャリア採用をたくさんやっていくということもあって。社内で作った「社内のロジック」と、「市場のロジック」が合わないときが出てきます。特にエンジニアだと市場が変わるので、それを社内のロジックに全部当てはめようとすると「こんな金額じゃ、人、採用できないよ」とか「いくらで採用したいのに、(会社の)中の定義と合わないじゃん」みたいなことが起こってくるので、一旦やめましょうとやめました。
やめたんで、働き方や給与、お願いする業務と合わせていくら、と提示するようになってきたんですけれども、今度、人が増えてくると、大体これぐらいのアウトプット、貢献度がある人っていうのは大体いくらぐらいのお給料を提示できるねというのが、わかってくる。できてくるんです。それが大企業さんでいう「給与レンジ」「給与テーブル」なのかもしれないんですけれども。私達にもあります。
一方で、それを市場によって、その「レンジ」の「テーブル」というのを変えていく必要もあります。「テーブル」を変えていくことによって、自分はこんな貢献をしたらいくらぐらいもらえるんだということもわかるし。今のレンジがわかればわかるほど、将来、例えば35歳でサイボウズだったらいくら、自分は目指していけるな、ということもできてくるので。細かい「企業テーブル」と「評価テーブル」があるわけではないんだけれども、「こういう仕事でこれぐらいのことができる人には、これぐらいの給与を提示することができます」というようなイメージを作って、オープンにしています。そこでマッチするかどうかを自分で考えていくという感じですかね。
野田:ありがとうございます。その意味でこれも多様なマッチングを組織ぐるみで頑張ってるみたいなところなんですね。
中根:まさに、そうなんです!
多様なマッチングの中で、多分ユニークだろうなって思うのは、「やったことを書きます。それに対して上司が評価します。はい、あなたの給料いくらです」ではなくて、「自分がどんな業務をやり、どんな働き方で、いくらぐらい欲しいです」「今欲しいです」なのか、もしくは、それこそ「35歳でいくらぐらいを目指したいです」でもいいので、それを全員が書くようにしてるんですよね。それでこのチームとマッチしていくか、マッチしないんだったら、どこを頑張らなきゃいけないのか、自分はこのチームを選択していくのか、選択していかないのか、ということにも向き合えると思うんですよね。
野田:ありがとうございます。とてもよくわかりました。はい。
豊田:今中根さんが仰っていた、まさに一人ひとりが、自分は有形のいわゆるおカネ、金額だけじゃなくて、どういう環境が欲しいとかということを含めて宣言をするっていうところが、サイボウズのど真ん中で。働き方はここ近年10年ぐらいで、すごく社会の注目が集まったので、サイボウズも、割とよく言語化していたんでしょうけれども、元々それは真ん中ではなくて、一部分だったわけですよね?
中根:そうですね・・・ただですね。多様な働き方が可能なチームを作っていくと、結構、豊田さんのおっしゃる通り、「評価」とか「報酬報酬条件設定」というのは肝だなと思いました。この「報酬制度」を柔軟にできなければ、「働き方を柔軟に」は難しいと思います。「働き方」だけをやろうとすると、限界がくると思いますね。 うん。 肝だと思います。
【おカネで採用した人は、おカネで出て行く】
豊田:その辺のコミュニケーションができるimatuarityというか、まさに野田さんが言ったみたいに「未成熟な人」だと、その会話はあまり成立しなくなっちゃうんだろうと思うので。そういうある種の条件、コミュニケーションを、それこそ「会社様」が上にいるんじゃなくて、目線をフラットにできる、やっていくことがこの会社の基本、。まさに、「行動規範」みたいな部分が真ん中にあることで、ある種、「未成熟な人間」を「未成熟じゃなく」していくことができるんじゃないかなと。
中根:おっしゃる通りで。例えば、今年の2025年の評価でそれを書きました。それだけではなく、その機会があるってことは、「自分はどうしたいんだろう」ということに向き合わなきゃいけないんですよね。
例えば、「お給料が700万です」と。700万というお給料に対しての考え方は、人によって様々です。「700万ですごく私は幸せだ!」という人もいれば、「いや、これだと不満だ」というケースもあると思うんです。この「700万」の意味を自分で考える機会に絶対になっていると思いますし、そのとき、「チームの生産性がメンバーの幸福」と言っていると、自分の幸福だけではなく「チームとして私がここにいる意味は何だろう」「700万でこのチームに対しての貢献価値を出せているんだろうか」ということも同時に考えることができると思うので。
