Captain’s View : 代表・藤代氏は、どうしてママにフォーカスしたのか?

 

働きたいママのために
「子供と一緒にいられるオフィスを作る」
という逆転の発想

子供を持った女性が働こうと考えた時、今の日本では未だにハードルが高いのが現実です。
まずは保育園です。地域にもよりますが、十分なキャパシティがあるとは言い難い状況です。
運よく入園の機会に恵まれ、働き始めたとしても、子供が急に熱を出すなど不測の事態は頻発しますので、仕事仲間に迷惑をかけるのではと肩身の狭い思いをしながら、早退や欠勤を告げなければなりません。
さらに、働く場所を得ることも容易ではありません。小さな子供がいるというだけで、採用を見送る会社は、今も実にたくさんあります。働くことを諦めざるを得ないお母さんの数は、100万人を超えると言われています。
そこに、救世主のように現われたのがママスクエアという会社です。
同社は専任のキッズスタッフが常駐するキッズスペースがあり、ガラス越しに子供の様子が見える職場として全国に展開しています。ママたちはキッズスタッフに子供を見守ってもらう隣で、電話業務やPCの入力業務をこなします。同僚は同じようなママたち。助け合い、交流しながら、都合のいい曜日に、短時間でも働くことができます。
ママが子供のそばで働くことができるという、保育園でも在宅ワークでもない日本初のワーキングモデルを展開する同社の藤代聡社長に話を伺いました。

株式会社ママスクエア 代表取締役 藤代 聡氏
聞き手 ライフシフト・ジャパン 代表取締役CEO 大野誠一

 

潰れる会社、潰れない会社、3つのポイント

―― ママスクエアという会社を立ち上げた経緯を教えていただけますか。
藤代 僕は学生時代から起業家志望だったんです。とはいっても最初は勉強のために企業で働こうと思い、就職活動はしました。「7年間で7事業を見てから起業したいと考えているので、御社には1年しかいられません」と生意気なことを言って(笑)。受けた中にリクルートがあり、「うちに来れば1年間で300社くらい余裕で見られる」と担当者が言うので、リクルート本体、アルバイト情報誌を出していたリクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)、それに、東京リクルート企画の3社を受け、最終的に、一番仕事がきつく、ハードな営業方針を持つフロムエーに決めたんです。
―― なかなかMっ気がありますね。
藤代 そうなんです(笑)。結局、仕事が面白くて10年も勤めてしまいました。その10年で、求人広告の営業を通じ3500社ほどとお付き合いすることができました。
私が入社したのは平成元年(1989)で、バブルの最盛期。翌々年にバブルが弾け、景気が一気に悪くなり、取引先がどんどん潰れていきました。一方で潰れない会社もある。その差は何だろうと思ったんです。
ポイントは三つあると思いました。
一つは現金商売。キャッシュがすぐに入ってくる会社は潰れない。それとは対極で、手形取引などが多いアパレル会社、内装会社は軒並みしんどい目に遭っていました。
―― 二つ目は何でしょう。
藤代 女性です。女性向け事業で成功しているか、女性と男性が肩を並べて働けるような会社です。リクルートはもちろんフロムエーも、後者の典型でした。
三つ目は、世の中が求めている商品やサービスを提供している会社です。お客様に支持され、愛されているわけですから、ちょっとやそっとの不況では潰れません。

 

