《SessionⅦ》藤井薫さん(インディードリクルートパートナーズ HR統括編集長)と考えるKX(カイシャ・トランスフォーメーション)5つの課題

人生100年時代にふさわしい「人と会社の新しい関係」の探索・提言を行っている「カイシャの未来研究会2025」(主査/ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO大野誠一)は、2025年3月より10回のシリーズセッション『昭和100年。「日本のカイシャ」はどこへ行く?~KX(カイシャ・トランスフォーメーション)5つの課題』を開催中です。
昭和100年となる2025年までに、昭和モデルの経営から脱却できない「日本のカイシャ」を、人生100年時代の会社=「“人”が主役の会社」へと変えていきたいと6年余にわたって活動してきた研究会の集大成となるセッションです。
毎回、研究会コアメンバーの一人がメインスピーカーとして、持論や想いを展開していきます。SessionⅦ(2025年9月9日開催)のメインスピーカーは、藤井薫さん(インディードリクルートパートナーズ:HR統括編集長)。
人材採用領域メディアの編集長を歴任し、リクルート内の研究機関にも在籍、現在はHR統括編集長として、キャリア領域、人材マネジメント領域、労働市場領域での広範な発信をされている藤井さんとともに、「“人”が主役の会社」のバロメーターともいえる“イキイキする職場”の未来を考えました。
<開催概要>

開催日時:2025年9月9日(火)12:00~13:00
メインスピーカー:藤井薫さん(インディードリクルートパートナーズ:HR統括編集長)
ホスト:大野誠一(ライフシフト・ジャパン:代表取締役CEO)
野田稔(明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科:教授)
豊田義博(ライフシフト・ジャパン:取締役CRO)
<このセッションのエッセンス>
1. シリーズ概要と導入
「昭和100年日本の会社はどこへゆく」第7回は、ライフシフトジャパン大野氏が司会を務め、インディードリクルートパートナーズのHR統括編集長である藤井薫氏を迎えて「職場」をテーマに開催された。冒頭では前回の振り返りが行われ、個人と組織の関係性への関心の高まりが共有された。藤井氏は「機会」「場」「自分」という漢字に着目し、職場における新しいつながりと可能性を探る対話の幕が開かれた。
2.ドンヨリした職場の現状
藤井氏は、転職市場の活性化と雇用慣行の変化の中で、職場の閉塞感が広がっている現実をデータで示した。若手の定着率低下やエンゲージメントの低さ、キャリア自律の困難さなど、日本企業特有の「面従腹背」的構造を指摘。企業も対話や支援体制を整えるが、信頼関係が築けず空回りしている現状を明らかにした。野田教授は「オープン化の前に結ぶ関係」の必要性を強調した。
3. イキイキする職場への転換
後半では「キャリア共律」という概念が提示された。職場を「開く」前に「結ぶ」ことが重要であり、孤立を防ぐ信頼の土台がイキイキした環境を支えると説いた。藤井氏は「自転者モデル」を用い、安全・支援・挑戦・貢献・未来の5要素で構成される仕組みを解説。安心感と成長実感を両立させる職場づくりの方向性を示した。
4. 現場の事例と議論の深まり
大東自動車の「褒めちぎる教習」や京谷染物店の「10年年表」による夢の共有など、信頼と対話を通じて再生した職場が紹介された。野田教授は「心理的柔軟性」、豊田氏は「共立的自立」の意義を指摘し、個人の覚醒と組織変容を結びつける視点を提示。職場の変化は上層ではなく、現場の一人ひとりの気づきから生まれるという共通認識が形成された。
5. 反転の契機と今後の展望
藤井氏は職場が「ドンヨリ」と「イキイキ」に二極化しているとし、変革は多くの場合、危機を契機に起きると述べた。だが「極まれば通ず」との言葉の通り、限界を迎える前に反転できることが理想だと指摘。個人の行動が組織を変える力を持つと強調し、会社を「出会いの社」と再定義。最後に次回予告とKXオーガナイザー募集の案内で締めくくられた。
<このセッションのキーワード>
#キャリア共律
#結んでから開く
#ドンヨリからイキイキへ
#キャリア孤律
#「自転者モデル」
#心理的柔軟性
#危機からの反転
#面従腹背の終焉
#藤井薫
#ライフシフト・ジャパン
<参加者の声(アンケートより)>
→ 一文字一文字に意味と感情が宿る。変化のプロセスを直感的に描く見事な対比。
→ 組織を神聖な場として捉え、人の想いを原動力とする詩的な一文。哲学と現実感が融合している。
→ シンプルながらも、順序の本質を突いた鋭い洞察。あらゆる協働や対話に通じる普遍的なメッセージ。
→ 一見難解ながらも、韻を踏んだ美しい構造語。新しい概念を印象づける力がある。
→ 自律と共創の核心を端的に表す一句。希望を感じさせるリーダーシップワード。
<アーカイブ映像(フル動画)>
<全文テキスト>
【前回までの振り返りと今回のセッション紹介】
大野 : 皆さん、こんにちは。ライフシフト・ジャパン代表の大野でございます。3月から毎月1回のペースでやっております「 昭和100年日本のカイシャはどこへ行く?」シリーズですけれども、今日で7回目になりました。毎月このお昼時にやっておりますので、お昼休みに入って駆けつけていただくという感じで、これから続々と入ってくると思いますけれどもよろしくお願いいたします。 毎回私と、ライフシフト・ジャパンの豊田さん、それから明治大学専門職大学院の野田先生とでお届けしております。豊田さん、野田さん、お疲れ様です。
野田 :お疲れ様です。
豊田 :よろしくお願いします。
大野 :石破さんも辞任すると、日本のカイシャどころか、日本はどこへ行くんだろうかという感じでございますけれども、夏はまだ終わってないですね・・・8月も過ぎましたが、まだ暑い日が続いております。野田先生、9月はいかがですか。
野田 :毎年9月というのは、大学が始まるんですね。 9月の末から始まるのでそこに向けて準備をするんですが、暑すぎて準備する気にならない。これが最大の問題で、いつ頭が動くようになってくれるのか心配です。
大野:もう本当に、日本はどこに行くのかという感じではありますけれども、今日も頑張っていきたいと思います。 前回の6回目は、NECネッツエスアイの吉田和友さんにお越しいただいて、このKXのフレームから吉田さん自身の人生の振り返りみたいなお話になってで、とても刺激のある会になりましたが、前回の皆さんからのお声を、豊田さんの方から紹介いただければと思います。
豊田:吉田和友さんの回は、今、大野さんが言ったように、今までの回と少し趣向を新たにして、吉田さん自身の人生とかキャリアとか、会社生活を振り返っていただく“カイシャリフレクション”的なことをしていただいた時間でしたけれども、こんな声をいただいております。
吉田さんが「怒りが原点だった」と言われていましたが、それがまさにやりたい仕事や期待ということだったんだよね、と。ここにはコメントをいくつかいただきましたし「非常に共感する」という声がありました。吉田さんはずっと“組織と個人の繋がり”、KXのキーフレーズでもある“繋がり”をずっと考えてきたんだと。 それこそが「会社を残すことと成長に繋がるんだよね」とのコメントもいただいています。
吉田さんの自身の経験を「T型じゃない」と言うと、野田さんから「いや。事業創造できる人材を育てるには、最初に専門性の縦軸じゃないんだよ。 現場から人間としての成長とリーダーシップをつかませる。まずは土台をつくることが大切なんだ」 というお話もありました。 「共感力」というキーワードもありました。また、登壇仲間が非常にいい雰囲気だったと、そんなコメントもいただいています。
大野 :野田さんは、NECネッツエスアイとはだいぶ長いお付き合いもある中で、前回の吉田さんの回、とても面白いセミナーになりましたけど、いかがでしたか?