こう繰り返すことによって、「自立性が高まる」とか、「自分のものさし、価値観の物差しと向き合う」っていうことになってるのかなと思います。
豊田:そうですよね。いろんな会社で、普通にMBO的なことをやったり、3年後どうしたい?だとかいうキャリアシートを書くことは、どんな会社も最近やってると思うんですけども、なんていうか、ほとんど魂がこもらないようなものになってしまう。
意外と、そのおカネの部分は、従業員側から言わせるっていうこと自体が、ご法度・・・その辺、どうなんですか?本当は、おカネそのものを意識させること、実はとても大切だなと、サイボウズの話を聞きながら、改めて思うんですけれども。
野田:いや、もう、とても重要です! うちの大学では今、春学期で『HRMG育成論』というのを、僕が展開してる最中です。ちょうど今、「評価」と「処遇」の話をしてるところなんですけどね。
おカネって、 昨今、非常に厄介だなと思って。いわゆる「市場価値」という考え方が出てきているのと、特に、ある一定の職種、特に金融系なんかはもう青天井で、「億」なんていうのが平気で聞こえてくるんです。そうすると、おカネって何なんだろう・・・おカネって、その人を表してる価値なんだ、と思っちゃった瞬間に、また話が変わってくるわけですよね。
なので、これを我々にとって、というよりも、「自分にとってのおカネって何なんだろうか」ということをしっかりと考えてすり合わせていくという行為が改めて必要になってくる。これあんまり日本人が考えてこなかったというか、「カネのことでとやかく言うな」みたいな変な文化もあったんで、余計いろんなバイアスのかかってる人がいっぱいいて。
おカネの話をすることが、めちゃめちゃ嫌悪感を感じるような「カネのことなんか言わないんだ!カネなんかどうでもいいんだ!」って言い過ぎるタイプと、「いやそうじゃないだろう!カネこそがその人の価値だろう!」という「どっちの方が未熟だ?」と思ってるんですけれども。自分なりの折り合いみたいなものを、ちゃんと考えてないからこそ、いろんなハレーションが起きてるんだと思っています。
ちょうど、私は講義で今それをやってるところなんですけどね。(学生に)考えさせてるところなんですけれども、それはどういうところに落ち着いても構わないと思うんですよ。人によって。どうしてもその”おカネ人生観”でいきたいんだったら、”おカネ人生観”になるような人生を選べばいいわけで。
それは、もしかしたら、サイボウズじゃないかもしれないですよね?もう、バリバリの外資系金融かもしれないし。いや、そうじゃないと。「おカネのことを考えたことないんです」って言うんだったら、もう、これもまた、サイボウズじゃないかもしれない。民間企業じゃないかもしれないよね、みたいなことになるわけで。それぞれの、そういう意味での”おカネ観”と、その”働き観”のマッチングはすごい大切な話だと、私は思っています。
中根:うん。 本当、そうですね。 非金銭的報酬に対しての自分の価値で、その「”金銭報酬”と”非金銭報酬”も含めた自分の理想とする報酬ポートフォリオ」みたいなのがあるんだろうなと。 それを自分で想定できるかどうかっていうところかと思います。
野田:いずれにしても、おカネの話をしようよ、っていうふうに僕はやった方がいいんだろうと思っていて。「対話」と「議論」とありましたけれども、他の人はそんなふうに考えてるんだ・・・みたいなね。そういうの大切だと、僕は思ってるんで。
中根:そうですね。「市場価値」とか「市場性」のお話は、先ほど野田先生から出ましたけれど。採用をやっていて「他社でこんなオファーが出ましたので、これより上をオファーしてください。サイボウズさんは」(という場面で)その価格提示された価格がサイボウズで出せるか、お財布もありますし、我々の事業規模的なものも含めると課題だなと思うこともあります。けれども、どうしてもその人ができるスキルが欲しいというときに、どういう会話になるかというと「おカネで採用した人はおカネで出て行くよ」って、やっぱりなりますね。
その人のポートフォリオの中で、おカネが90%以上を占めてるんだと思ったときには、高いオファーを出したとしても、やっぱりすぐに、その人のポートフォリオでそこが非常に高いので、満足しなくなる。うん。 そうなる。
野田:なりますよね。
中根:という話をして、それでもその方に来ていただきたいかどうかという議論をします。はい。
大野:はい、ありがとうございます。とても重要なポイントになってきてると思いますけれども、その辺のことを含めて、「これからサイボウズはどこに行くのかな、向かっているのかな」というところ、中根さんの後半のプレゼンを少し聞かせていただければ。いいですか?
