PROFILE

広野郁子さん(NO.49)
株式会社アイ・キューブ 代表取締役

兵庫県在住、55歳。関西大学を卒業後、株式会社リクルートに入社、27歳のとき出産を機に同社を退社。その後、消費生活アドバイザー資格を取得し、子どもを保育園に預けて兵庫県立神戸生活科学センターに再就職をはたす。夫の転勤で静岡に引っ越し後、三菱電機株式会社静岡製作所に入社。冷蔵庫のマーケティングを担当。日経ヒット商品金賞を受賞した「切れちゃう冷凍」の開発に携わる。2000年、再び夫の関西転勤に伴い、会社にお願いをして関西に商品企画機能があった携帯電話の事業部に異動。しかし子育てとの両立が難しく将来の展望もなかったので、上司のすすめもあり三菱電機を退職し、働きたい主婦を集めて女性目線のマーケティング会社を起業(有限会社アイ・キューブ)。2006年に株式会社化。53歳のとき一念発起し、英語の学び直しを決意。オンライン英会話に続いてハワイ留学、マルタ共和国留学も経験。これからの人生では英語を屈指して何かにチャレンジしていきたいと考えている。夫、娘(28歳)の3人家族。

座右の銘:「チャンスはピンチの顔をしてやってくる」「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」
影響を受けた本 神谷美恵子『こころの旅』 天外伺朗『運命の法則』
千葉敦子『ニューヨークの24時間』 リンダ・グラッドン『ワークシフト』

http://www.ai-cube.co.jp/

 

子どもの手が離れた50代は、学び直しの大チャンス

私は関西大学文学部教育学科を卒業しています。英語に関して、「受験英語」は得意でしたが、ヒアリングやスピーキングは全くダメでしたね(笑)。その時代、その時代はもちろん目の前のことに必死だったのですが、思い返してみれば、早くに結婚した私は20代の遊び盛り(?)の年代を、バブルを謳歌する同世代を横目に、子育てに奮闘していました。子育てが落ち着き、だんだん子どもの手が離れていくのに比例して、この時の「十分に遊びきれなかった感」が少しずつ爆発。私は、38歳でマーケティング会社を起業しましたが、会社も軌道に乗って、金銭的にも、時間的にも余裕が持てるようになり、50歳を目前に初ハワイを経験。それから海外旅行の虜になりました。仕事でも、イタリア、ベトナム、アメリカ、オーストラリアなどに訪れる機会に恵まれ、漠然と「英語が話せるといいな」と思うようになりました。そしてだんだんと、「通訳なしで現地の人と話したい」という欲求も高まってきました。

そんな中、同級生がオンライン英会話を勧めてくれました。1ヶ月 5,500円とお手頃で、1回25分のレッスンを自分の好きな時間に受講することができる、という手軽さに魅了され、53歳のとき挑戦を決めました。担当講師を選ぶ際、当初は共通の話題を持つことができそうな「30代・子育て中のお母さん」を選んでいましたね。共通の話題で盛り上がるうちに、徐々に「外国の人と話す」ことへの恐怖心がなくなりました。そして、いろいろな国の人とコミュニケーションをとることの楽しさに取りつかれ、どんどん本気になりました。

オンラインの次は、ハワイへのプレ留学でモチベーションがアップ

オンライン英会話を続ける中で、若い頃に抱いていた「留学」という夢を実現したいという思いが高まりました。何気なく留学エージェンシーの資料を取り寄せ、相談会に行き、「私のようなシニアでも大丈夫ですか?」と尋ねると、「シニア世代での留学も増えています。シニア世代に人気のマルタ共和国はどうですか?」と勧められました。地中海に浮かぶ島国、マルタ共和国の公用語はマルタ語と英語。歴史とロマンあふれるヨーロッパ人にとって憧れの島で、日本人留学生はまだ少ないため英語の勉強には最適とのこと。思い切って決めてしまうことで前に進める気がして、その場で9ヶ月先の2018年6月から3週間、マルタ共和国に留学することを決めたのです。

