【KX Monthly Session】 昭和100年。日本のカイシャはどこへ行く? 《SessionⅠ》野田稔さん(明治大学教授)と考えるKX(カイシャ・トランスフォーメーション)5つの課題

人生100年時代にふさわしい「人と会社の新しい関係」の探索・提言を行っている「カイシャの未来研究会2025」(主査/ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO大野誠一)は、2025年3月より10回のシリーズセッション『昭和100年。「日本のカイシャ」はどこへ行く?~KX(カイシャ・トランスフォーメーション)5つの課題』を開催中です。

昭和100年となる2025年までに、昭和モデルの経営から脱却できない「日本のカイシャ」を、人生100年時代の会社=「“人”が主役の会社」へと変えていきたいと6年余にわたって活動してきた研究会の集大成となるセッションです。

毎回、研究会コアメンバーの一人がメインスピーカーとして、持論や想いを展開していきます。SessionⅠ(2025年3月14日開催)のメインスピーカーは、野田稔さん(明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科:教授)。「日本のカイシャ」の現状に深い問題意識を持つ野田氏に、問題の根源、処方箋を掘り下げて頂きました。

 

<開催概要>

開催日時:2025年3月14日(金)12:00~13:00

メインスピーカー:野田稔(明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科:教授)

ホスト:大野誠一(ライフシフト・ジャパン:代表取締役CEO)

    豊田義博(ライフシフト・ジャパン:取締役CRO)

 

<このセッションのエッセンス>

セミナーシリーズの開始と背景説明

大野氏が2018年から始まった「カイシャの未来研究会2025」の経緯を説明し、昭和100年(2025年)に向けた日本企業の変革の必要性を提起。研究会では、人生100年時代における人と会社の関係性の変化に注目し、LinkedInの「アライアンス」などの海外事例も参考にしながら議論を展開してきた。

失われた30年と日本企業の変容

野田教授が1989年から現在までの日本企業の世界的地位の低下を分析。1989年には世界の時価総額ランキング上位を日本企業が占めていたが、2018年にはトヨタ1社のみとなった状況を指摘。また、IMDの世界競争力ランキングでも日本の順位が大きく下落したことを説明。この衰退の原因として、バブル崩壊後の「緊急避難」的経営が常態化したことを挙げている。

従業員の意識変化と会社の本質

従業員意識調査の結果から、日本企業における閉塞感や指示待ち体質が42%を占める深刻さを指摘。また、「ホワイトカラー」を業務内容によって「クラリカルワーカー」「顧客接点ワーカー」「新価値創造ワーカー」「マネジメントワーカー」に分類し、今後は顧客接点や価値創造の役割がより重要になることを説明。

KXの概念と実践

「個人の目覚め」と「組織の進化」をKXの両輪として位置づけ、5つの視点(心理的安全性、D&I、オープンイノベーション、エンゲージメント、リスキリング)を提示。また、「KXオーガナイザー」制度の導入により、組織変革を推進する専門家の育成に取り組んでいることを紹介。

 

<このセッションのキーワード>

#KX
#“人”が主役の会社
#昭和100年
#日本のカイシャ
#コンヴィヴィアリティ
#社会構成主義
#「緊急避難」の常態化
#個人の目覚め
#組織の進化
#KXオーガナイザー
#カイシャの未来研究会2025
#野田稔
#ライフシフトジャパン

 

<参加者の声(アンケートより)>

記憶に残った印象的なフレーズ

 

青臭い話を、真剣にしよう。
→ シンプルかつ強烈。理想に真っすぐ向き合う決意が伝わる名フレーズ。

会社は社会の幸福の総量を増やしているのか

→ 存在意義を根本から問う、哲学的な問い。

会社というモンスターがいるのではなく、どこまでいっても人と人のつながりで構成されている

→ 組織に対する固定観念を揺さぶる、強いメッセージ。

緊急避難の意識が続いたことで企業の力が衰退した

→ コロナ以降の状況を鋭く一言で表現。

利己的合理主義

→ 単語としてのインパクトが強く、時代批判的なニュアンスもある。

どこからでも進められるKX

→ 希望と実践を示す、ポジティブなキーワード。

 

 

心に刺さる言葉・表現(共感や気づきを促すフレーズ)

 

この閉塞感の加害者はいない、もしくは自分もその『加害者』の一部かもしれない

→ 他責から自責への視点転換が刺さる。内省を促す表現。

会社は『社』(器)で、会社を作っているのは中にいる社員一人ひとり

→ 組織観を問い直す言葉で、当事者意識を呼び起こす。

犯人探しは意味がないかもしれないが…

→ 建設的な視点と現実的な批判が同居しており、読者の心に引っかかる。

変化しないでいる日本人の本質的な問題が浮き彫りにされている

→ 社会全体への問いかけとして深い。

根底にある人と人の『つながり』が生み出す力に期待しています

→ 希望とつながりを大切にした視点が共感を呼ぶ。

『会社を悪者にしない』 by 野田先生

→ 短くも本質的。多くの人が抱える「敵・味方構造」への違和感に気づかせる。

 

 

<アーカイブ映像(フル動画)>

 

【マンスリーセッションスタートの挨拶】

大野:皆さんこんにちは。ライフシフト・ジャパンの大野です。

金曜日のお昼どきですけれども、ちょっと重たい「日本100年日本のカイシャはどこへ行く?」というテーマで、今日から年末12月までかけて、10回のシリーズのセミナーをお届けしていきたいと思っております。

 今回は、毎月このお昼時の時間帯でご提供していこうと思っておりますので、是非皆さん楽しんでいただければと思います。時間が時間ですので、お昼休みを取りながら、お昼の食事をとりながらという方もいらっしゃるかもしれませんが、肩の力を抜いて、気楽にご参加いただければ嬉しいです。

このシリーズ、今日からスタートですけれども、お届けさせていただく基本的なパーソナリティーは、このKXでおなじみの明治大学大学院の野田稔先生と、私どもライフシフト・ジャパンの豊田義博さんです。

お2人、こんにちは。よろしくお願いします。

野田さん、今日は珍しくスーツにネクタイ姿ですね(笑)

野田 :一応、トップバッターですもんね(笑)。ちょっと気合入れて、珍しくネクタイ締めました。

大野 :ありがとうございます。よろしくお願いいたします。豊田さんもよろしくお願いします。

豊田 :はい。よろしくお願いします。

大野 :それでは、今日はまたいつものことながらではありますが、めちゃめちゃ盛りだくさんな1時間で、「果たして1時間で終わるのかな」というのが一番の課題なんですが(笑)

野田先生、今日一番伝えたいことを結論から先に、一言だけいただいてもいいですか?