【サイボウズの未来はどこへ行く?】
中根:ありがとうございます。この「チームの生産性」と「メンバーの幸福」を両立するマッチングをどうやってつくっていくんだろうと考えたときに、この「マッチング」って先ほどの「金銭的な報酬」の部分以外のところでもマッチングしてるケースというのが、やっぱ大半なんですよね。例えば、それが、「自分のやりたいことをできる」ということだけではなく、「このチームにいることが自分にとって、働きがいにも繋がっている」「満足する」あるいは「学習効果がある」という総合的なものだと思っています。この「総合的なもの」をつくっていくために、具体的に私達はこの一人ひとりの満足「学習も高くて、チームの効果・効率・学習も高い」というのが、「チームワーク:良い」というふうにしているんですけど、「チームワーク:良い」とするためにはどんな構成要素があるんだろうというのを考えてみたのがこれになります。

緑の部分が「チーム、組織として大事なこと」、赤いところが「個人として大事なこと」で、それぞれをマッチングさせるために大事な要素というのは青で書いてるんですけれども、これ、『マズローの5段階欲求』に近いです。 土台として、どんなチームである必要があるのか、どんな個としての自立が必要なのか?っていうところから、高次元の効果・満足とか効率学習の効果になっていくべきか?というのを書いていて、この一つひとつにどういうアプローチをしていけば『良いチーム』『わくわくするチーム』になるのかということに、今、取り組んでいます。
で、まずはっきりと、今この「人的資本経営」と言われる中で、いろんな「資本」というのがあると思っていて。個人の資本を強くすることは大事だけれども、それとともに、この関係資本、この「チームでいる意義」「その理想との繋がり」、この「仲間と一緒に旅をする、その仲間との関係性」といところと、「効率よくを達成するため組織の構造」とか、若干ハードの部分ですけれども。サイボウズも、組織が大きくなるに従って、まさにこの構造を、効率的な構造を作ろうということをやってるんですけれど、この部分も組織が大きくなればなるほど、大事な資本なんだと思っております。
ここにもアプローチをしているんですが・そもそも「人が多様で選択肢が持てる状態」にすることによって、多様な個が活躍できる可能性を広げる、これが赤い部分「個人の資本」の部分。「チームの構造資本・関係資本」というのは、圧倒的な情報共有や対話と議論を通じて、チームワークを向上させる。(そして)個人の主体性に働きかける、このチームでこういうことを自分は実現したいなと思える、それが見つかる、そこがマッチングさせられるような運用などの仕組みにする必要があると、同じ旅の仲間との関係性に働きかけることによって、この仲間で「やれてよかった」、あるいは「この集団としての強みを生かしていく」ということにアプローチする必要があると思っています。
最後に、先ほどから何度かご紹介している「最高のマッチング」をどうやって作っていくか。ここでサイボウズがこれまでやってきて、結構いけてるんじゃないかと思うのは、この「個人資本」の部分ですね。選択肢が持てる状態にするっていうことは、かなりできてきたんじゃないかと思います。働き方にしてもそうですし、いろんな人事異動の仕組みも含めて、できるかなと思います。(会社規模が)大きくなるに従って、構造資本と関係資本というところに働きかけるということが大事になってきているのと、マッチングを進めていく上で、サイボウズというこの集団がどういう方向に向かっているのか、個人として何がしたいのかっていう「言語化」であったり、対話には、まだ改善の余地が多分にあると思っております。この緑の部分と赤青の部分が、今のサイボウズの課題になっています。
「人と会社のマッチング」というところでは、まさにこの「チームとしての生産性」。「生産性って何か」というと、チームとしての共通の目標があるからその目標に向かってどれだけ生産性高く、その目標が達成できたかというところが大事なんだと思うんですが、「会社さん」というのはいないので、そこにいる人たち、チームの人たちの理想が重なり合って大きくなったものが「会社の理想」と思っています。
私が冒頭、豊田さんにご紹介いただいた(3枚の)カードの中で右に出ていた「”会社の想い”をみんなで創っていますか?」という(カード)を選ばせていただいたのは、そこで、誰かが作った理想ではなく、みんなでその理想に共感して、それをやりたいと思って重なってるかというところがすごく大事だと思ってることと、会社の理想というのはみんなの理想であって、個人の理想がそこに本当に繋がってるのか?会社の理想っていうのが自分の理想のあり方に近いのか?あるいは集団という場で自分がやることによって何らかの理想の生き方の一部というのが達成できるのか?というのがすごく大事で、これがありさえすれば会社と個人のいいマッチングが図れていくんじゃないかと思います。逆に、マッチングしなければそのチームにいない方が、自分もチームも幸せなので、離れてまた違うチームを探すのか?チームに属さないっていう生き方をするのか?ここが大事になってきてるのかなと。まさにこれが、”100人100通りのマッチング”かなと思っております。 以上でございます。
大野:はい。ありがとうございます。お話を聞いていて、やっぱりサイボウズの社会実験は、まさに「KX」の思想を身をもって実験をしていただいている会社なんじゃないかなと、そんなふうに感じました。これからこんなふうに向かっていく今の課題、現時点での課題も整理していただきましたが、野田さんどの辺がポイントになりますかね?