とは言え、マルタ共和国は行ったことのない遠い国。やはり不安があったので、予行練習をしておこうと思い、2018年1月末に行き慣れているハワイに1週間留学することにしました。これはとてもよい準備になりました。まず、クラスメイトとは、年齢・国籍が違っていても「同じ学生同士」としてすぐに仲良くなれるということを知ったこと。特にオリエンテーションで一緒だった20代の日本人、30代の韓国人、40代の台湾人との交流はとても楽しかったです。そして、「自分で好きな題材を選ぶ」「人前でプレゼンテーションする」といった日本とは全く異なる授業スタイルに慣れることができたこと。英語の成果については不明ですが、異文化の中での経験、「世界というレベルで見た日本を知りたい」という思いや、「違う国の人と話せるようになりたい」という強い思いを持てるようになったことは、大きな成果だったと思います。1週間の授業料は5〜6万年程度でした。

マルタ共和国への留学では「自信をもって話す」ことの重要さに気づく

いよいよ本番のマルタ共和国への留学の日が来ました。ハワイで予行練習をしたとはいえ、幕開けは波乱万丈でした。天候トラブルにより予定通り到着できなかったり、なんとか授業に間に合うように現地入りできたものの学生寮が希望通りの部屋ではなかったり…。その時点での英語のスキルでは対処方法がわからず…我ながらショック受けました。クラスメイトもイタリア人、スペイン人、ドイツ人など、ヨーロッパ諸国からの留学生が多くて全く言葉が通じず、「日本人がいない留学先を選ぼう」と思ったことを後悔しました。

初日から仲良くなれたのは流暢な英語を話す韓国人女性でした。彼女も、学生寮が希望通りの部屋ではなかったのですが、自分で交渉して部屋を変えてもらったと言うのです。彼女の行動に勇気をもらい、私も拙い英語力で交渉し、部屋を変えてもらうことができました。この留学で学んだ成果のひとつは、「主張する」(交渉する)ことです。

授業に関して、私は当初振り分けられたクラスについていけませんでした。先生の言っていることが聞き取れないから何をするのかがわからず、クラスのレベルダウンを申し出ました。新しいクラスではディベートをはじめ、きちんと自分の意見を述べることが求められました。生徒全員、文法や発音はめちゃくちゃでも、とにかく「話す」。それでコミュニケーションが取れていくのです。私も仕事柄、人前で話すことは慣れているはずなのに全く話せない。その原因を考えたとき、間違いを恐れて、どんどんと口に出していくことから逃げている自分に気づきました。

初日から仲良くなった韓国人や、寮が一緒だったスェーデン人、イタリア人の女性と、町を散歩したり、美味しいジェラートを食べに行ったり、ワインを飲んだりする時間も楽しんだ3週間。かかった費用は授業料+寮の滞在費で38万円ほどです(飛行機代、食費別)。英語を話すという面では目覚ましい成果があったわけではありません。でも、一緒に学んだ彼らと私との決定的な違いは、「自信を持って話すこと」「自分の意見をしっかり主張すること」「自国のことをしっかりと理解していること」、そして「ヒアリング能力」にあることが、はっきりとわかりました。この悔しさをバネに、今は「ヒアリング能力」を高めるための努力をしています。

英語学習に必要なのは、時間の捻出、家族の協力、ITの力

50歳を過ぎてからの英語の学び直し。最初は「今さら…」というか、「英語を勉強しています」と公言して実際に話せなかったらカッコ悪いという思いがありましたが、人生100年時代ということで、世間的にも「大人の学び直し」の必要性が言われているので、「私もマーケッターとして時流に乗って学び直しまーす」などと照れ隠しで言ったりしています。

もちろん実際には真剣勝負です。学習の時間を捻出するために、仕事や生活上の無駄な時間をカットするようにもなりました。また、家族も応援してくれていると思っています。私がオンライン英会話を受講する時間帯に対しては、常に気を遣ってくれています。「一緒に晩御飯をゆっくり食べたいのに…」と言われ、レッスンをキャンセルしたこともありますが(笑)。留学で家を留守にすることについても、比較的寛容なように思いますね。無料通話アプリを使って、頻繁にテレビ電話をしていました。会社のメンバーともオンライン会議や、メールのやりとりはしょっちゅうしていましたし、世の中便利になりましたね。

英語で視野を広げ、新しい自分をつくっていきたい

2回の留学を経て、強く思うのは「経験することの価値」です。「結論」「言いたいこと」をまず言う大切さ、「言い切ること」「表現豊かに話すこと」、それを常に意識しながら話す必要性を、身をもって体験し実感することができました。その結果、次に留学するときはