Crew’s Life:白鳥さん、市原さん。NEW STANDARDは100点満点で何点?

 

広告会社からスタートアップへ。新しい挑戦の中で拡張し続けるデザイナーの役割

PROFILE

白鳥秋子さん
アートディレクター・デザイナー

すべての事業の立ち上げに、最初からデザイナーが入る

NEW STANDARDはこの4月から新しい事業「Tune」をスタートさせた。ビジネスパーソンが日々元気に働くために必要な栄養素を、毎月届けるサブスクリプション型のサービスだ。その時々の状況や課題にあわせてカスタマイズが可能で、栄養の専門家に相談もできる。
そのパッケージデザインなど、全体のアートディレクションを担当したのが白鳥秋子さんだ。といっても、担当した仕事はそれだけではない。
抽象度の高い議論を、図や表等で可視化していく。パッケージの試作をつくってユーザーヒアリングする。ユーザーの立場から、製品の使い勝手を検証する……。「事業が立ち上った当初は、デザイナーとしてというより、メンバーの一人としてコミットしてきました。ロゴやパッケージ等の具体的なデザイン業務がない、最初の段階からデザイナーが入り、ユーザーにとってよりよい製品やサービス体験を事業メンバーと一緒につくり上げる。NEW STANDARDでは創業当初からこの方法で事業をつくっています」(白鳥さん)。

 

クリエイターならではのユニークなチームビルディングの工夫

現在、約70名が働くNEW STANDARDには5名のデザイナーがいて、白鳥さんは他の4名のマネジメントも担当している。
コロナを機に定着したリモートワークにより、お互いが顔を合わせる機会が激減したが、毎朝、仕事の進捗を報告しあう。その中では雑談することを大切にしている。実はクリエイターは業務に直接関係のない雑談から様々なインスピレーションやヒントを得ていることが多い。リモートワークで失われてしまうクリエイターのアイディアの源泉は意図的に補うように工夫している。
たとえば、「デザイナーが知っておくべき英単語」「最近見たお奨め動画」「気になるサービス・ブランド」など。デザイナーだけあって、時代の動きには敏感だ。都内に、地球環境に配慮した美容室があると聞き、早速、皆で訪問することにしたという。
リモートワークに移行し、もう一つ、始めたことがある。2週間に一度、20代の若手2名を相手に白鳥さんがデザインについて体系的に学べるワークショップ を設けるようにした。もちろんオンラインである。「オフィスなら気軽にわからないことを聞けますが、それができなくなりました。彼らの成長が止まってしまうという危機感から始めたことです」。

 

キャリアのスタートは広告会社

白鳥さんはNEW STANDARDの創業時からのメンバーの一人。美大を卒業し、小さな広告会社に入った。何でもやらせてくれたが、その仕事のやり方はそこでしか通用しない特殊なものではないか、という疑問が芽生え、もっと標準的なやり方を学びたいと、大手の広告会社に移る。
ところが、大手には大手の問題があった。完全な分業体制で仕事が細分化し面白くない。物を売り込むための手段としての広告という仕事にも疑問を感じ始めていた。「自分がいいと思わない商品でも、一生懸命、プロモーションしなければならない。しかも、精魂尽くして頑張っても、1シーズンで市場から消えてしまうものが多く、自分の仕事に価値があるのか、空しさも感じていました」
加えてかなり過酷な労働環境だったので、思い切ってフリーランスの道を選ぶ。物を売るための広告ではなく、もっと幅広いブランディングの仕事を専門にしたいと考えた。

 