【ソフトとハードの技術を活用して「チームワークあふれる社会」へ】
野田:僕は、元々が組織論の先生ですから、研究者ですから、「構造資本」をベースとした「関係資本」というところに、すごく興味があるんですね。
特に、その中であえて言うなら、「技術」に僕は今、すごく関心がある。技術には、2つの技術があると思ってまして、1つは、いわゆる「ソフトな技術」で、組織開発なんかの技術、例えば「オープンスペーステクノロジー」とか、「AI(アプリシエンティヴ・インクワイアリー)」とか、ああいうソフト技術によって対話を促進したり、関係性を構築したりって、僕はあると思ってるんですね。 特に今、「ACT(アクト)=アクセプタンス・&コミットメントセラピー」っていうんですけれども、心理的柔軟性、感情と感情でその現実を見誤らないようにするっていう(これも技術なんですけれども)のにすごく興味があるので。僕やっぱり、技術ってすごく重要だなと思ってるんですよね。 そこのところはどちらかというと、その「KX」でも技術を今一生懸命貯め込んでるんだと思いつつ。「ツール」っていったら、それのことだと思うんですけどね。
でもね。実はもう1つ、ハードな技術ってのも絶対重要で、これサイボウズさんのある意味では本業に近いんですけれども、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)、 いわゆるインフォメーションテクノロジーやインテリジェンステクノロジーをうまく使うことによって、すごく働きやすくなったりコミュニケーションが取りやすくなったりする。しかも、結構劇的に変わるって、この頃やっぱり感じるんですね。
例えば今、”想い”の結晶としての「その会社さんの”想い”」っていうのは、僕らも言ってる通りだけど。これ、もう1500人近くなってくると、俺らの思ってる”想い”って、これ、結局どういうふうにまとまっていくんだろう?って。よくわかんなくなっちゃったりするじゃないですか。 そういうときに、例えばAIの力なんかも借りながら、我々の考えてることって要するにどうまとめ上げられるんだろう?みたいなことをサジェスチョンAIに、サジェスチョンしてもらうとかね。
あとは、これからの海外の方なんかがいっぱい出てきたときに、みんながみんな外国語が得意じゃないとすると、メタバース上で翻訳機能を入れながら、みんなで話すなんてこともできるかもしれないし。結構、僕、DX技術って、劇的に、このチームワークを変えるんではないか?いや、それを使って変えていくのがいいんじゃないかと思ってるんですね。うん。そのソフト技術とハード技術と両方を使ってこのチームワークあふれる社会ってやっぱりできていくんだろうなぁ、なんてことを、中根さんの話を聞きながら感じていました。
中根:いや、そう思いたいです。そう思いたくって。
そのチームグループウェアを作ってる中で、「グループウェアを使う人」っていうのがいると思うんですけれども、時々我々の会社の中で話すのが”AI”を1人のチームメンバーとして、うん、AIをメンバーとしてどうグループウェアを活用するというか、我々のチームに組み込んでいくかっていう考え方だよね、みたいな。 ただAIっていうのもすごく優秀なんだけれども、AIにもオンボーディングしなきゃいけなくて。
私達の価値軸を、AIに教えていかなきゃいけない。 やっぱその私達の価値軸、例えば私達でいう、Purpose、Cultureの、Cultureの部分かもしれないけど。我々としては、こういうチームを作りたいんだと、AIにオンボーディングさせるための理想の部分、どうありたい、みたいなところは自分たちで対話をして、いい形でこの技術を使っていくっていうのは、できる気がします。はい。
野田:変なものを食わせると、AIはすごい変なことやっちゃうので、本当に、「AIのオンボーディング」って、今日のキーワードですね!僕も、全く賛成です。 さらに言うなら、僕は「理想のAI」ってのが、僕の頭の中で、もう今明確にありましてですね。
中根:なんですか?