野田:もう最高でしたね! KXと、ライフシフトジャーニーみたいなもの・・・ライフとがくっつくんだというのが、すごく一体感があるんだというのがめちゃめちゃ嬉しくて。我々は別のことをやってたんじゃないんだと感じられて、とても良かったです。
大野:ありがとうございます。 さて、それでは今日は藤井薫さんにお越しいただきました。社名が変わって、私にとっても古巣だったんですが、「インディードリクルートパートナーズ」という、ちょっと私には馴染みのない社名になりましたが、引き続きHRの統括編集長というポジションでいろいろな研究を続けている藤井薫さんです。ご存知の方も多いと思いますが、藤井さんは、一方で「漢字博士」という呼び名もあるように、今日もいろいろな漢字にまつわるお話も出てくると思います。
今日のキーワードは“職場”ということで藤井さんにお話いただこうと思っています。藤井さん、どうぞよろしくお願いします。
【“漢字おじさん”藤井薫氏の選んだ3枚のKXカード】
藤井:よろしくお願いします。
大野:お願いします。藤井さんのご紹介も兼ねて、豊田さんの方からKXのフレームとあわせてお願いします。
豊田:「KX=カイシャ・トランスフォーメーション」昭和モデルから脱却できない日本企業を壊して人生100年時代にふさわしい“会社”を創っていく、そんな変革ムーブメントを起こしたいわけですけれども、先ほど“繋がり”というキーワードがありましたが、“わがまま”セントリック、“旅の仲間”バラエティ、“つながり”リデザイン、“想い”ドリブン、“機会”インフィニティ、この5つの視点をそれぞれ5つのブレークスルーポイントに分けて25の切り口のどの部分から攻めていくか、毎回メインスピーカーで来ていただいている方に大切なカードを3枚選んでくれとお願いをしています。

藤井さんは、この3枚を選んでくださいました。「自分の“わがまま”を解放できていますか?」「何でも語れるオープンな場はありますか?」「 会社を超えたつながりの機会を創れていますか?」
藤井さん、これらを選んでいただいた想いを少し聞かせていただけますか。
藤井 :そうですね。“漢字おじさん”なので、漢字にいろいろと感じることがありまして、一番右側の“機会”というのと、真ん中の“場”というのと、今日も職場の“場”がありますけれど、全部に“機(はず)み”があって“出会い”があって、“別れ”“わかる”もある。そういう意味で、自分と社会の繋がりの中で“新しい可能性が弾むように出会える”ということで、この3つにしました。
大野:ありがとうございます。それでは藤井さんの方から、今日は“職場”というキーワードでお話をいただこうと思います。
一旦、藤井さんの方にお渡しいたします。よろしくお願いします。
藤井:よろしくお願いします。 改めて藤井でございます。“漢字おじさん”ということで、今日も漢字を連発してお話できればと思います。よろしくお願いします。
私、(自己紹介スライドの)左下の「時空と回転」でバイクが写っておりますが、バイクと卓球が趣味なので、今日も高速の回転でお話をできればと思います。よろしくお願いします。今日のお題は“イキイキする職場の未来”というお題で、前半と後半、お話できればと思います。
前半は「ドンヨリしている職場の今」というのをいろんなデータを持ちながらお示ししたいと思います。後半は「イキイキしている職場とは」ということで、リクルートで11年も続いているグッドアクションアワードっていうイキイキする職場に光を当てるショーがあるんですけれど、その中から珠玉の2つを持ってきたので、ぜひそれを皆さんに共有しながらお話できればと思います。よろしくお願いいたします。
【前半:ドンヨリしている職場の現状】
藤井:前半の“ドンヨリしている職場の今”というので3つのお話ができればと思います。「変わる転職市場」「変わる雇用慣行」「悩ましい個人と企業の実態」です。
まず1番目は「変わる転職市場」。皆さんには釈迦に説法のような部分もありますが、こんなデータがあるという話です。まずは、リクルートワークス研究所が出しているもので「構造的な人材不足で、2040年で1100万人の不足が予見されている」と。2番目は「DI判断で景気は不景気でも人材が足りない」そんな話です。3番目は「リクルートエージェントの求人企業から預かっている求人数がずっと右肩上がりになっています」という話です。4番目は「転職で、前職と比べて賃金が1割以上上がった人の数は過去最高で、ずっと右肩上がりになっている」と。労働市場には「外部労働市場」と「内部労働市場」がありますが「賃金上昇の機運はずっと上がっている」ということ。そして5番目は「若手の社員を対象とした調査で、定年まで働きたい人、続けたいという人はわずか2割だ」と。そして最後6番目は、これは私達ベテランにはドキッとしますが「ベテランの後ろ姿、何年も職場にいる先輩のベテランの社員を見て未来に不安を覚えたので辞めます」と。私たちの背中が寂しいと、ますます遠心力がかかっている、そんな転職市場だと思います。
ライフシフトじゃないですけれど、転職市場もシフトしているんだと思います。やはり流動化時代になって、企業は「選ばれる企業」にならなきゃいけないし、個人は「選べる個人」にならなきゃいけない。果たして選ばれるんでしょうか、選べるんでしょうか、そんな問いがあります。
労働市場の選択権や責任が、急速に個人とか企業に移動しているということに戸惑っているという、今はそんな労働環境、転職環境なんじゃないかと思っています。
【雇用慣行の変化とキャリア自律の実態】
2番目は「変わる雇用慣行」です。これも、皆さんには釈迦に説法のような部分がありますが、こんなデータ調査をしています。人事制度の構築担当者5048人に聞くと、61. 5%の企業が「人事制度で雇用慣行を変えなきゃいけない」と思っています。
まとめると、私達は“Closed to Open”というキーワードで紹介しているんですが、採用だけではなく異動や育成や評価、賃金や昇進や退出を全て今までのクローズ型、例えば新卒のみの入口から多様な選択肢にする、企業主導のキャリアから個人主導のキャリアにするなど、他にもいろいろな形でどんどんクローズからオープン型にしていくという調査が出てきました。「積極的に行く会社」と「足踏みしている会社」に分かれていますが、いずれにしても労働市場や雇用システムを開いて個人の可能性を開いていくという局面に来ているのだと思うので、キーワードは“オープン”です。