スタートアップの創業メンバーとして 事業の立ち上げやカルチャー形成にコミット

そうしたなかで出会ったのが、TABI LABOの仕事だった。当時はまだ、会社組織になっていなかったが、メディアTABI LABOが先にローンチし、2014年5月には、TABI LABOという会社が誕生する。白鳥さんのほか、数名の会社経営者やフリーランスが社員として参画した。当初はフリーとしての各自の仕事をもち、いわば二足のわらじ状態だったが、じきに全員がTABI LABO一本に移行した。
「久志はじめ、集まっていたのは、与えられたものに満足せず、自分たちが欲しいものは自分たちでつくりたいというマインドを持った人たちでした。最初のオフィスは1ルームで、キッチンがついていたので、そこでよくご飯をつくって皆で食べていました」
そこからTABI LABOというメディア事業に加え、広告・ブランディング事業、自社の1フロアを使ったカフェとイベントスペースの運営事業、そして、冒頭のサプリメント事業へと事業が拡大した。
フリーランスから再び社員へ。転進の結果はどうだったか。
「ブランディングの仕事で、われわれの相手となるのは経営者やブランドマネジャーです。ブランディングは経営課題なんです。そうなると、デザイナーが本職である私が、単独で課題解決するのは難しい。そこで、エディターやライター、エンジニアといった私とは違う専門分野を持った人たちと組んで仕事ができればいいなと思っていました。TABI LABOでの仕事はまさにその形でした。広告会社の社員、フリーランスのデザイナー、そのどちらも担うことが難しかった企業や事業のブランディングの仕事が、ここでは存分にできる。しかも、他のあらゆる仕事にも、デザイナーの活躍場所が最初から用意されている。デザインの持つ力を充分発揮できる環境です」

 

女性の活躍を後押しするような事業を

白鳥さんはじめ、社員にとって久志さんはどんな存在なのか。「社長らしからぬ社長ですね(笑)。インターン生にも自分のことをニックネームの『ビンチャン』と呼んでくれ、というくらい、組織はフラットです。世の中に顔を覗かせたばかりの新しい現象や事象を察知し、定義づけ、事業を推進する力にする。久志のその能力はすごいと思いますね」
白鳥さんにとって「働く」というのはどういうことなのか。尋ねてみると、「いいものをつくることができたら、うれしい。それこそが私にとっての働くことです」というクリエイターらしい答えが返ってきた。
NEW STANDARDでの日々の点数化をお願いした。今までの話ぶりから100点という答えを予想したが……。「もうすぐ15年になる職業生活の中で、今が最も広い範囲で深くブランドや事業にコミットできる状態です。成長の余白を残して90点かなあ」
実は白鳥さんには夢がある。「結婚、出産と、女性は男性よりもライフステージの変化が大きい。そんな女性たちの活躍を後押しできるような事業をいつか立ち上げたいんです」。
それが形になった時、満点になるのだろうか。

 

欲しいものは自分でつくり出す。生きていくうえで大切にしたい価値観を学んだ

PROFILE

市原万葉さん
広報

産休明けにいきなり新設の広報職へ

市原万葉さんは入社6年目で、昨年4月から広報業務を一人で担当している。会社が TABI LABOからNEW STANDARDへの社名変更を実施し、専任の広報職をおくという経営判断があって初めて生まれた役職だ。それまではメディア事業のマーケティングを担当しており、広報はまったくの未知の分野だった。
しかも、1年2カ月の産休明けという、プライベートにも大きな変化があったタイミングだった。市原さんが話す。
「もともと体力、気力には自信があったので、以前と同じようにフルタイムで働き、帰宅して家事と育児に向かい、子供を寝かしつけた後に、昼間できなかった仕事を片づけたり、広報の勉強をしたりしていました。3カ月ほど経った頃、さすがにこれでは体力が持たないと痛感。仕事の進め方をゼロから見直し、復帰から半年ほどかけて、ようやく自分に合ったリズムをつかむことができるようになりました」
広報として初めて担当したのが、社名変更とCIリブランディングという会社としてもかなり大きなニュース。プロジェクトの一員としてリブランディングの全プロセスに携わりながら、発信情報の整理からプレスリリース作成や取材対応、新しいコーポレートサイトの設計など、広報業務のインプットとアウトプットを高速で繰り返す日々。加えて、始めたのが会社の価値観を発信するウェブマガジン「ニュースタ!」の創刊業務だ。
現在、久志さんが語る経営の話や社名変更の内幕話、カナダで古着屋経営などユニークな経歴を経て入社した人たちへのインタビュー、同社の自炊ランチに密着したルポなどがラインナップされている。
「全体のコンセプトからタイトル、記事の企画、デザイン、オペレーションにいたるまで、一つのメディアを他業務と並行しながら1ヶ月で立ち上げるのは、とても大変でした。ただ、広報としての経験が浅い私が、創業期から在籍していることやメディア事業に所属していた経歴を活かして、プラスアルファで生み出せる価値を模索するなかで始めた、 やりがいのある仕事でした。今でもアップデートを続けていて、会社の提供価値の言語化やアーカイブ、社内外への説明コスト削減などにも繋がっています」