野田:それはね。青くって、まん丸で、ポケット持ってる。 あれがね。いいなと思ってて。
1人に1台ずつ、あれがいるといいですね。
みんな、すごく仕事しやすくなるんじゃないかなと。 ただ、やっぱり、今の、青いAIの持ち主というか、相棒のあの人は、大変、成熟度が低いんですね。 正直言うと、青いのがいるからギリギリなんとかまともになってるようなところがあるんで。それじゃしょうがない、と思ってて。やっぱり、AIを相棒としながら、自分も成長していくような形にしていく、っていうのが、私の今の一つの理想ではあるんですよね。 ある程度、その相棒のAIが、ちゃんとサイボウズという会社にオンボーディングされてると、多分そこから、未成熟なのび太くんは・・・あ、言っちゃった!(笑) のび太くんは、たしなめられるんですよね。「それは違うよ!」って。「そういうの違うと思うよ!」って。 だから、人の言いなりになるのでもないと思うので、いずれにしても僕は、技術っていうのは、すごく、今すごく、気になってるところです。
大野:ありがとうございます。中根さん。最後に2つだけ、ちょっとすごいプリミティブな質問なんですけど。
【100人100通りを実現するために何が必要?】
よく僕も、他の会社の人たちに、サイボウズの話をご紹介をしたりしてると、必ず聞かれるのがね。「100人100通りがいい」と思うんだけど、めっちゃめちゃ手間かかるよね?という質問です。
どれだけ人事に手間かけてんですか?っていうことと、 やっぱりある程度ちっちゃいからできるんだよね、って、かつてはずいぶん言われました。1500人近い規模になってきて、大きくなってきてできてるんだろうか?って。その2つの質問ってやっぱよくされるんだけれど、現時点で、中根さんはその2つの質問に対してどんなふうにお答えになるのかなと、聞いてみたかったんです。
中根:なるほどです。 できるとかできないとかは今わからないですけど、どのレベルでやるのが正解なのかわからないですけど、でも、これ絶対放棄しちゃいけないと思ってまして。
「100人100通り」じゃなかったら、「100人いるけど10通りでいい」と思ってるのか? そんなわけはなくてですね。1人ずつ理想は違うので楽っちゃ楽ですけど。レンガ型の管理で幸せなチームは作れますか?というと、作れないと思います。ただ、おっしゃる通り、管理が難しいところはあるので、それをいかに(管理するのか)、これこそ「技術」だと思うんですけど、「多様」と言ってもいろんな項目があるわけですよ。「時間」とか「場所」とかなんらかの項目でグルーピングしてパターンを作れば、大体そのパターンに当てはまるんですね。 3通りの3通りでパターンを混ぜた9通りですみたいなカタチで。管理も技術によって「100人100通り」っていうのは可能になると思います。というのがひとつ。
あともうひとつが、「その人事とかマネージャー大変ですね」と言ったら、マネージャーは大変です。 人事も大変です。 ただそれは、マネージャーがレベルを上げていくことがすごく大事で、これは私達のチームという利益にとってどうなのかというところは、絶対ぶらしちゃいけない。それがマネージャーの役割だからなんですけれども。一方で「個が自立する」ということはすごく大事で、自立してない個の集まりであれば、めちゃめちゃ大変です。 ただ自立してる個の集まりであれば、そこの負荷は下がっていくと思うので、自立した個を育成できるように、言葉を使うとか、考えてもらうとか、自分で自分に向き合う機会を作っていくことによって、まだ諦めないでいたいなと思っています。
大野:はい。ありがとうございます。「KX」がキーワードにしている「個人のめざめ」と「組織の進化」って、まさにシンクロしてるっていうことだと思いますし、先ほどの野田さんの話にありましたように、「組織の進化」の中にその技術という部分もあるんだなとすごく感じましたね。 豊田さん、いかがでしたか。
豊田:はい。中根さん、ありがとうございます。今ちょうど中根さんが出していただいてるこのフレーム、よく言われる「知的資本経営インテリックスキャピタルマネジメント」のフレームをアレンジされてるものだと思うんですけども。
話を聞いて、ちょうど(頭に浮かんだのが)私も20数年前に(リクルート)ワークス研究所で、ヨーロッパのスカンディア(の会社)でとても素敵な知的資本経営を推進してる会社があって。私は今まで見てきた中で、世界で一番成熟した考え方をしてる会社だな、と思ったんですけども、そこの経営者が「自分自身のステージが上がってくると、報酬のあり方、中根さんたちが言ってる有形のおカネだけじゃなくて『学ぶ』ことも含めた、無形の部分等も含めて、本人が全部マネージできるような状態に報酬のあり方を変えていきたいんだ」ということを仰っていて。サイボウズも、そこに近づきつつあるのかなと思って。やっぱり、この実験の結果、見えてきてる景色は、とても私達が大切にしたいフレームだし、「報酬」(つまり)「広義の報酬」に個人と会社が向き合っていく、繋がり方のど真ん中にしていくっていうのは、そこが本当にストライクゾーン、外しちゃいけないゾーンなんだなと改めて感じました。ありがとうございます。
中根:ありがとうございます。
大野:はい。ありがとうございます。野田先生、今日のお話を聞いていて、「KX」そのものもさらに進化させなきゃいけないなという感じがしました。今日の中根さんのお話を聞いていただいた中で、野田さんが今日、一番新しい要素として感じたものを、少し最後に整理していただけますか?