こういう内向きの雇用慣行や個人のキャリアをどうやって開いていくかっていう問いですが、これも本当に開けるのかっていうそんな問いにもなってくるのだと思います。
そして3番目は、ドンヨリしている職場にも関係するんですが、内向きの雇用慣行や個人のキャリアを開くとは言ったものの、キャリアで悩ましい実態、悩ましい個人とか企業の実態が見えてきたので、これをご紹介したいと思います。
まずはこの「キャリア自律」というのは、いろんな会社でもオンパレードで言われていると思いますが、本当にこれができるのかという問いで「企業は本当にこの内向きの雇用慣行や個人の潜在能力をオープンにしている?」さらには「日本のキャリア自律の実践者は?」というと一握りだという(調査結果が)出てきます。グローバルサーベイレポートでは、これはindeedと一緒にやった調査ですけれども、日本は先進国の中でキャリア自律の意識も実戦も最下位です。キャリアオーナーシップの実態を働いている方に調査すると「満足している」「できている」と思っている人が一部しかいない。そんな状態でした。
さらには「個人の悲鳴」「人事や上司の苦悩」という(点で)いろいろな調査をしている中のハイライトです。キャリア自律に関しては「重要だけど息苦しい」という焦燥感がたくさん出てきました。それから「働き方はこの11年で前進したんだけど居場所がなくなったんだ」という11年(間)の調査もあります。さらには「キャリアがこの会社では積めないのでやめます」と若者は言っています。“遠心力”がかかっていますよね。
「人事や上司の苦悩」でも「従業員のイキイキとかキャリア自律はどうですか」というと、当てはまる人と当てはまらない人、もしくは当てはまる人とそうじゃない人事とで、ものすごく二極化しているという状態です。さらに“エンゲージメント革命”のように、人的資本経営でほとんどの企業は「エンゲージメントを高める」と言っていますが、よく見ると「仕事へのエンゲージは上がっているけれど、職場へのエンゲージはあんまり上がっていない」というようなことも、私たちの調査で見えてきています。「従業員にとって、この会社で行われていることに関わることは心躍ることの一つだと思う」というのが、めちゃくちゃ低いんです。「とても魅力に感じている」も、今一つ。
そしてリクルートマネジメントソリューションズの調査ですけれども、「自主的・主体的なキャリア形成」行動を、組織コミットメントせずに促進しちゃうと転職しちゃう」。逆に、「組織コミットメントがあると転職しない」ってことなんですが、各企業で組織コミットメントをどうやってできるかということがうまくいっていなくて「キャリア自律しちゃうと辞めちゃいますよ。できないです」というような声になっています。
【「北諦」と書いて「ドンヨリ」と読む?!】

これは“漢字おじさん”的には「北」という字で「北」というのはそもそも甲骨文字、反対側を向いている人の形で象形文字なので、個人はキャリアの重要性に焦燥感を感じつつ将来のキャリア形成に向き合う場所がない。転職の検討をいつでもしながら、不満も抱えながら居残っている、そんな状態になっているんだと思います。企業側も、個人でキャリア自律の際に課題感を感じながらも、将来のキャリア形成に向き合う体制もない、知識もない、経験もないということで、停滞と離職の不安を抱えて関われない、まさに「北」の状態になっているというのが、ドンヨリ職場の実態の一つかと思います。
そしてもう一つ。悩ましい個人と企業の実態を将来の機会、キャリアの機会という点で見て取ったものの6つを示しています。リクルートワークス研究所が5カ国比較調査で出したものですが「社員と企業の関係」をレーダーチャートで表したもので、アメリカフランスデンマーク中国と比べて「会社の理念に共感している」に関しては、日本が一番低い。「仕事にのめり込んでいる」も一番低い。「給与には満足してない」「人間関係には満足してない」「スキルや才能が尊重されて生かされている」も、いまいち。今の会社なんか「働きたい」もそれほどではない。けれど、今の会社は「辞めたい」とは思っていない。そんな「不満を抱えながらジクジクしている状態」だと思います。
「キャリアオーナーシップ」の調査では「何をしたらいいかわからない」とか「自分に合ったキャリアの選択肢がわからない」という不明状態になっています。「復背」と書いていますが「職場で将来のこと腹を割って話せる職場ですか」と尋ねると「キャリア自律ができてると思っている人は話せる」と言っているんですが、そうじゃないところは「そんなこと全然話せません。そんなこと言った瞬間に首になっちゃいますよ」というような感じで、みんな本音を言えない面従腹背の職場になっているんじゃないかという気がします。
「人事や上司の苦悩」ではこれは日本CHO協会のデータですが、「将来キャリアに向き合うために、キャリア自律の相談窓口を作ったのはいいが想定したほどには活用されてない」が63%と。「全然来ない」という状態でもあるかなと。窓口を作っただけじゃ駄目だよねということでもあるかと思います。
さらに、企業の人事の方に人材マネジメントに対する調査をやりましたが、先ほど言った新しい雇用慣行に対して積極的な会社とそうじゃない足踏みの会社で、すごく差が出た3つの項目があります。特に「自立的行動・主体性の支援」という項目の「配置のときには社内公募制で手挙げ異動ができるようにしている」ことをやっている会社と足踏みしている会社とですごく差が出ちゃっています。「社内外にある成長機会を提供している」っていう項目に関しても「本人のキャリアアップやスキル開発に繋がるのであれば、あえて他部署に配属させる」というところも、できている会社とできてない会社で随分開きがあります。ですので、将来のHRに対して社外のチャンスを提供できてるところまでの企業はなかなかなく「囲い込み」のような状態じゃないかと思います。