野田 : はい。我々は「カイシャというモンスター」を変えよう、だから、「カイシャ・トランスフォーメーション」ということを言っているんですが、実はカイシャというのは、私達の心の中にあるものなので、カイシャからひどい目にあわされてるなんて被害者面(づら)をしちゃいけないと思ってるんです。

我々の心の中を変えることが、実はカイシャ・トランスフォーメーションだということを今日は伝えたいと思います。

大野:なるほど。はい。まず、しょっぱなから結論出ておりますが(笑)豊田さん。いかがですか?

豊田:野田さんがおっしゃられたのと同じになるんですけれども、この活動は、一人ひとりを変えていく活動なんだろうなと思っています。

なんだかとても口幅った言い方ではありますけれども、「世の中を真面目に変えていきたい」そんな研究会の皆さんの想いが詰まった会にしていきたいと思っています。

大野:では、よろしくお願いいたします。スタートいたします。

 

【セミナーシリーズスタートの背景】

大野:さて、この議論が始まったのは、2018年から「カイシャの未来研究会2025」という研究会活動をスタートしたところが起点になっています。このときに「2025」という数字をこの研究会のタイトルに入れたのは、2025年というとし、そう!今年ですね。今年が、昭和100年なんだ!ということを、2018年に考えていて。

このカタカナの「カイシャ」という表現は、最近JTC(=Japanese Traditional Company)というような言い方で揶揄もされる「古い昭和の日本企業」のような思いを込めたんです。「昭和の時代に出来上がった今の日本のカイシャを、昭和100年になるまでには変えていこうよ」とそんな想いを込めて、「2025」という数字を研究会のタイトルに入れたわけです。

 そしてついに、もうあっという間に、昭和100年(である)2025年がやってきてしまいました。そこで一つの集大成、ファイナルイヤーとして、今年の3月から12月、フルメンバーで、リアル開催まで含めて1年間、昭和100年の日本のカイシャの状態とその未来を一緒に考えていきたいなと、このイベントをスタートしました。

 今日は皆さんと一緒に考える「カイシャ・トランスフォーメーション5つの課題」の第1回になります。2018年にこの議論を始めたときの最初の想いはどんな想いだったかというと・・・

私達が「ライフシフト」という言葉を冠に掲げたソーシャルベンチャーであるライフシフト・ジャパンを立ち上げたときに、「人生100年時代というのは、人と会社の関係が根本的に変わっていくきっかけになる、そんな時代の変化なんじゃないか」「一人ひとりが新しい生き方や働き方を実践するために、会社との関係がどう変わっていくと良いかを考えていきたい」そんな想いでした。

当時、この「アライアンス」という本が話題になっていました。LinkedInの創業チームが書いた本で、篠田麻貴子さんが監修役に入ってらっしゃる本です。当時のアメリカでもこういう新しい会社と個人の関係というものが議論されてるんだなと、参考になる部分がありました。 「日本ではこの考え方ってどういうふうに実現できるのか」と「アメリカと日本の違い」も感じていました。そんな中で、この青臭い話を真剣にやっていく、そういう場としてこの研究会を立ち上げたんです。

 

2018年から、日本を代表するようなHR系の皆さんや、大学の先生、NPOの代表などの方々と研究会活動を始めましたが、毎回かなり白熱する議論が続きました。2018年の12月に設立のキックオフフォーラムをやり、翌年には、1回目の拡大フォーラムということで、オープンセミナーもやりました。

このとき、当時一部上場企業だったサイボウズの社長の青野さんにもご参加いただきました。青野さんは当時、「カイシャというモンスターが僕たちを不幸にしてるかもしれない」という、かなりラジカルな本を書かれていて、この中に刺激的な言葉がいろいろ書かれていました。その中に、先ほど野田先生からもお話があったような「カイシャってモンスターなんじゃないの?」とか、「カイシャなんていうのは実は実在してないんだよね。カイシャが大きくなればいい、みたいな考え方って何かおかしくない?」ということを、はっきりと書かれていました。

例えば、「サイボウズはなるべく利益出さないようにしてるんだよ。 なぜなら・・・」というようなことを丁寧に書かれている本で、こんな本を上場企業の社長が書いていいのかなと、私はびっくりしましたが、非常に刺激を受ける本でした。

 

この辺から議論がスタートをして、ここで、「私達がこの研究会活動を通じて変えていきたいと思っているのは、カイシャそのものなんだろうか?」「カイシャって実在してないと言われているけれども、それは何なんだろう?」などということを新たな疑問として、議論のステップが上がっていきました。

例えば、採用とか評価とかの人事制度とか、管理職かトップを変えれば会社も変わるんだろうか?というようなことが、議論の端々に出てきたんですね。

そういう中で最初のメッセージとして私達が出した案とは、「会社」というのは、読んで字のごとく、「出会いの社(やしろ)」にしていくといいんじゃないか?ということ。この「社(やしろ)」は、神社にありますよね。 空っぽの箱なんですね。 会社というのは空っぽの箱で、実在しているものじゃないんだと。その箱の中にいる一人ひとりの人間関係が、会社そのものなんじゃないかと。「これからの日本の会社はこんな方向にいったらいいんじゃないか?」というような提言を発信しました。

コロナ禍前の2019年に発信した内容を今振り返ってみると、ずいぶん気配が出てきている項目もあるんです。そういう意味では日本の会社も、少し変わってきてるのかもなと感じる要素もあるんですが、一方で、ちっとも変わらないなと感じる場面もたくさんあって。その辺の議論を詰めていこうと考えています。

例えば、「ヒトドリブン経営」というキーワードでの企業研究をしたり、「『変身資産』や『変わる力』みたいなものがカイシャにもあるんじゃないか」とオープンフォーラムを開いたりして、2020年から2021年にかけて、議論し続けてきました。

そんな中で、この「カイシャ・トランスフォーメーション」というキーワード、最初にこのキーワードを思いついたのは、「DX」とか「GX」とか、「●X」が流行っている中で、「カイシャもトランスフォーメーションしていこうよ」と言葉遊びで出てきたものです。もう3年前になりますが、2022年に13ヶ月で10回という連続セミナーを行ったのですが、ご参加いただいた皆さんと意見・発言を紡ぎ出していく中で「KX」の考え方が、だいぶ整理されたと思っています。

 

この「KXの議論」の最初の一歩、「私達がまず最初に変えなければならないのは、私たち一人ひとりの中のカイシャというモンスターの幻想なんじゃないか?」「カイシャそのものじゃなくて、その幻想が誰しもの中にもあるんじゃないの?」「そこを変えていくことが一つのポイントになるかな?」という議論に至って、「KX」という考え方を詰めていった感じですね。