お母さんが休める親子カフェをつくろう

―― なるほど。その三つのポイントをすべてクリアするような事業や会社をつくろうとしたわけですね。そこからママスクエアにどう結びつくのでしょう。
藤代 僕自身の原体験から、なんです。結婚してから子供が次々に生まれたんです。3人目が生まれると、妻は毎日大変でした。その時、同じような女性は日本にごまんといるだろうと思いました。本人の疲弊だけでは済まず、ひどい場合はわが子に手をあげてしまうかもしれない。
その当時、子供が親から虐待され、あるいは育児放棄によって、命を落としてしまう悲惨な事件などもありました。これはありえない。子供がいつも笑顔でいられる世の中にしたい。そのためにはお母さん自身が健康で、心も穏やかである必要があることに気づいたんです。
実は、妻が育児で大変なので、土日は僕が子供を連れて公園に行くようにしていた。その空いた時間、妻には街中でお茶を飲んだり、好きな買い物をしてもらい、リフレッシュしてもらう。夕方公園から帰ると、すごく元気になっている。お母さんにはこういう時間が不可欠だと思ったんです。だったらそれができるスペースを僕がつくればいいと。
それで、フロムエーを辞め、屋内遊具のボールプールとカフェがセットになった親子で楽しめるカフェをつくったんです。2014年のことです。保育士が常駐しており、お母さんは子どもをボールプールで遊ばせながら、ゆっくりと飲食ができる仕掛けです。
 

 

採用面接で泣きだしてしまうママたち

―― それがママスクエアの前身。
藤代 その通りです。フロムエーを辞める時、その構想を話した相手ほぼ全員から「絶対うまくいかない」と大反対されたのですが、蓋をあけてみたら大当たりで、すごく繁盛し、3カ月先まで予約が取れない店になりました。
最終的に20店舗ほど展開することになり、そこで働くスタッフを採用するため、2000名ほどの女性を面接しました。
そうしたら驚くべきことに、面接の最中に泣き出す人が続出したんです。普通に志望動機などを聞いているだけなのに。
―― なぜでしょう。
藤代 面接をしてくれたことをありがたく思い、感極まって泣いてしまっていたんです。その女性たちは新聞折り込みの求人広告を見て働きたいと思い、まず電話をしてみた。「年齢は28歳で子供が5歳を頭に3人います」というと、担当者が「ああ、採用締め切りました」と謝る。運がなかったんだ、仕方がないと思って、翌週、折り込みチラシを見ていると、その会社が前回と全く同じ条件で求人を出している。すると、気づくわけです。私は小さな子供がいるから断られたんだと。
この話をある物流会社でしたところ、人事の人が「うちも同じです。小さな子供を持つお母さんを面接していると、途中で泣かれちゃうんです」と。
―― 特別な話ではないということですね。

 

電話業務など、ママにふさわしい仕事を探す

藤代 はい。とにかく、そういう目に遭ったことがあるのが一番多い人で12回、5、6回は普通ということでした。でもその12回断られた人の履歴書を見ると、TOEIC870点とあった。満点が990点ですから優秀だと思いました。実際、採用すると、とても仕事ができた。親子カフェだと、カフェスタッフか子どもを見るスタッフ仕事がメインなので、実務領域での優秀さを活かせないと考えました。そこで考えたのが、キッズスペースの横にオフィスをつくることでした。それが形になったのが今のママスクエアです。2014年に創業しました。
―― ママスクエアは親子カフェの延長線上にあるわけですね。
藤代 はい。どちらも子供の笑顔を増やすのが目的です。子供から離れゆっくりくつろぎたいという気持ちを満たすのが親子カフェ、働きたいという願望をかなえるのがママスクエアです。
―― そこに先ほどのTOEIC870点の人のようなハイスペックの女性もどんどん集まってくる。そうなると、ママスクエアという場をつくるだけでなく、そうした女性たちにふさわしい仕事を用意することも藤代さんの重要な役割になるわけですね。
藤代 はい。でも子供のそばで働ける仕事は限られているのも現実です。時間が限られおり、午後3時、4時くらいまでしか働けません。
どうしたらいいのか。探していくうちに行きあたったのが、朝のワイドショーが終わった午前11時くらいに始まるテレビショッピング関連の電話業務でした。
「この羽毛布団が何と2万円です」といった放映が終わると、注文の電話が入り始め、午後2時くらいには受付終了。その受注データをパソコンに入力して、3時、4時には帰宅できる。扱う商品も、生活必需品が多いので、電話で注文を受ける側も、親しみも湧く。
先ほどの質問に戻ると、おっしゃる通りで、このテレビショッピングのコールセンターのような仕事を取ってこなければいけないわけです。

