Discovery :ママスクエアの“ヒト・ドリブン経営”から何を学ぶか?

事業自体が“ヒト・ドリブン”である。

豊田義博
ライフシフト・ジャパン株式会社 取締役CRO/ライフシフト研究所所長

「保育園落ちた日本死ね!!!」

記憶に新しいブログ記事です。五年以上前になりますが、今も解決していない社会課題です。
このブログでは、国や自治体の無策ぶりに怒りの矛先が向けられていますが、怒りの根底にあるのは、以下のフレーズです。

「どうすんだよ会社やめなくちゃならねーだろ。ふざけんな日本」

つまりは、会社が雇ってくれないことが問題の根源なのです。幼児を持つ母親は、日中に預ける場所を確保しない限り仕事に就けない、というのが実情なのです。働き方改革が図られ、労働時間は抑制される傾向にあります。コロナの影響によりリモートワークが劇的な広がりを見せています。働く時間や場所という制約条件は解消する方向に向かってはいます。しかし、残業がなくなっても、週に何日かはリモートワークができても、子供を預ける場所がなければ、ママは仕事に就けません。子供の数が複数になると、厳しさはさらに増します。一人は預ける場所を確保できてももう一人の対応が何ともならない、仮に両方とも預けることができたとしても、幼児が複数となると企業の対応は急速に冷たいものになる。そんな状況を顕著に表しているのが、藤代代表の以下のコメントでしょう。

 

「面接の最中に泣き出す人が続出したんです。普通に志望動機などを聞いているだけなのに」

 

子連れ出勤ができる会社も増えてはいます。待機児童の数も、減ってきてはいます。しかし、働く意欲と能力を持ったママたちが、自分らしくあろうとして働く機会を求めても、そこには依然として高いハードルがあるのです。子供を授かるというこの上なく素敵なライフイベントによって、ライフステージは大きく変わっていきますが、そこには想像をはるかに超えた悩ましい状況が待ちかまえているのです。

そんなママたちに、人生の主人公であり続ける機会を提供する。ママスクエアの事業そのものが、ヒト・ドリブンです。事業の基本構造はアウトソーシングの一種である業務請負という人材ビジネスであり、新たな就業機会を創造すること自体が事業ですから、当然ともいえるわけですが、では、人材ビジネスの多くがヒト・ドリブンな就業機会を世に送り出しているかといえば、まったくそうではありません。広告料やあっせん料、成功報酬などクライアントサイドへの課金で成立しているものが大半ですから、クライアントの実態や意向を踏まえた求人を世に送り出すことになり、必然的に、ヒト・ドリブンとはいえない企業の求人(その数の方が圧倒的に多いでしょう)を世に送り出すことになります。

ママスクエアは違います。就業者であるママたちのニーズにフィットした案件しか請け負いません。徹底的にカスタマーオリエンテッドです。ママたちが、ママとしても働く個人としてもハッピーでいられる仕事環境を提供することを社会に約束し、実行しているのです。

また、アウトソーシングという手法自体も、ヒト・ドリブンな機会を生み出すポテンシャルを持っています。日本の会社は、アウトソーシングが苦手です。多くの機能を自社内に持つことを好みます。そのほうが融通が利いたりコストダウンにつながる、という考え方がベースにあります。そして、そうした自前主義がなぜ可能なのかといえば、個人の意向ではなく会社の意向で、仕事を割り振ることができるからです。日本の雇用システムの最大の特徴といっていいでしょう。そして、そのシステムは、社員自身が人生の主人公であることをスポイルしてしまう可能性を持っています。

アウトソーシングを請け負う企業の仕事内容は、ある領域や職種などに限定されています。その会社に入れば、どのような仕事をすることになるかが明示的です。法の上では認められていながら、日本的雇用システムによって阻害されている職業選択の自由が確保される方向にあります。

カスタマーのハッピーを心から大切にする人材ビジネス、アウトソーシングビジネスは、きっとどんどん増えていくでしょう。ヒト・ドリブン経営ならぬヒト・ドリブン事業が、もっともっと立ち上がっていくことでしょう。ママスクエアというフロントランナーの大成功が、そんな期待を大きく膨らませてくれるのです。

 

 

ママスクエアが気付かせてくれる社会課題の存在

大野誠一
ライフシフト・ジャパン株式会社 代表取締役CEO

ママスクエアの取材を通じて、現在の日本において、働く意欲を持つママたちを取り巻く環境は、未だに厳しいと状況にあるという現実を痛切に感じました。

労働市場の世界では、日本の女性の就労状況の特徴を示すものとして、結婚や出産・育児期の女性の就労率が低くなることを示す「M字カーブ」がよく知られていて、近年、このM字の窪みは徐々に改善されていると言われて来ました。大手企業のワークライフバランス改善への取り組みやテレワークの普及などがその要因として取り上げられますが、ママスクエアの取材を通じて見えてくるのは、就業機会に恵まれず、諦めてしまっている人がまだまだ数多く存在しているという現実です。

ママスクエア藤代社長とスタッフである野口さん、元谷さんのインタビューを通じて、リアルな状況が伝わって来ます。政府の掛け声や一部の先端的な企業のワークライフバランス改善の取り組みだけを見ているだけでは、見落としてしまうリアルです。野口さんも元谷さんも様々な働き方へのチャレンジと紆余曲折を経て、ついにママスクエアと出会い、それまでの仕事では得られなかった、希望する働き方を実現した喜びと成長のチャンスを手に入れました。彼女たちをレアなケースにしないために、ママスクエアがもっと大きく成長することを期待します。

しかし、藤代社長が語っている様にママスクエアだけでカバーできるのは、対象となるママたちの数%に過ぎません。この問題を解消するためには、ママスクエアが示した様な「希望する働き方」を実現する事自体をコンセプトとする事業が無数に生まれてくることが必要です。そしてそうした社会的な課題は、ママ達だけの問題ではないでしょう。働く意欲は持っているのに、働く機会に恵まれない人は、まだまだ沢山います。長年、不安的な非正規雇用を続けざるを得なかった就職氷河期世代や定年退職後のアクティブ・シニア層などにも、同じような課題が存在します。

ママスクエアは、そんな社会課題の存在を気付かせてくれるロールモデルなのかもしれません。