「そもそも会社って何のためにあるんだろう」「そもそも会社ってそこに集う人を幸せにするためにあるんじゃないのかな?」というような、まさに青臭い話を、かなり真剣に続けてきたというのが、一連の流れの中です。

 

【前提となる視点-イヴァン・イリイチの「コンヴィヴィアリティ」の概念】

大野:さて、そういう中で私達が一つ巡り合ったというか、見つけたのが、オーストリア生まれの哲学者、イヴァン・イリイチがかつて書いた「コンヴィヴィアリティのための道具」という考え方です。 この「コンヴィヴィアリティ」、これ英語で言うと「コン」というのが”with”ですね。

ヴィヴィアリティはLive(リブ、ライブ)って感じ。 つまりwith LIVE、ともに生きるということで、「共生」というようなことで訳されるケースが多い。 ちょっと難しい言葉なんですけれども。

この中に「二つの分水嶺」という考え方が出てきます。

 一つ目の分水嶺を越えた「道具」というのは、人間の能力を拡張する非常に素晴らしいものなんだけども、実は進んでいくともう一つの分水嶺を越えていく、そこを超えてしまうと、その道具は人間の自立と自律を喪失させて主体性を奪い、隷属させてしまうんだというような考え方なですね。

代表的な例で、イリイチは自転車と自動車というようなものを対比しています。

一つ目の分水嶺を越えた「自転車」という道具は人間の能力を拡張していくんだけども、二つ目の分水嶺を超えた「自動車」は、すごく性能は高いけれども、ときには人を殺してしまったり、事故を起こしたり、空気を汚したりといろんな問題を起こすよねと。 そして人間を隷属させているんじゃないの?と。この「分水嶺」という考え方を、ずいぶん前に、出されていたわけです。

この考え方にぶつかって、私達の「KX」の議論もだいぶ深まったと思うんですが、ここは、野田さんと豊田さんにも意見を聞きたいと思っております。

野田先生、この「コンヴィヴィアリティ」という言葉は、野田さんも昨年、一昨年あたり、ずいぶんフューチャーされた考え方だと思いますが、「KX」の関連の中でこの言葉で受けた、インスパイアされた部分をちょっとご紹介いただけますか?

野田 :私が「コンヴィヴィアリティ」という言葉に出会って、本を買ったのは、ずいぶん昔なんですよ。全然そんなつもりで買ったのではなかったんですが、ふと、このKX活動をやっていたときに、「ちょっと待てよ」と。

もしかすると、「会社」も人々の能力拡張のためにできてたはずだったよね?と。 だけど、我々、明らかに会社に隷属させられてる感があるじゃない?ということは、この「コンヴィヴィアリティ」という概念を使うことによって、会社を正しい道具に戻すことが可能かな?と思ったときには、雷に打たれたような衝撃を感じました。もう、なんか、えらい興奮しまして、皆さんにずいぶん言った記憶があるんですけれども(笑)

まだ、我々自身は、「コンヴィヴィアリティ」という概念も使いこなせてないし、また逆に、「会社」という道具も使いこなせてはいないんですけれども、まさにこのイリイチの考え方をベースに置くことができるなと今思ってるというところです。

ただなんか「コンヴィヴィアリティ」って、なんかみんな言いにくそうですね(笑)

なんかもうちょっと言いやすくならないかなとは、思ってるんですけど。はい。

大野 :はい、ありがとうございます。私もこの考え方は野田さんにご紹介いただいて、非常に目が覚めたというか、そんな思いをしました。

そういう中で、続いて豊田さんの方から、この「社会構成主義」という考え方を紹介していただきます。まさに、「カイシャというモンスター」という考え方の、理論的バックグラウンドになった(ものだ)と思うんですね。

豊田さん、この辺との関連、いかがでしたか?

 

【前提となる視点-社会構成主義】

豊田 :はい。「社会構成主義」そこにちょっと記述がありますが、「客観的な事実があるんじゃないか?」という考え方に対して、「学問的な考え方や社会は全て主観で形成されている。一人ひとりが、実は、主観の中に生きている」という考え方に根ざしているのが「社会構成主義」という考え方なんですね。主観と時間をコミュニケーションしながら、いろいろな形でそれぞれが主観を作り上げているということなんですが、「KX」の議論とも重なるなと、ある時、思いました。

大野さんが先ほど紹介した、「モンスターみたいなもの」はまさにそうですよね。

一人ひとりの中で、「カイシャがすごいモンスターになってる人」もいるし、意外と「カイシャと自分との折り合いをつけて良い仲間になってる人」もいるし。同じ会社、同じ職場の中でもそういうことが起こる。 だから、社会構成主義的な考え方の中で、「カイシャ」なるものを見つめ直して、一人ひとりを捉え直すことが、いろんなことを前に進めていく上でとても大切な観点なのではないかと、改めて感じたんです。

この考え方は、個人的に私が実は大好きだった「カイシャ」にも、当てはめられると思います。

大野 :そういう中で、このKXの考え方のベースにある「社会構成主義的な会社観」というものが出てきたと思うんですね。「カイシャ」という実態はなく、あるのは、人と人との繋がりだけなんだよね、とか、社員一人ひとりがその繋がりを通して、この中に主観的な会社を作り上げているんじゃないですかとか。そのことにも気づきましょうってことですね。

 そして、昭和から令和までの社会の変容とともに繋がりそのものがずいぶん希薄化、弱体化していて、その結果として、一人ひとりの心の中にいる「カイシャというもの」は、自分自身では制御できない意思を持った主体者、まさに「モンスターというようなもの」になってきているんじゃないだろうか。

 その結果として私達は、その幻想に囚われの身になっているんじゃないんですかという、そんな新しい疑問も出てきたんですね。「KX」の考え方を整理していくと、私たち自身が無意識的に心の中につくり上げてしまっている「カイシャ」という幻想と向き合って、新たな繋がりや仲間の獲得を通して、囚われの見方を脱していきましょうというところが、この「KX」という議論で語られていたことだったんじゃないかと至りました。

そんな中、昨年、「人生100年時代の人的資本経営」というテーマのセミナーをした中で、今回の「昭和100年、日本のカイシャどこへ行く」という議論にたどり着きました。

 と、これまでの議論の経過とか、私達の「KX」に関する考え方の一番ベーシックな思想をご紹介させていただきましたが、さて、このシリーズを始めるにあたって、もう一度、この失われた30年とも言われる流れの中で、日本のカイシャは、どういう編成をしてきているのか、ここを一旦、今日は野田先生に整理をしていただいて、目線視線合わせをしていきたいなと思っております。