 

ママと子供の双方を幸せにする

―― なるほど。ママスクエアは現在59店舗(2021年1月現在)あるそうですね。ある店舗は企業内、ある店舗は複数企業との共同運営、ある店舗はフランチャイズといったように、設置形態が多様なのは、仕事を提供してくれる企業が多様だからでしょう。そうした企業は株主にもなっているのですか。
藤代 ケース・バイ・ケースです。実は当社の株主はお名前を公開していない個人株主の方々が結構多いんです。それこそリクルート時代の諸先輩含め、細かいお話は抜きに、ママスクエアの事業内容を説明しただけで出資を決めてくださった方々です。
―― 皆さん、何を評価するのでしょうか。
藤代 お母さんと子供両方を幸せにするという一点です。「すごくいいことだ」「頑張ってください」と励まして下さるんです。
―― 2014年に創業してもう7年になります。これまでは何をKPI(重要業績評価指標)と見なしてきたのでしょうか。
藤代 雇用するスタッフの数、つまり規模拡大です。この事業を始める際、働きたくても働けない母親が日本にどのくらいいるのか、リクルートに手伝ってもらい、調べたんです。その数は約156万人でした。われわれだけでその156万人の雇用を生み出すのは無理なので、これから出てくるかもしれない競合含め、こうしたビジネスが広がっていけばいいと思っています。
―― いまスタッフの数はどのくらいでしょうか。
藤代 1200人です。最大80名ほどが在籍する店舗もあれば、7、8名のところもあり、店舗のサイズはまちまちです。
―― スタッフの雇用形態はどのようになっているのでしょうか。
藤代 多くはパート、契約社員ですが、正社員や業務委託契約の人もいます。でも、雇用形態によってその人の見え方が変わるのは望ましくない。だから、彼女たちをすべてスタッフと呼んでいます。
当初、キッズスペースでお預りするのは1歳から6歳までの未就学児でした。つまり、子供が小学校に入ると、ママスクエアを卒業する母親が多くなるはずですが、そうはなりませんでした。子供はいるけれど、大きくなったから連れてこない。純粋にここで働き続けたいという人たちが非常に多くて。これは嬉しい誤算でした。

 

保育園はライバルではない

―― 皆さん、それだけ働きやすいのでしょう。
藤代 周りがみんな同じ境遇のお母さんたちがほとんどなので、「今日は三者面談があるので4時に上がります」「子供が風邪なので、休ませてください」とか、言い易いんです。他の職場だったらそうはいかないでしょう。
―― ママスクエアの経営スタッフとして働きたいという女性もいますか。
藤代 店舗の経営スタッフになってもらっている人も多くいます。店舗でも、メンバー、スーパーバイザー、マネージャーというように役割構造ができているんです。
―― スタッフのお母さんたちはここで働くことで何を得ているといっていいのでしょうか。
藤代 就業機会だと思います。「主婦やママに何ができますか」という質問をよく受けるんですが、いつも違和感を覚えるんです。独身時代と比較して、子供ができたからといって、その人たちの能力が下がることはまったくないでしょう。
―― その通りだと思います。偏見ですね。
藤代 そういう女性たちが働きたいのに働けないという世の中はおかしい。週2日なのか5日なのか、あるいはバイト程度の仕事でいいのか、役員を目指すくらいのハードな仕事を望むのか、といった個々の事情やキャリアプランに応じた多様な選択肢を用意したいのです。
―― 保育園との関係はどうなのでしょう。保育園に子供を預けられたら、ママスクエアには来ないのかどうか。
藤代 ママスクエア1号店である埼玉の川口店を出店する前、その地域の待機児童の数を調べたら90名ほど。一方で川口店採用時の応募人数は約300名。保育園には申請せず、子供の面倒を家で見ながら、自宅近くで、あまり負担を感じず働きたいという女性は日本全国に結構いるのでしょう。
―― 保育園との奪い合いはないと。
藤代 はい。神奈川の茅ケ崎店は駅ビルに入っているんですが、隣が保育園ですから。働きたいのに働けていない156万人という母数に対し保育園自体も足りていない。うちが1000カ所に増えたとしても、スタッフとして雇えるのは156万人の数パーセントです。