さらに「上司はメンバーに何を助言していいかわからない」ということで「上司と私で中長期的なキャリアイメージの対話ができた」と回答したのは16. 8%「上司は仕事だけでない人生を含めたライフ・キャリアの観点でアドバイスをくれた」というのは17. 5%しかいなく、今一つの“ドンヨリ職場”だと言えます。
“漢字おじさん”的には「諦め」という漢字で表しました。本来は「諦め」諦めるというのは「明らかにする」「極める」みたいな意味があったんですが、江戸時代に入ると「現状を受け容れる」とか「望みは断念する」というような意味に段々となってきてしまいました。キャリアの選択肢がわからないと感じつつ、現状の繰り返し、延長線の仕事の中で将来の仕事への備えを諦めつつ働いてるというのが今の個人。そして企業は、個人の将来キャリアの重要性を感じつつ、上司は業務多忙でメンバーに向き合えず、何をアドバイスしてもわからず諦めている。ということで、ずいぶん「明らかに極める」とは違った状態になっているように思います。

ということで、前半のまとめスライドですが、そういう意味で今のドンヨリしている職場といのは、まさに漢字で言うと「北諦(ホクテイ)」です。「北諦」を今後「ドンヨリ」と読もうかと思ったりもします。 先ほどのデータでお見せした一番上に書いた漢字も、「焦燥」「喪失」「離散」「分断」「躊躇」などよくここまでドンヨリした漢字をたくさん集めたなと思います。どちらにしても、この背反の関係で将来機会を諦めているという、曇天より「ドンヨリの職場」という状態になっていることと、もう1つ。一番上に書いている「急速なオープン化」をすることによって、信頼関係や将来機会が結べない、という企業と個人の関係。「開く」と「結ぶ」ということが「開きながら結ぶ」というのはなかなかうまくいってない、そんな状態だと思います。
これは私見ですが「カラマーゾフの兄弟」や「罪と罰」を思い出すんです。農奴解放後のロシア市民でカラマーゾフの兄弟は3人いますが、アリョーシャは信仰が挫折していき、イワンは超人志向で孤立していき、長男のミーチャはカネと権力の堕落によって自由と束縛の相克、ぶつかり合いでみんなが苦しんでいくような状態になっていると思うので、オープン化していく自由化していくっていうことと、信頼関係はどんな機会をつくるかが大きな宿題なんじゃないかと思います。前半は一旦ここで終わりたいと思います。お返しします。
【オープンにする前に、安心を「結ぶ」】
大野:藤井さん、ありがとうございます。薄々感じていたことを、今藤井さんにデータも含めてまとめてもらっちゃった感じです。本当、ドンヨリ感漂っていますけれど、野田さん、どうでしょう。この藤井さんの前半のお話。
野田 :この暑い最中に、よくこれだけ冷え冷えとした言葉が続くなという感じなんですけれど(笑)。それでもちっとも嬉しくなくて(笑)。
ただ一つ思ったのは諸悪の根源というわけでもないんですが、オープンにする前にはやはり結んでおかなきゃいけない「結ぶ」というのはどういう意味かというと「安心」という意味なんですが。「私はちゃんとここにいるんだよね」「ここに立っているんだよね」ということがわかった上でオープンになれば、外に打って出ることもできるんです。けれども、その安心がない状態でオープンにされても、不安なだけですよね。物事の順番というのは、やはりあるだろうと思います。
うちの大学は「個を強くする大学」と言っているんです。これは間違ったなと、実は私は思っていまして。「個を強くする」のと同時にやはり、ちゃんと結びつきを作っておかないとコミュニティシップが全くない中では駄目だと思うんです。 特に日本人アイデンティティにしても、キャリアアイデンティティにしても、基本的には人との関係で相対的に決まっていく傾向がすごく強いので、そこが希薄になっていると自己を確認できないわけですよ。 そんなところで急にオープンにされたって、それは不安しかないわけで、どう考えてもやり方が間違っているとしか思えないですね。
大野 :豊田さんはいかがですか。今の藤井さんのプレゼンを聴いて。
豊田:藤井さん、ありがとうございました。1時間でも2時間でも語れるぐらい他の材料もたくさんあると思うんですが、(今のお話の中で)私が一番印象的なのは、職場に居場所がなくなっている、居場所スコアがぐんぐん落ちているというところです。やりたいことが高まっていることが可視化されていると感じました。
「 職場」ということで言うと、野田さんがずいぶん前にお作りになったジェイフィールという会社で「不機嫌な職場」というヒット作がありましたけど、あのときは「不機嫌」でしたけど、今はもう「不機嫌状態」じゃなくて、もう「枯れちゃってる」というか・・・
野田:「諦めて」ますよね。
豊田 :まさに諦めちゃって、お互いに関わらないというような形に、どんどん悪い方向に変容していることが藤井さんの話からもありましたけど、一方で、先ほどの藤井さんの話からもあるように、いろいろなことを日本の企業の人事の方たちはやっているわけですよね。頑張っていろいろやっているんだけど空回りして、大切なところはボタンをかけ違っている、というようなところがあるんだろうと、現場ではそういう変革が感じられていないとうことなのかと改めて感じました。
大野:ありがとうございます。かなりドンヨリ感が満載な状態で前半のプレゼンが終わったんですが、このまま終わっちゃうと、もう本当、日本はどこに行っちゃうのかなという感じなので、藤井さんに、次は“イキイキした職場”について話を続けていただきたいと思います。
【後半:“イキイキしている職場”へ】
藤井 :ありがとうございます。そうですよね。「罪と罰」とか「カラマーゾフ」とかいうと余計ドンヨリしちゃいますよね・・・今度は“イキイキ”の話にしていきたいと思います。“イキイキ”している職場を、いろいろな事例とともに紹介したいと思います。フレームのようなものを持ってきたので、一緒にお話できればと思っています。

「“イキイキ”する職場ってどんなのか」というと、いろいろな言葉があるんですが、さっき野田先生が言われたように、順番が違って、「開いてから結ぶ」のではなくて「結んでから開く」のではないかなと思っています。キャリア自律とか、自分で新しいキャリアにシフトしていくととき、今までは会社主導に行き過ぎているので配置も仕事の内容も「キャリア強制律」になっていたんだと思いますが、急に、急速に「開く」と、今度は「キャリア孤律」という状態になり、それが先ほどの「北諦」、関係性が壊れているので北を向いてしまう、急に孤立させられるので諦めてしまうという状態になると思うんです。