 はい。 では、野田さん。ここから一つよろしくお願いします。

 

【失われた30年と日本企業の変容】

野田 :わかりました。 それでは、あらためまして野田から、「日本のカイシャはどこへ行く?」という話をさせていただきたいと思っております。今まさに、社会構成主義的なことから考えると、会社というのはみんなの想いの集合みたいなものですから、当然想いが変わると会社というものの姿は変わるはずなんですよね。

 それを、まずは歴史から押さえてみたいと思います。

 今このスライドで出ているのは、東京通信工業からスタートしたSONYさんなんですね。最初の1946年当時のSONYの本社、1980年代・90年代の旧本社、そして今、品川にある新本社というこの三つの写真を改めて眺めてみると、「あぁ、やはりSONYも変わってきたなぁ」なんて思うわけですけれども(笑)

これは実体のある建物ですが、実はそんなものではなくて、会社というものに対して中の人たちがどう思っていたかによって、実は変わってきたんだというお話です。

 まさしく戦後焼け野原だったときに、日本人は会社というものを、日本の戦争からの復興のための重要な道具だと捉えたんだと思っております。 とにかく、何にもなくなりましたから、ゼロからのスタートなわけですよね。なので、とにかく強くなって利益を稼いで国を富ませ、そして人を富ませる。

特に一番重要だったのが、この「人を富ませる」というところだったと思います。

 みんな貧しかったですからね。ですから、「会社はおカネを儲けていいんだ。市場は収益至上主義だ。 ただし、その儲けたお金は社員に還元するんだ」という考え方が、ものすごく強かったと思います。その証拠に・・・ではないんですけれども、経営者と社員との給与格差が非常に低かった。

私の知っている、ある通信会社さんなんかは、新入社員と社長さんとの給与格差が5倍弱という「えっ?!」と思うぐらいに低かった。 でも「それでいいんだ」「みんなで豊かになればいいんだよ。そのための道具が会社なんだから」とみんなおっしゃっていましたね。そういうところですから、もうとにかく「だからお前らも頑張るんだ!死ぬほど働け!」という精神論、根性論でいいかと。 それはなんのためかというと、「明日の夢」なんだと。明日を夢見て今日は我慢というのが会社というものに対してあった、ある種の共同体だったと私は思っております。

 

【企業の役割の変化:功利主義から社会的責任へ】

 野田:それが大きく変容してくるのが、1970年代の半ばだったかなと思います。かなり皆さん豊かになってきて、企業も強くなってきました。 また、アメリカから入ってきた新しい経営論のようなものも徐々に浸透し始める中で、いわゆるアメリカンな企業像というものが少しずつ日本の中に入ってきた。 まさに合理主義であり、功利主義であるということだったと思います。

「バカじゃ経営できないよ」「気持ちだけじゃ駄目なんだよ」、そのようなことが言われるようになってきたかと思っております。「第一世代」のときは、そういう意味ではかなり乱暴で、アメリカの真似っこをしながら、ヨーロッパの真似こをしながらやってきたわけですけれども。

そろそろまねが効かなくなってくる中で、開発志向であったり、または日本のマーケットにも限界があって「グローバルに出ていこう」なんていうことが言われるようになり、第一次のMBAブームが起こった時代でもありました。 まさに賢い組織を作ろうということだったと思うんですよね。 この傾向はまだ続いていると思っています。

 会社というのは、儲けるためにあり、かつ、ロジカルで合理的で、戦略的に動くものなんだという考え方だと思うんですね。ただ、この企業像に対しては昨今、少し疑問が呈されるようになってきました。

まさに「新市場主義の大弊害」というようなことが言われるような中から、「企業というものがただ単に利益を追求するだけでいいのだろうか」と。そんな話が出てきて、まさにSDGsのような、社会に貢献することが企業の役割ではないかという議論が出てきましたよね。

CSR(=Corporate Sosial Responsibility)も、すごく面白い流れを作っております。まさに強い世代、「第一世代」のときのCSRっていうのは、まず社会に悪いことをしないというのが(企業の)責任だと考えられました。公害がたくさん撒き散らされている時代だったので、公害を出さない、悪いことをしないというのが企業に求められたんですね。

時代を経て企業も豊かになってくると、余ったお金で社会に貢献しようという「フィランソロピーブーム」なんてのもありましたけれど、それが「第二世代」のCSRの考え方でした。 しかし今、「第三世代」になろうとする中でのCSRの考え方は、積極的に社会に貢献することそのものをビジネスにするんだと、本業そのものが社会貢献性がなきゃ駄目なんだと言われるようになってきた。

そこで私は「第三世代」が来たと思い始めました。実際にはもう2000年になる前ぐらいからその傾向はあったんですが、残念なことになかなかここに踏み切れないという現実があるのも事実だと思っています。

 ただどうでしょう。私は、コロナというのは大変つらい経験ではありましたけれども、あれによって皆さん少し沈思黙考するような時間を得ることによって、社会像・企業像が我々の心の中で少し変化し始めてるのではないかと思っています。ですので、あえて「第3世代」のスタートを2021年と書いたのは、そういう意味なんですけれども。このあたりから、少し我々の想いも変わってきたかなと感じています。

実は、今回の「KX」は、この「第三世代」企業に向かっていく我々の心を整えていくことではないかと思っております。

逆に戦略的な考え方で言うと、「第二世代」までが古い昭和の会社であり、(「KX」の目的は、)そこを越えていくことにあるのかと思っています。 ちなみに、会社というのは、まさに中にいる人たちの集合体ですから、中にどんな人がいるかということも非常に重要になってくるわけです。

 

【「仕事はみんなでするもの」から「一人ひとりがジョブをこなしていくもの」へ】

野田:会社と人との関係性、もしくは人と人との関係性がどうなっているのかにも目を向ける必要があります。 「第一世代」は共同体ですから、もう団子のようになってもみんなでやるわけです。ですから、ワンセット自前主義的に、電話交換の方から、社用車の運転手さんから、全部正社員。まぁ、そういう時代ですよね。 ほとんど(の人が)有期契約ではなく、(無期契約の)運命共同体でした。

それが「第二世代」になると、賢い会社が、コスト削減とか、柔軟性の獲得ということから、非正規化が進みました。特に、バブル崩壊以後です。そして専門家が大切にされるんだというところで、「個」というものをより際立たせていくような、そういう人事制度的な関係性になったと思います。 結構典型的だと思うのは、成果主義人事の導入と、それに伴うMBOの導入でしょうか。