上下関係を学ぶ子供たち

―― 開拓しがいのある市場ということですね。ところで、お母さんと一緒に店舗に来る子供たちは、お母さんが働いている間、どう過ごしているのでしょう。
藤代 1歳から6歳までの異年齢の子供たちが一カ所に集まっているわけです。子供を預けるスタッフが評価してくれるのは、年齢の高い子供が低い子供の面倒をよく見るようになったこと。あるいは、年齢の低い子供が年上の言うことをよく聞くようになったことなんです。
見学に来たある教育研究者が、「子だくさんで、地域に子供があふれていた昭和の時代ならともかく、昨今は育て化が進み、異年齢の子供集団が形成されなくなっている。子供の教育という意味では、すごくいい環境だ」と評価してくれました。
もうひとつ、その人が評価してくれたのは、お母さんが働いている様子を子供たちがガラス越しに見られることです。「ここで長い時間を過ごした子供は親に対する感謝の気持ちを高めるでしょう」と言われました。
―― 次世代の子供たちのことも含め、ママスクエアはやはりヒト・ドリブンな会社だと思います。これからの展開をどう考えていますか。提携先やクライアントを増やしながら、大きくしていくイメージでしょうか。

 

日本で一番主婦に詳しい会社を目指す

藤代 成長に関しては横軸と縦軸で考えています。横軸はお母さんのライフスタイルにもっとより添うということ。一生懸命、楽しそうに働いていたスタッフが「退職します」と言ってくることが最近増えた。理由を聞くと、親の介護が始まったというんです。子育てが一段落すると、親御さんが歳を取り、その面倒を見なければならなくなるケースも増える。まさかその親御さんをうちに連れてくるわけにはいかないでしょう。こうした介護離職への対応も早急に行わなければなりません。
縦軸というのは、スタッフである母親の年齢――といっても20代、30代が大半ですが――によって、「こんなサービスがほしい」「こんな商品があったら買いたい」というニーズが違います。そのニーズを吸い上げ、つまり主婦層専門のマーケティング会社のような機能をわれわれが持ち、お母さんたちの生の意見を企業にフィードバックする事業が成り立つと考えているのです。日本で一番主婦に詳しい会社を目指したい。
―― なるほど。一方で、育児休暇を取り、仕事の一線を退いた女性たちが、本格的な復帰を果たす前に、短時間勤務をしてみる場という機能もママスクエアにはある、と思うんです。そういう意味で、ママスクエアで働いた後、別の企業に移るとか、あるいは起業する、フリーランスになるといった選択肢も意識するスタッフもいるのではないでしょうか。
藤代 ママスクエアの卒業生という考え方ですね。それは大切なことで、まさにその準備を進めており、スタッフ向けの何らかの教育研修を導入しようと考えています。ここで働いている間に資格を取ってもらう。知識や技能を身につけてもらう。その上で、ママスクエアの次のステージとして、その人たちが働ける新たな場も整備していこうと思っています。

PROFILE

藤代 聡(ふじしろ さとし)
株式会社ママスクエア 代表取締役

1966年東京都生まれ。1989年、株式会社リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)入社。10年間の営業で3500社のクライアントを担当し、その後、事業企画部、メディアプロデュース部へ異動。タウンワークの全国展開プロジェクトのプロジェクトリーダーを務める。37歳で退職。2004年3月に親子カフェ「スキップキッズ」創業。1号店となる西葛西店をオープン。2013年10月株式会社ディアキッズを立ち上げ。2014年12月株式会社ママスクエアを設立。同社代表取締役就任。