野田:今日、一つじゃないんだけど、全体を通してなんですけども、「”教条主義”に毒されていない」というのが、ものすごく嬉しかった。
中根:「教条主義」?
野田:「教条主義」。要するに「我々は100人100通りなんだ~!」とかって、いろんなことを全部総称してやると危険だなと僕はすごく思っていてね。 いろいろと試しながら、駄目は駄目、いいはいい、でやっていきゃぁいいじゃないの?っていうようなところで。サイボウズが”教条主義”じゃないところが、一番素敵だなと思いました。自分たちで言った”教義”に縛り付けられてないというところ。
でも、理想は理想で、ちゃんと持ち続けてるっていうところが本当に素敵なんだな、っていうふうに、そういうのが、”トランスフォームされた会社”ってことなんだろうなと僕は感じましたね。
中根:まだまだですけどね。
野田:いいえ。一緒に行きましょう。一緒に。一緒にやりましょう。
【KXO2期生募集のご案内】
大野:はい。ありがとうございます。 最後に、私の方から、お知らせを一つだけさせていただいて、クロージングしたいと思います。この「KX」という議論をずっと積み重ねてきた中で、「KXオーガナイザー」という、新しい組織開発のプロフェッショナル養成を始めています。
例えば、会社の中のトップ層の「タイプA」という人も当然いるでしょうし、中根さんは、もう今は「タイプA」だと思いますが、現場の1人ひとりが「KX」に取り組んでいくという「タイプB」のような人もいると思いますし、さらには、会社の外からその会社にアプローチをする「タイプC」というような方もいらっしゃると思います。
今、0期生、1期生とトレーニングをしてきて、現在2期生の募集をしています。この辺も、これからぜひ広めていきたいと思ってますので、ご関心ある方がいれば、ぜひアクセスしていただければと思います。 そして来月には、このシリーズ3回目ということで、今日本で一番HR関係では最先端を行ってるんじゃないかと思うもうひとつの「サイバーエージェントの曽山さん」にゲストで出演をしていただこうと思っています。よろしくお願いいたします。
最後に、中根さん。今日はお昼どきの1時間、ありがとうございました。 1時間お話をしていただいた中で、中根さんが感じたことがあれば、最後に教えていただけますか?
中根:いや、冒頭もありましたし、大野さんからも今ありましたけど、私達って1人で生きられないなと思っていまして。
中根:この「カイシャはどこへ行くんですか」(というテーマ)、「会社」という仕組みというか考え方って、私はよくできてるなと思うんですよ。どうやってチームを作って、自分ができないことを誰かにやってもらって、自分がやりたいことを達成していくかというのって、だからこれを先ほどおっしゃった「技術」をうまく使うのを、人間はやっていかなきゃいけない。私達が術(すべ)を、身につけていかなきゃいけないんだろうな、と思います。 仲間とともに、ですね。
大野:はい。ありがとうございます。今日も、本当に、新しい発見に満ちた話をしていただいて、まさにサイボウズ会社の未来じゃないかと思っています。これからも頑張ってください。ありがとうございます。
中根:ありがとうございました。
大野:今日は、ここまでお聴きいただきましてありがとうございました。ぜひこの後、アンケートにもご協力ください。皆さまからのアンケートの中で、ぜひ質問もしていただければ、できる限りまたお答えを戻していきたいというふうに思いますので、よろしくお願いいたします。 それでは、今日、第2回目。ここで終了したいと思います。1時間お付き合いいただきましてありがとうございました。