【「共」と「看」の「自転者モデル」】
この関係をもう1度再生して、機会を再考していくっていうその順番やあり方を変えていく「キャリア共律」というあり方を、私たちは提案してリリースしています。
今日はそのキーワードをお伝えしたいと思います。キーワードは「共看」です。「共(キョウ)」は「共に」、「看」は「看護師」さんの「看」。「てへん」に「目」なので、見えるだけじゃなくて「触る」、手触り感のある「看える化」というそんな言い方をしています。そんな状態がとても大事なんじゃないかなと伝えています。

実際にこの「共」と「看」をうまく職場の中で活かしている事例として「自転者モデル」を後で紹介します。“イキイキ”職場を引き寄せる2つのアプローチ、先ほどの「キャリアの共律化」と「キャリアの看える化」というのがあり、もう少し細かくすると、この「自転者モデル」のような形になるのではと思っています。
1番目はやはり「安全道路」、つまり「職場の安心感」はとても大事で、いきなりゴツゴツの道路や車がたくさんある車道は怖いですよね。どんな人でも、初めてのチャレンジには“安全道路”が必要です。2番目は「後方支援」。壁や何かトラブルがあったときに支援してくれる、車体が揺れて転びそうになったときは支援してくれる、そんな「後ろの人」が必要です。これは上司だけではなく、ナナメッター(ナナメの関係の人)とか社外の人とか死者(祖霊)とか、いろいろな人かもしれないですよね。そして3番目は「前進駆動」。やはり自分で力を持った筋肉を作らなくてはいけないので、「もっとあっちに行ってみようか」というストレッチ目標を設定してくれる仲間がいると、さらに遠くまで行ける筋肉がついていくことと思います。4番目は「貢献実感」。社会的な意義をどれぐらい言葉化するかです。君の仕事は「この花はおじいちゃんおばあちゃんが待ってくれてるんだよ」(と意味を言語化して)顧客からの「ありがとう」と言われるような実感を、どれぐらい職場の中で息づかせられるかです。今は「コミットメントがない」という話も含めて、(それが)失われてると思います。 そして最後は、「この道の更なる先には、アメリカ大陸があるんだ」という「未来展望」であったり、「こんな生活ができるんだ」という(「未来展望」)、ライフシフトの「繋がる」もそうですし、「自転者モデル」はとても大事な項目ではないかと思って発表しています。
「自転者モデル」をうまく駆動させるとキャリア自律の意識にとっても、正(プラス)の影響を与えます。今までは、自ら生き方・働き方を選ぶというスタイルでしたけれども「自分」の「自」には「みずから」と「おのずと」という2つの意味があります。周りに支援されてない間に「おのずと」こういう生き方を選べるようになったということもあります。上司と自分との間の信頼関係や、困難な状態で上司がサポートしてくれるとか、挑戦しがいのある目的をすり合わせてくれるとか、自分にとって仕事の意味を一緒に考えてくれるとか上司が社外視点でアドバイスしてくれるようなことがあると、どんどん「みずから」「おのずと」となっていくと思います。
【「褒める」を本来で追究して“イキイキ”職場に反転した事例】
そして“ドンヨリ”職場から見事に発展した“イキイキ”職場のケースを2つ、駆け足になりますが紹介したいと思います。1つ目は「褒める」を本気で追求して、互いの長所に関心を向けて“イキイキ”職場に反転した事例で“大東(ダイトウ)自動車株式会社”三重県南部自動車で、三重県にある教習所です。 若者の車離れで入所者が減っていったのをあることで反転して、生徒数も増えるし、人もどんどん戻ってくるしというようなことがありました。後ほどビデオで見ましょう。
そして2番目は、岩手県の一関にある“京谷(キョウヤ)染物店”という会社です。長時間労働が常態化して社員からの不満が爆発し、社長がつるし上げになるというところから「10年年表」というもので夢が繋がり、相互成長していく“イキイキ”職場の事例です。ぜひビデオで紹介したいと思います。まずは“自動車学校”からです。

VTR(上映):(ナレーション)ファッションショー大東自動車株式会社、三重県南部自動車学校“叱り”風土から“人の長所”を見つける風土への変化。少子化による自動車学校のマーケットの縮小、若者の価値観の変化の中で、ブランディング戦略の一環として“褒めちぎる教習”を実施職員全員が“褒める技術”を学び、朝礼でのロープレの実践やノウハウ共有などを通じて、生徒の良いところを見つける教習を実践しています。 2人1組になって、相手を褒めちぎる練習や、1人を全員で褒める“褒めシャワー”などの活動の中で、職員同士の相互理解が進み、無機質になりがちだった朝礼は、笑顔があふれる場となりました。
(インタビュー)この“褒めちぎる教習”をスタートするのに約1年ぐらい研修をしているんですね。 最初は「“褒める”ってどういうこと?」という知識の勉強から入って、今度は実際にやってみようということで30分に朝礼を延長して、毎日褒める練習をしていったんですよ。
(インタビュー)“褒める”ロープレというのが1対1でお互いに褒め合いをするとか、1人を前に集中的に褒める“褒めシャワー”って言うんですけど、そんなことをやったりとかいろんなことをやっていく中で、“褒める”という部分に抵抗がなくなってきた。会社の雰囲気が、本当にどんどん明るくなっていく、それが目に見えて非常に良かったなっていうふうに感じて、自分のスタイルは変わったかなとは思います。
(インタビュー) うん。 やっぱり昔は自分が厳しかったなっていう、こう、生徒を怒る、叱るってことは結構あって。その結果クレームなんかも結構あったり。またそこで怒られてと・・・もう、怒られるのが日常茶飯事。“褒めちぎる”のを入れるようになって、同じことを伝えるにしても、ちょっと表現とかを変えることによっていろいろいい方向に向かったら、うん。また仕事もなんか楽しくなってきましたね。
藤井 :はい。ここで(VTR:を)途中で止めさせていただきます。