仕事はみんなで協力し合いながらするものというところから、一人ひとりがジョブをこなしていくという考え方に変わっていったのが、すごく大きかったと思っています。一面では悪くはない意味があったとは思いますが、さて、どうでしょうか。そのやり方で本当にこれからもやっていけるのかというと、ちょっと違うかなと思っております。

野田 :「第三世代」に向けた、新たな人間と人間との関係のあり方、会社と人間との関係のあり方が模索されるようになってきたと思っています。

 

【失われた30年と日本企業の変容】

野田:さて、もう一つの観点から会社を見なくてはいけないのが、やはり日本においては、ここ30年間の大きな変化ではないかと思います。この30年間、日本と日本企業に何が起こったのか、これを端的に表しているのが、今お見せしているこの資料です。

 これは企業の時価総額の世界ランキングですが、1989年、まさしくバブル絶好調だったとき、(ランキングで)赤丸が付いているところは、全部日本企業なんですね。ほぼほぼ上位は日本企業が独占していました。 そこから約30年が経った2018年に至っては、相変わらず日本企業で入っているのは、トヨタ自動車だけという状態になっています。

さらに言うと上位を占めているのは新しく生まれたIT系の企業がズラリというかたちですよね。あとは金融系でしょうかね。 そういうかたちになっているのが、非常に特徴的です。

 

 

【日本企業の衰退】

実は、企業だけではなく「世界競争力ランキング」というスイスのIMDのランキングを見ても、1989年から92年まではピークだったわけですけれども。それでも1996年ぐらいまでは2・3・4位あたりをうろついていました。 ところが、1997年に一気に17位に落ちた後、今はもう20位にも届かないような状態になりました。

なぜ急速に日本の企業が、こんなにもダメになったんだろうか。19 96年から1997年にかけて急速に順位を落とした理由は簡単で、山一證券の自主廃業、北海道拓殖銀行の破綻といった、いわゆるバブル崩壊でした。金融システムの不安定化が海外でも大きく報じられて、一気に日本の競争力が低下したということなんですね。

 

【「失われた30年」の原因はバブル崩壊だけではない】

野田:我々は、これが諸悪の根元で、バブルが弾けたことがいけなかったみたいになんとなく感じているんですけれども、本当にこのバブル崩壊というのが、その後に続く失われた30年の原因かというと、私は、まったくそうは思いません。

 確かにバブルが崩壊して企業収益が急速に悪化したのは、事実です。それに対して日本の企業は迅速に対応したと、私は思っています。 まさに緊急避難をしたわけですよね。 今すぐに役に立たないようなものについてはどんどん止めていこうじゃないかということで、中長期的な研究開発等を凍結し、新事業投資も抑制し、人材育成もすぐには効かないから投資を抑制する。

また、既存事業の収益化を図るために徹底したコストカットを行い、優秀人材の活性化と人件費カットの両面から社員に差をつけていく成果主義が導入された。 私は緊急避難としては悪くなかったと思っています。いや、やらなければもっと死屍累累になっていたと思うんです。

が、重要なことは、この緊急避難がずっと続いたこと、「常態化」したことではないかと思います。「もう緊急避難段階ではない」とどこかで思わなきゃいけなかったんだけれども、これが常態化してしまった。 またこの緊急避難のときに、内部留保の拡大が行われました。 それはキャッシュがなくなって本当に死にそうな苦しみを味わったものですから、正直言って「羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」というような状態で、徹底的な内部留保志向が高まりました。 結果として、人材育成投資も抑制され、新しい事業にも展開しないものですから、仕事を通じた人材育成もできず、人的資源が30年かけて徐々に劣化したと考えております。

 30年間やはり守りしか経験のない経営者が増加し、私はここで企業と人間との関係性が壊れた心の中の企業像が壊れたと思っているんですが、(こうした状況を)「不真面目な優等生」という言い方をしています。

これは、至善館大学院の野田智義さんがおっしゃり始めたことではあるんですけれども、「不真面目な優等生」すなわち、言われたことはしっかりとやるけれどもそれをなぜやっているのかとか、まさに青臭い話は一切しない。 言われたところで高い点数を取ることが目的化しているようなもの。そもそも、というような根源的なことを考えないから「不真面目」なんですね。しかし、成績だけはいいので優等生という人間が、残念ながら増えてきたのではないかなと思っています。 日本人の遺伝的な特性である「不満に強く不安に弱い」というのも、またこれに拍車をかけたかもしれません。

いずれにいたしましても、「挑戦しない」「言われたこと以外やらない」や、「会社っていうのはそういうものなんだ」と、「何か失敗したら罰を与えられてしまうのだから、会社というのは縛るものなんだから、それに従えばいいのだ」ということが、続いたと思っています。

 

【緊急避難の常態化】

まさに「緊急避難が正当化される」といいますか、「緊急避難状態が正当化され続けた」と思っています。 結果として挑戦しませんから、デジタル化も人も遅れたし、国際化も遅れたし、なんといっても、イノベーションは減少したし、新創業も少なくなってしまったということではないかなと思っています。

私はもともと、「日本人がイノベーティブでもない」とか、「国際感覚がない」なんて言う気は毛頭ありません。 言語なんてのは後からくっついてくるわけで、日本人は英語が下手だなんてのは、もう嘘八百です。むしろやる中で、皆さんちゃんと学んでいったはずなんですね。 自らのチャンスを潰すことによって、このような状態になってしまったのではないかというのが、私のこの30年間の結論です。

ということは、逆に言えば我々が会社に対する想いを変えて、自分たちの役割を再定義することによって、この状況は一気に変えることだってできるのではないだろうか。それがKXに私が望みを託してる理由になるわけです。

ということで、1回ちょっとここでブレイクをしたいんですけれども。

私の今説明させていただいた企業の変遷、および特にこの30年間に焦点を向けた私達の心の中の企業の劣化(について)、皆さんはどんなふうにお考えになりましたでしょうか?

大野:はい。野田さんありがとうございます。

私個人としてはですね。まさに今、野田先生がまとめてくれたような「なんとも言えない、変化しない、変わらない状態」が本当に変わらなきゃいけない一つのきっかけが、「人生100年時代」っていう時代の変化なのかなと思っていて。企業対企業の関係の中じゃなかなか変わらなかったんだろうなと。個人と会社の関係が変わることがきっかけになって、変わっていくんじゃないかなとある種の期待を持って語ってきたと思いますが、そこの関係性は、野田さんはどう思われますか?