オフィスに入って直感、ここで働きたい

市原さんは大学3年生の春休みにインターン生として働き始め、そのまま正社員として入社した。
小学3年生の時、難民救済プロジェクトの話を聞く機会があり、心を打たれる。自分も世界の人々を救う仕事がしたいと、国連職員を目指す。その近道は外交官になることだと考え、一心不乱に勉強に打ち込むが、第一志望の国立大学への入学の夢は叶わず、私立大学法学部へ進む。
大学では国際法を学び、海外インターシップの運営を行う大学横断の学生団体と、スキューバダイビングのサークルに属し、学生生活を満喫する。特に後者の仲間と島に長期滞在する生活を繰り返すなかで、自分とその周りを幸せにする島の人たちの暮らしに触れたことが大きな変化をもたらした。「これまで世界の子どもを救いたいと大きな夢に邁進してきたが、私は自分の好きなことすらまだわかっていない。まずは自分と身近な人を幸せにすることから考えてみよう」と10年来の夢を見つめ直すことになった。
大学3年のときにアメリカに留学。その間、ボストンで毎年開催される、日本企業の説明会に顔を出し内定を得て帰国するが、翌年に入社したのはそこではなかった。
「知り合いにNEW STANDARD―当時はTABI LABO―の創業メンバーがいて、創業間もないTABI LABOに出会いました。旅先で出会うような世界中の新しい価値観に触れることができるメディアの仕事がとても面白そうだと思って、残り1年の学生生活をここでのインターンシップに捧げようと決めたんです」
当時、TABI LABO(現NEW STANDARD)は創業1年目で、東京・代々木上原にあった一軒家がオフィスだっ た。
「吹き抜けの螺旋階段がある素敵な家で、入った途端にここで働いてみたいと直感しました。正式な募集はなく、押しかけのインターン生だったのですが、久志はじめ、メンバーが『やってみるか』と快く受け入れてくれました」

 

仕事、子育て、プライベートワーク の三本柱

最初の直感は間違っていなかった。「これだけ優秀なメンバーが人生の舵を切って集まり、強い熱量を持って会社や事業を立ち上げる場に居合せることなんて 、人生で最初で最後の経験かもしれない。その頃には複数の企業から内定をもらっていたのですが、思い切ってこの会社に入社することにしたんです」。
NEW STANDARDで働く日々を採点してもらうと、100点満点だという。「仕事、子育て、そしてプライベートワーク、今はその三本柱がうまく回っています」。
そのプライベートワークとは育児がきっかけとなったものだ。キーワードは「食卓からwell-beingを」である 。
「きっかけは、家族の体調に合わせたご飯を作れるお母さんになりたい、と思って育休中に通い始めた食養生の料理教室でした。そこで子どもたちが過ごす未来に関する話や考えをシェアするうちに、食の循環や持続性のある暮らしに関心を抱くように。そして、100年後も美味しくて安心できる食卓があって欲しいと強く願うようになりました。2年半の構想期間を経て、今はコミュニティ0期をローンチし、畑を始めたり、親子でリトリートできたり働くことができる自然に囲まれたアトリエを葉山で建設中です」
プロジェクトの名称はTSUMUGI(つむぎ)という。市原さんは情報発信全般を担当し ボランタリーにコミットしている。

 

価値あるものを提供し、自分の世界を広げ続ける

「NEW STANDARDで働いて改めてよかったと思うのは、生きていくうえで大切にしたい価値観やマインドセットを培えたこと。与えられたものを消費するのではなく、欲しいものや未来は自らの手で生み出す、という企業カルチャーの洗礼を受けたからこそ、仕事以外でもTSUMUGIのような活動を始めました。
マインドセットという意味では、私のなかでこの会社に出会って安定の定義が変わりました。大企業に属することが必ずしも安定なのではなく、自分の能力やスキルを磨き続け、自分を常にアップデートし続けられることこそが大切なのだと思うようになりました」
直近の目標としては広報のプロフェッショナルを目指す。スタートアップ企業という経営と近い距離で働いているからこそ、経営視点を持ち事業を推進し会社の成長を後押しできる広報になりたいという。
働くということを別の言葉で定義してもらった。「働くことは、価値あるものを提供し、自分を、そして世界を広げ続ける手段です。それは一人では決してできないので、信頼できる仲間と共に取り組んでいきたいです」
市原さんは現在、第二子を妊娠中で、12月には出産予定だ。新しい家族と出会うことで、市原さんの次のフェーズのキャリアが始まる。