“褒める”を続けていくと褒める場所がだんだんなくなってくるので、もっとちゃんと相手のことをよく見るようになる、まさに関心が連鎖していくのでそれがお互い同士が「キャリアの共律化」つまり、お互いがお互いに対して関心を拾って「今のアクセルワークよかったよね」というように褒め、それが生徒、お客さんにも伝わっていき、生徒数が倍増していく、そんな状態でした。 もう1つは、一関にある染物店さんのお話です。これもぜひ見てみましょう。
【“10年年表”で夢がつながり“イキイキ”職場に反転した事例】
VTR(上映):(ナレーション)株式会社京谷染物店。「社長にはついて行けない。崩壊寸前だった中小企業のストーリー。“10年年表”で全員の夢を共有し、掲げた目標を達成し続ける強いチームへ!」
長時間労働が常態化し、かつて社員に「もう社長にはついて行けない」とまで言われた状態から、大規模な業務改革を実施。「一人ひとりの幸せを実現した先に、会社の成長がある」という考え方を徹底し、各社員の夢や目標を共有する“10年年表”を作成し、個々の想いを共有し、若手からベテランまで全員がイキイキと働ける環境を実現した。

(代表取締役 蜂谷悠介様 インタビュー)それまでは社長って、立派な存在でなければならないとか、弱みを見せてはいけないとか、むしろ威厳を保ってみんなが憧れの的でなければならないと、なんだかそういう“立派な社長像”というんですかね。それがもう、その場になったとき「オレだってそんな将来のこと見通せないんだよ。俺だってわかんないんだよ。不安なんだよ。不安の中でも必死になって頑張ってるんだよ。俺は本当はみんなに助けて欲しいんだ。お願いだから助けてくれ」って。そんな泣き言のようなことを言ったんですね。そしたら社員たちに「社長も人間だもんな」とか「社長のそういう問題意識聴けてよかったです」とか。その後から徐々に社員たちとの距離が縮んできたんですね。社員たちも私の想いをわかってなかったりというのもあるじゃないですか。「自分さえ良ければそれでいい」と思う社長だと(社員が)思ってたと僕は思うんですよ。ところが本音としては、何とかみんなを良い状況にしたいっていう思いで必死になって頑張ってたっていうことを、あまり伝えてなかった。
当然、社員たちも私自身の夢とか目標というのはもちろん共感して知っている中で、みんなの夢が叶うような状況を作りたいという想いでやっているので、大枠から外れてない状況で未来に向かって進んでいるんですよね。私も本当に描きたい目標に徐々に近づいていって、社員たちもプライベートも充実しているし、また仕事でも生活を送る状態を一緒に作る、そんな時間があります。
(従業員インタビュー:プロジェクトマネージャー)プランを立てたことによって、今私が何をやればその夢を叶えられるのかということを考えながら、自分でやることをプランニングして、実際に実行してそれがいろいろ成果に結び付くってこともできて、すごくいい経験だったなと。
(従業員インタビュー:染色担当)会社の目標と個人の目標が別々のものではなくて、一緒に歩んでいくみたいな感じで考えてくれている会社なので、今やってる仕事がどういうふうに自分の将来に繋がっていくのかというところに落とし込んで働かせてもらうことができているので、自分の仕事をただやるじゃなくて、自分自身のモチベーションにも繋がっていっています。
藤井:自分が“10年年表”で将来の夢を共有したときに「私はJ Soul Brothersが推し活なんだけど、それをしていきたい。 仕事をしながらしたいんだ」と言ったらJ Soul Brothersの事務所と繋がっていた人と繋がって、てぬぐいを作るようになったそうです。
自分の夢をこうして“看える化”することが、将来のキャリアと今の自分、趣味や仕事や生活に手触り感があって“看える化”していく、そんな事例でした。「イキイキする職場」という「グッドアクションアワード」を11年もやっていて、100以上の職場が反転した事例があるんですが、これはやはり、まずは信頼関係を結んで、将来機会を開いて、個人と企業が手を打ってという、まさに日本では歌になっていますけれど「結んで開いて」の歌の歌詞そのものじゃないかと思います。
【先に「結んで」、それから「開く」】
先に「結ぶ」んです。その後「開く」んです。 そして「手を打って」というのはきっと、お互いみんなが一緒になって「手を打って」、もしくは「手を握り合って」いくことだと思います。さらに「その手を上に」というのはきっと、企業と個人が一緒に共進化していくもっと良い未来みたいなものを見つめているんじゃないかと思います。

“イキイキ”の一番下に書いていますが、先ほど言ったように、キャリアの共律化とか看える化をうまくやっている職場は、中にいる人たちが自らキャリア自律しているだけではなくて、自(おの)ずから、社内だけではなく社外も含めた周りの人たちと、いろんな人たちとの間に、自分の意思だけではなく周囲を自(おの)ずから転じる人なのです。ですので“漢字おじさん”的に言うと、「自転者」は自(おの)ずから転じる人でもあり、自(みずか)ら転じる人でもある。自分でも「こぐ」し、社会からも「こがされて」いる、「こぐ」ことを支援されている。そんなところが“イキイキ”職場なのではないかと思います。
ということで、第2部の“イキイキ”職場のお話を、これで終わりたいと思います。
大野:ありがとうございました。 この「自(おの)ずから」というところが、ある種日本的というか、日本の風土にものすごく合っている感覚という気がしました。2つの事例を動画をご紹介いただきましたが、後半のお話については、野田さん、まずいかがでしょう。
【「心理的柔軟性」の重要性】
野田:はい。「社長」とはこうあらねばならない、というような話が出てきましたよね。「心理的安全性」というのは皆さんよくご存知かと思うんですけれども、最近我々は「心理的柔軟性」の議論をよくしています。「心理的柔軟性」とは、逆に言うと「心理的に非柔軟なのは何か」というと、過去にとらわれるとか、未来を起きてもいないのにやたらと不安がるとか、自分の大切ではないものに耽溺してしまうとか、そのような状態が「非柔軟な状態」。簡単に言うと「囚(とら)われ」ということです。一番「囚われる」のは何かというと、感情と言われています。不安であったりイライラであったりとか、そういう感情に囚われてその感情の奴隷になっていく。自分の固定的な思いの奴隷になっていく。自分が奴隷であることに気づかない、ということなんです。