 

野田:全くその通りと思うんですよね。しかも、これがまた悪いことに、誰か犯人が居れば簡単なんだけど、まさに「共同幻想的」になっているわけですよ。 それが怖かったのだと思います。

冒頭にちょっと申し上げましたけど、「私達は被害者なんです」というと、どこかに加害者がいるはずじゃないですか? でもこれ、「加害者」がいないんです。 ということは、我々は我々の首を自分たちで締めた。 すなわち、「被害者」であり、実は「自分たちに対する加害者」でもあるんです。

 その認識をしないと、この問題、解けないと思うんです。語弊がある表現かもしれませんが、労働組合的に赤い旗振って「経営者が悪いんだ!」と言っていても、何にも変わらないと思います。

 

【「会社の幻想」に囚われた?!】

大野 :そういう意味では、まさに一人ひとりがつくった「会社の幻想」に、みんなが囚われていたと。みんなが「犯人」で(かつ)「被害者」でもあると。そんな感じになっちゃったってことなんですかね?

野田:まずそういう認識をした方が健全というところでしょうか。犯人探しをしていても、見つからないと思うんですよ。

大野:その「幻想」の部分、豊田さんどうですか。「社会構成主義」的なところから言うと。

豊田:ありがとうございます。

野田さんの話を聞くにつけ思います。企業の方と話をしても、「両利きの経営」を意思を持ってやろうとしているけれども、全く回らない。「誰かがさぼってるのか?」「誰かが能力がないのか?」などと言われるけれども、決してそうではなくて。それぞれが一生懸命やっているのに、結果的に閉塞状態になっている。 それは「思っていること」と「やってること」に食い違いが起きているからだと思うんです。

多くの人たちが、なかなかできないと思っているときに、本当はもっとやってもよいことがあるはずなのに、それができないのは会社組織や職場のせいとでも言うように眺めていたり、「無力だ」と口をつぐんでしまったり。そんなことが、いたるところで起きている気がします。

野田 :とても典型的な話がありました。ある製薬メーカーさんから頼まれた仕事だったんですが、「社員からいろいろな新しい創薬のアイディアを出したいので、今までも少しは出ていたんだけれども、より加速させるために提案制度を作りました。その(提案制度とは、社員が)提案して、それがうまく薬として上梓されて利益が出たならば、その利益を本人やチームに還元するようにしました」と言うんですね。「いいじゃないですか!」と。

ところが、その制度を入れたらかえって、今までは少し出ていた自主的なアイディアが、ゼロになったというんです。その理由を調べてもらうと、「うまくいったらご褒美」と確かに書いてはあるんですが、逆に「失敗したら罰を与える」とも書いてあるんです。

 ご存知の通り薬って“千三つ”どころじゃなく、もっと確率低くて、しかも出来上がるまでに大体15年とか20年かかるじゃないですか。 ってことはですね、ほぼ、ほぼ100%失敗するんですよ。 もう滅多に成功しないで、しかも成功するのは大体15年後ぐらいですから、大部分の人は会社もう終わっちゃってたりするわけですよね。 でも失敗はいつでもあるんで、そうすると、必ずそこで✖(ばってん)食らうってことは100%✖(ばってん)じゃないですか。 だから誰も出さないんですよ。 当たり前ですよね。

 「いやいや。この✖(ばってん)を与えるのをやめればいいじゃないですか?」って言ったんです。 そしたらそこからなんです。「 いやいやいや。『信賞必罰』って言うじゃないですか」と。だから「失敗したら罰を与える。与えなければバランスが取れない」って言うんですよ。

 これ思い込みです。  いいんですよ。罰なんか与えなくたって。加点でいいんです。何の問題もないです。 ところが、どうしてもその「縛りから出た囚われの身」なんですね。 うん。 これは古い常識に隷属しちゃってるんです。 これはすごく不幸だった。

結局そこは、社長がわかってくださって、最後まで固執した人事部長さんは外れました。 でもやっぱり、悪気はないんですよ。人事部長さんも。だけど、囚われてるんですね。 こういうことが、いろいろなところで起こって、それが総体として「閉塞感」になってるんですよね。これが、今の状態だと思います。

大野:はい。ありがとうございます。そんな働く人の方の意識を、野田さん、後半もう少し、ご説明いただいていいですか?よろしくお願いします。

 

 【従業員の意識変化ー指示待ち体質と利己的合理主義】

野田 :もう少し続けさせていただきたいと思います。今実際、従業員の意識調査をすると、日本人の閉塞感というのはかなり強烈なものがあると思っております。ギャラップ社が行った「職場の従業員意識調査」、エンゲージしてる人のパーセンテージを見ると、ご覧の通り、グローバルに比べると日本はかなり低いです。

 

 ただ、その低さそのものに私は問題があるんではなくて、傾向値に問題があると思っていまして、逆に世界ではだんだん人々のエンゲージメントを上げていこうじゃないかと、実際にいろいろな施策も行われているし、社員のWell-Beingを真剣に考えることが、逆に会社にとってもものすごく、ものすごく、メリットがある。特に新しい価値を生むようなアクティビティに関しては、この「幸せ度合い」とめちゃめちゃ関係すると言われているので、戦略的にエンゲージをさせるようないわゆるOD(=Organizational Development)が行われているんですね。

ところが日本は、それは「甘やかし」であるという考え方をどうしても持ちがちになる。ここの意識の違いは、ずいぶん大きいと思っています。結果どうなったかというと、さらに状況が悪くなってきており、「完全な指示待ち」と「ほぼ指示待ち」を合わせると42%。どこが自主性やねん!と。こういう状態に既に日本企業は陥っている。こうなった以上、抜本的に会社改革をしないと、少なくとも会社というもの、もっと言うと、仕事というものに対する「見え方・見せ方改革」をしないとどうにもならないと思っています。 

ちなみに「指示待ち人間」というのにも定義がありまして、「自分で考えない・失敗を恐れる・働きがいを感じない・自身と他人に無関心・自分の意見がない・意見が言えない・仕事の役割の内容を理解してないし喜びを見出せてない」。最後、面白いですね。「利己的合理主義」、自分に利益があるということに対しては合理的に動くというこういう状態です。ここから脱するための「KX」をまず持ってこない限り、逆に言うと、入れ物・制度をどれだけ変えても、何も変わらないと思っています。

 

【ホワイトカラーを細分化して定義づける】

ちなみに「社員」「社員」といろいろ何かをひとくくりにして言っているんですけれども、「社員」って言ってもいろいろいます。どこの誰から、どう意識を変えていくかということについては、もうちょっと具体的に考えていかなきゃいけないと思っています。

例えば「ブルーカラー」という言い方がよくありますよね。それに比して「ホワイトカラー」というのがあります。しかし、この頃は「エッセンシャルワーカー」なんていう言い方も出てきている。まさに働いている人の働き方というのはいろいろですから、どこかだけを見ていたのでは駄目だなと思っているところです。

いや。もっと言うならば「ホワイトカラー」と言われている人たちにも、実はいろんなことをやってる人がいるわけで、我々が通常「ホワイトカラー」と考える「クラリカルワーカー」すなわち、事務処理をする、事務仕事をするというのが一番頭の中に思い浮かぶわけですけれども、実は「ホワイトカラー」の中にはそれだけではなく、例えば、「顧客接点ワーカー」と私は名づけてるんですけど、「営業」とか、そういうような方々ですよね。「コールセンター」なんかもそうでしょ。お客様と実際に接していて、お客様に喜んでいただく、お客様に価値を生むことを志向している人も、「ホワイトカラー」です。さらに言うと、いわゆる「イノベーター」です。「新価値創造ワーカー」と私は考えていますけれども、新しい価値を作る、企画開発から始まるマーケティングをやるような人たちも、当然「ホワイトカラー」人材としています。 さらに忘れてはいけないのは、「マネジメントワーカー」でいいんでしょうか、いわゆる「管理職」、管理をする人。こういうような方々もいるわけです。ですから「ホワイトカラー」といっても一様ではないわけですよね。

 今、生成AIが出てきて、いろいろな点で働き方が変わろうとしてるわけですけれども、大きな流れからいうと「マネジメントワーカー」と「クラリカルワーカー」というような人たちよりも「接点ワーカー」とか「顧客価値創造ワーカー」のような人たちの方がむしろこれからは大切になってくるといいますか、より重きを置かれるようになってくるだろうなと思っています。ですから逆に言うと、「クラリカルワーク」とか「マネジメントワーク」に取られている時間を、できるだけ機械化などによって少なくすることによって、多くの人が「顧客接点」であったり「価値創造」であったりというところにシフトしていく。

さらに言うと、「エッセンシャルワーカー」は、まさに「顧客接点」でもあるわけですから、この人たちこそがむしろ価値創造をしていく中、そんな形に変えていく。また本人たちも、自分たちの仕事はそういう仕事なんだと考えていくようにしていくことが「KX」の本体になってくるのではないかなと、私は今思っているところでもあります。もちろん「ブルーカラー」の方々も、価値を創造するという面においては仲間ですから同じだと思っておりまして、会社というのはなんらかの規則に従って書類を作るところじゃなくて、価値を作るところなんだよねって、まさに根本から意識を変えていかないといかんかなと思っています。

こんな状況を何とかしなくてはいけないと、「KX」では「個人の目覚め」と「組織の進化」ということを言っています。さらに言うと、その「『個人の目覚め』と『組織の進化』はどっちが先ですか?」とこれ、私も仕事をしていてよく言われるんです。昔は悩んで、ちょっとタマムシ色に「両方です」なんて言ったんですけれど、私はもう今は、「個人の目覚め」と言い切っております。 まず一人ひとりの社員に目覚めていただきましょうよ、自らの人生の主人公として、そして会社を作る1人として目覚めていただく、そしてそれを組織が支えていくというようなカタチに持っていく必要があるのかなと、今は考えているというところです。 はい。ということで、一応、私のプレゼンはここまでです。

 

【KXの概念-”人”が主役の会社へ「個人の目覚め」と「組織の進化」】

大野:はい。どうもありがとうございます。 今、野田さんの方から、「個人の目覚め」と「組織の進化」というKXの二つの両輪の話がありましたけれども、昨年のセミナーでもそのことについてご説明をしています。

「人が主役の会社」というのが私達のキーメッセージ。こういう会社を作っていきましょう。そのためにも一人ひとりの意識の中にある「会社」という幻想を変えていきましょうということをお話をしてきたと思います。そして、この「“人”が主役の会社を作る5つの視点」ということで、今画面に出したようなポイントがあるんじゃないかなと。 ①一人ひとりが、そのままの自分をちゃんと解放できている心理的安全性とかWell-Beingの観点、そして②多様な属性とか多様な価値観を持った仲間にあふれていること、D&Iとか、いわゆる正社員時代の終焉みたいなことも考えられるのかな、そして③部署とか社内外の枠を超えた会社の内も外もないような共創の場になっていく。 オープンイノベーションとかマルチリレーション社会というようなことも多分方向感としてはあるんだろうなと。そして④1人ひとりの思いや好奇心が、事業の創造とか組織変革の起点になっている。

 先ほど野田さんからもお話があった「エンゲージメント」という観点もそうでしょうし、「両利きの経営」とか、「キャリア自律」といったような話も、こういう観点の中に含まれるのかなと。そして⑤人生100年時代、一人ひとりが学び続け変わり続けていく、そんな機会に溢れている必要があるよねと。「リスキリング」とか「人的資本経営」という、最近日本社会では非常によく語られているテーマですけれども、こういうものも、こういう観点で取り入れて整理をしていくといいのかなと思っているわけです。その結果として、「個人の目覚め」と、「組織の進化」が両輪になって回り続けていく。そんな会社のあり方を目指していこうというのが、「KX」の1つのポイントになっていくと考えていたわけですね。

 

【KXオーガナイザーという専門家の育成】 

 今回の一連のこれから始まる今日から始まるシリーズで、たくさんのコアメンバーの皆さんから、いろんな視点から、このテーマについて語り続けていただこうと思っていますけれども、この3年間の議論を通じてこの考え方、思想的な背景とかメソッド開発をやってきた中で、「KXオーガナイザー」という、新しい「KX」を実現していくためのプロフェッショナルの養成、ということを始めています。 その辺の考え方について、最後、豊田さんから少しご紹介をしていただきたいと思います。豊田さん、よろしくお願いします。

豊田:はい。今、大野さんから「組織の進化」というお話がありました。そのアクションプランとして「KXオーガナイザー」という話も出てくるんですけども、その前に全体像を。「KX」という言葉の定義をしています。長い定義ですけれども、一つ一つにいろんな思いを込めています。四つのメソッドを作って、このメソッドを活用しながら「“人”が主役の会社」を、「一人ひとりが変わり続け学び続けることができる会社」を作っていこうと考えています。

(KXメソッドの)1つ目の「ありたい姿を見出す」というところ、「“わがまま”セントリック」、あの「ワガママ」じゃなくて「我がまま」、自分があるがままにいたいと。「“旅の仲間”バラエティ」「“つながり”デザイン」「“想い”ドリブン」「“機会”インフィニティ」。先ほど5つの視点と大野さんが言った部分を、こんな言葉でラベリングして、これを推進していこうというのが「KX」のメソッドの中心になっています。