もちろん1人で脱していくこともできるんですけれども、やはり集団でやった方がよく、コミュニティシップ、僕はコミュニティシップという言葉もこの頃よく使うんですけれども「コミュニティでお互いに柔軟性を保てるようにする」というのがやはり重要なんだと、あの2つの事例を見まして改めて感じました。
ありがとうございました。とても勉強になりました。
大野:ありがとうございます。豊田さんいかがでしたか。
豊田:藤井さん、ありがとうございます。 前半のスライドで、「部下が下手に自律しちゃうと辞めちゃうんじゃないか」と上司側のそんなモードがあって、キャリア自律って、ややもすればそういうふうに(誤解だと私は思っていますが)捉えられることによって、なんだかドライブがかからないというようなことがあります。
けれども、藤井さんたちが概念化しているこの共律的なあり方は、遠心力は働かずに最終的に自律が獲得できるモデルだろうと改めて思いました。
また、KXのプロセスの中で「私から始まって仲間を見つけて何かをしていく」という部分と基本はとても重なる部分がある話で、本当に「私から始まって仲間を作ってやっていく」と必ず会社にとって“良い共通善”を見つけていくことになる、というのが先ほどの事例にも表れていて、改めてそういうことが絶対にあると思いました。
大野:ありがとうございます。今日ご紹介いただいた2つの事例に関しては私達がKX=カイシャ・トランスフォーメーションで議論している中身ともすごく共通するというか、通底する部分が重なっていると思いました。
藤井さん、これはどうでしょうか。前半はめちゃめちゃドンヨリしたじゃないですか。 後半2つの、とても素晴らしい事例を紹介いただきましたけれども、藤井さんから見てこのドンヨリした前半の状況と、後半の2つの萌芽が出ている状況への広がりを全体感としてはどんなふうに感じていらっしゃいますか。
【危機からの反転、そして創発へ】
藤井:そうですね。まさに「“イキイキ”している職場」と「“ドンヨリ”している職場」に二極化、分断されちゃっているっていうことだと思います。グッドアクションアワードを11年やっていると、大きい企業も小さい企業も、メーカーさんもサービス業も1次産業もあるわけですが、共通項は、“ドンヨリ”がギリギリまでいって、潰れそうになるとか、危機に瀕している状態になって、もうこのままいったら回らなくなるとか、せっかく集めた仲間がみんな辞めてっちゃったというような「危機に瀕した時」から急に反転する事例が多いんです。 「ドンヨリ」は実は「イキイキ」の萌芽なのかもしれなくて、“Emergence”という言葉は「危機」と「創発」という言葉の両方の語源だというのも、なんかそんな匂いがします。
野田:昔、東洋哲学の田口佳史先生が「陰極まれば陽となし 陽極まれば陰となし」という言葉を教えてくださった。そういうの、あるかもしれない。でも、できればぎりぎり、「ドンヨリ」まで行かないうちに反転したいですね。
藤井 :そうですね。はい。
大野:藤井さん。もう一つ。今のビデオでは社長のコメントもあり、社員の人たちのコメントもありましたけども、本当に厳しい状況、会社が潰れちゃうかもしれないとい状況から反転していくきっかけとしては、もちろん「経営者の覚悟」も大事だと思うんです。現場の人たち一人ひとりが動き始めて仲間を増やしていくみたいなことを一つ想像しながらこれまでKXの議論をしてきましたけど、このグッドアクションアワードでは、その辺のきっかけやそれが具現化していくプロセスでいうと、どんなことがポイントになってきますか。
藤井 :ありがとうございます。グッドアクションアワードの審査基準の中に、個人の熱量というか、個人が起点になって職場の変革の最初の一滴、“大河の一滴”を入れることによってどんどん変わっていったという事例が多いんです。そういう意味で言うと、職場は経営者のものでも、人事のものでもなくて、働いてる一人ひとりに変革のチャンスがあるんだということを具現化してる事例が多いんです。
バスクリンでしたっけ、ツムラさんに転職した、たった1人の従業員の方が「お風呂文化を絶やすのはもったいない。『お風呂部』という部活を作ろう」と言って、ベテランを引き込んで「江戸の文化のお風呂文化がどうだったんだ」と日本中のお風呂屋さんを巻き込んでものすごいブームにしちゃうみたいな感じで。
転職者が「もったいない。この文化を(失うのは)」と動いていくので、ONE JAPANの小さいバージョンのようなものがたくさんあるんですね。まさにライフシフトの「個人の目覚め」が職場を変えていくということがたくさんあるんだと思います。
大野:はい。野田さん。日本社会全体は「人材供給制約社会」とも言われるぐらい、いくらでも転職はできるよというような環境の中で、本当にどん底までドンヨリしきった会社を変えていくことにモチベートを向けていく人の気持ちは、案外大変なことなんじゃないかなと思うんです。むしろ、そういうところからは逃げ出して違う世界に行っちゃった方が楽じゃないか、というような相反が、かなりあると思うんですが、そのきっかけはどういうところから生まれてくるのかというところも、大事な研究対象である気がしますね。
野田:非常に重要なんでしょうね。京谷(染物店)さんの社長さんの一言が全てを表しているような気がして。何をおっしゃったかというと「俺もつらいんだよ。みんなを良くしたいんで、手伝ってくれよ」と。あれは、本音の心の叫びじゃないですか。
やはり「会話」をいくら積み重ねてもやっぱり何も変わらず、ちゃんとした「対話」(が必要)です。私は「対話」というのは「会話」と違って「お互いに探し、携帯し合って、知ること」だと思っています。元々「ダイアローグ」というが言葉ですけれども、「ダイアローグ」の対義語として演劇用語で「モノローグ」ってあるじゃないですか。 あれは「独白」と訳します。「自分の心の内を問わず語りに語ること」ですけれども、「ダイアローグ」はモノローグvsモノローグだと思っているんです。