自分の中でどんなふうになっているのか、何が大切なのかを見通す「KX眼鏡」というものを開発しています。不思議な森の中にいるような風景があります。 先ほどの5つの視点を、それぞれさらに5つのキーフレーズ、どんなところが気になるのか、例えば左上、自分の「”わがまま”を解放できていますか」とか、まさに“わがまま”セントリックな状態ができてるかどうかを表すコードがある、“旅の仲間”バラエティについてはどうかなど。皆さんも見ていただいて、「この言葉が気になる」「大切にしたい」ということが一人ひとりにそれぞれあるのではと思っています。

 

例えば野田さんがどの3つが気になるか、事前に選んでいただいています。野田さんの1つ目は「未来の話、青臭い話をしていますか?」が気になると。2つ目は、「ワクワクする妄想を大切にしていますか?」そして3つ目は、「ひとの人生に口出しできていますか?」 野田さん。これらを選んでいただいた想いとか、何が背景にあるのかなどを教えていただけますでしょうか? 

 

野田:正直に言うとこの3つは全部、私が考えて主張したものですから当然そうなんですけれど(笑)。私の心の中にいつもあるのは、「明るい未来を見つめていきたい」という気持ちなんです。この「ひとの人生に口出し」というのもそれでして、“ひとの未来”をもっと輝かせてあげたい。でも人間ってのは、視野狭窄を起こすものですから。

なので、こちら側がワクワクする妄想、“ひとの未来”でワクワクする妄想を勝手にして。あるじゃないですか(笑)。おせっかいするというようなこと。なので、これらは実は全部、同じルーツのものだと思っています。やっぱり希望を持って未来を明るく語っているときって、人間すごく気持ちもいいものだし。なので、この3つを選んだ、というところでしょうか。 

豊田:はい。 ありがとうございます。実はこんなフレームを活用していきながら、まさに「KX」会社を変えていく役割を担っていただく方として、「KXオーガナイザー」という人たちをたくさん生み出して、「組織の進化」を推進していきたいと思っています。「KXオーガナイザー」はいろいろなところにいらっしゃる。会社のトップ、マネジメント部門で組織開発そのものをなさっている方もそうでしょうし、会社の現場に居てモヤモヤしながら、このモヤモヤを何とかしたい、そんな方も「KXO」にもちろんなることができる。さらに、外側から会社を支援していく立場の方も、もちろん「KXO」になることができると思ってます。

 「私から始めるKX」というクレド、行動指針を掲げているんです。 どこからでも始められる。いろんな形で「KX」を始める。そういう方々を日本中に増やしていきたいと思っています。ちょうど今1期生の方々のトレーニングの最中で、6月からは2期生の募集をしていきたいと思っています。一連のセッションの中で、またこの「KXO」に関するご案内を差し上げていきたいと思います。「KX」のことも少しベースに置きながらさらに深めていく形で、このセッションを展開していければというふうに思っています。 具体的なご案内は、皆さんご参加いただいて後、動画ですとか、お願いするアンケートなどなど合わせて、既に告知が始まっているものでもありますので、ご興味のある方はぜひご覧いただければと思います。

大野:はい。 豊田さんありがとうございます。

野田先生。KXオーガナイザーが昨年の夏に0期生に10名ご参加いただいて、今1期生のトレーニング、明日が最終日になります。また10名ご参加いただいてるわけですけれども、0期1期と進めていく中で、ブラッシュアップもしていて、非常に濃い中身になってきていると思うんですが、野田先生、普段大学で教えていらっしゃることと比較して、この「KXオーガナイザー」の仲間たちへの期待感とか、熱気とか、その辺どんなふうに感じていらっしゃいますか?

野田 :今回1期生の方は、経験もおありになるし、とてもレベルが高くて、私達がむしろ学んでいるような状態だと思います。プログラムがいわゆる成人学習理論的に言うと、アウトプットでの学びになってるので、多くの方にとっても、結構長足の進歩が望めるようなものになってるなと自画自賛しているところでございます。

「 KX」というのは、今申し上げたように、会社を作ってるような人々を、一人ひとりの社員で、その一人ひとりの想いを変えるという、一見すごく草の根っぽいんだけれども、実はこれが本当の近道だという、まさに「オーガナイザー」をやるわけですよね。 ですので、リアリティがすごく大切だと思ってるので、今回のプログラムはとてもリアリティを大切にしていて、その優秀な人たちがそこに志を持って集って、みんなで切磋琢磨することによって、結構短期間でワーッと会社を変える力がついてくる。 そういう意味では、「OD」の良い教育プログラムってあんまりないんですけれども、結構期待していただいていいかなと、本当に自負してるところです。

 大野:はいありがとうございます。豊田さん、いかがですか。

 豊田:そうですね。このKXの活動を大野さんが冒頭に紹介してくださったように、かなり長い時間をかけてやってきています。3年前にKXセッションをやったときから、「KX眼鏡」の計画がありました。「いつできるんですか」「早くやりたい」というような方も既に何名もいらっしゃいました。ようやく社会実装が遅まきながらできたのかなと。

一方で、まだまだ一緒に作っていくようなものだとも思います。何か完成系があってこれを学べばなんていうものじゃない。思想を基に、実践をどんどん作っていく。一緒にいろんなことができる方々が少しずつ仲間になっているなぁと、日本の会社がどこに向かうのか、もちろん、変わり続ける学び続ける会社にしていくのだから、ゴールなんてないんですが、活動をともにしていただく方が少しずつ増えてきてるのは、とても嬉しいと思っています。

大野:はい。ありがとうございます。 本当に青臭い話を真剣にやる仲間という感じで、これまた増やしていきたいと思ってますので、よろしくお願いします。

ということで、今日も非常に中身の濃いものを1時間の中に、なんとか収められたかな(笑)という感じです。

野田さん、豊田さん、ご協力ありがとうございました。

ということで、これから毎月1回のペースで12月まで「KX」のシリーズセミナー「昭和100年日本のカイシャはどこへ行く」ということを考え続けていきたいと思っております。4月はセッションⅡで、サイボウズの執行役員で人事本部長の中根さんにご登壇いただき、私達3人が中根さんを囲んで、この議論を深めていきたいと思っております。ぜひご予定に入れてください。

4月14日のお昼12時から13時となっておりますので、今のうちにスケジュールに入れていただけると嬉しいです。

 では、野田さん、豊田さん、今日はどうもお疲れ様です。ありがとうございました。

皆さまもご参加いただきましてありがとうございました。