ちゃんとした自分の本音をあのとき社長が語って、それが「1投目」だったと僕は思ってるんですね。そこがちゃんとできるかどうかというところだと僕は思います。
豊田:すごく大切なポイントだと思います。本当にあの一言で変われたんだろうと思います。さっき野田さんがおっしゃった本当に「どん底、ギリギリ」まで行かずに、もう少し早めに「実はこういうふうに思ってるんだよね」と言い合うだけで「なんだ。そうなんだ」と反転が起こる、とても大切なターニングポイントにできる「正す」タイミングみたいなのがあるんだろうなと思いました。会社でダメダメなところを出し切るような。「KXツール」もありますが、良いタイミングでやると「反転」があるんじゃないかと感じますよね。
野田 :多分その瞬間が、そこの会社の「どん底」なんだろうな。
豊田:そうですね。「やりたくなっちゃう」とか「このままでは耐えられない」というような瞬間が。
野田 :「閾値」を超えると、会社は壊れちゃうんですよ。僕は全ての会社が反転してくれることを望むけれども、難しいとも思います。正直に言うと。それが「経営者の本気」であり、「社員の本気」だと思いますけどね。
大野:うん。 藤井さん、今日は前半のドンヨリバージョンでは「北諦(ホクテイ)」を「ドンヨリ」と読むのか?というような話もありました。最近は別な視点では「静かな退職」なんていうこともよく言われていて「そんなに会社との関係をコミットしなくていいんじゃないの」みたいな空気も一方ではあるような気もするんですけれども、どうでしょう。日本の個人と会社の関係、その熱量みたいなところを盛り上げていくためには、藤井さん自身はどんなことがこれからできるといいと思ってらっしゃるんですかね。
【今後の展望:カイシャに“イキイキ”を呼び寄せるのは“出会いの社(やしろ)”】

藤井:はい。やはり、これがヒントなんじゃないかと思いながら作ってみました。
ライフシフト・ジャパンでKXO(=カイシャトランスフォーメーション・オーガナイザー)を見ながら思ったんですけど、やっぱり「会社」は「出会いの社(やしろ)」と改めて見たときに、会社に“イキイキ”を呼び寄せるのはやはり「出会いの社」だからなんだと。
今お示ししているのは、日本デザインセンターの原研哉さんという方がYouTubeで解説されてとても共感している所なんですが「日本の伝統はシンプリシティとは違ってエンプティで、空(から)で“うつわ”なんだ」と。それで“うつわ”に屋根をくっつけて「社(やしろ)」というのができて、そこに神様がたゆたってくると。
「会社」というのが「出会いの社(やしろ)」だとすると、やはり目に見えない神様のような「心意気」とか「粋」とか「息」が、日本の個人と会社の関係をイキイキさせる鍵かと。因みに、呼吸の「息」は「自分の心」とか「自ずと心」とも読めます。そういった「目に見えないもの」を、会社の中に迎え入れずに、職場がドンヨリして、経営がギリギリまでなっちゃうパターンもあれば、「目に見えないもの」をしっかりと迎え入れて、「こっちの方が粋だよね」「こっちの方が面白いよね」と育んでいったりする職場もあると思うんですね。
「褒める自動車」が社員をハワイ旅行に連れて行ったときに、海の上をボートで引っ張られるオプションをやったときに、みんなボートにつかまっていたんですが、最後にスピードが出てつかまりきれず海に飛び込んだら、インストラクターが「ナイスダイブ!」と褒めたらしいんですね。そのときに「うちは失敗を叱っていたけど、褒めるのもいいんだ。これは粋だね」と思ったらしいんです。なので、ギリギリまでまずいことになっちゃうパターンもあれば、「これが粋だ」と思うこともあって。それには「目に見えない」ものが、出会いにやって来るような「空間」、「空(うつわ)」があることがとても大事なのだと思います。
大野:はい。ありがとうございます。 本当に“漢字おじさん”の技が進化していると感じられました。「出会いの社(やしろ)」というのは、会社の未来研究会が2019年にやったセミナーのときに、藤井さんからの提案もあって、会社を「出会いの社」にしていきましょうというメッセージを出したことがあるわけです。
ということで、今日は藤井薫さんに来ていただいて、KXオーガナイザー(=KXO)も深めていただきました。どうもありがとうございました。
【KXOのご案内と次回予告】
最後に豊田さんの方から次回のご案内、それからKXオーガナイザーのご案内をさせていただいて終わりたいと思います。 よろしくお願いします。
豊田:藤井さん、本当にありがとうございました。 藤井さんの次は、全10回のセッションのいよいよ8回目、大詰めに近づいてきました。フリーランス協会の平田真理さんにご登壇いただいて「選ばれる会社へ」という回です。「昭和100年。日本のカイシャはどこへ行く?」のコアである「 選ばれる」ここにフォーカスを合わせたセッションで、ちょうど1ヶ月後の10月9日になります。ぜひお越しください。
今藤井さんがお話をしてくれましたKXO=KXオーガナイザーですが、0期・1期と昨年から今年にかけて既に20名の方々がKXオーガナイザーになっていただいています。10月5日から2期生のトレーニングプログラムが始まります。締め切りが9月16日、来週の火曜日になっています。
KXメソッドをベースに活用して、組織の進化、個人の目覚めと組織の進化の両輪を回していくプログラムです。会社の中に「タイプA」という、今日の事例の方はかなりイニシアティブをとっていました。そして「タイプB」現場にいていろんなモヤモヤを抱えてる人たち、「タイプC」外部から支援するという方々も、ぜひ関心のある方はKXオーガナイザーにご希望いただければと思います。最後にアンケートが出てきますのでぜひご協力いただければと思います。よろしくお願いいたします。
大野:それでは皆さん、今日はご参加いただきましてありがとうございました。まだまだこのシリーズは続いていきますし、12月にはリアル開催も予定していますので、よろしくお願いいたします。野田さん、豊田さん、お疲れ様です。ありがとうございました。
野田:お疲れ様でした。ありがとうございました。またお会いしましょう。
藤井:ありがとうございました。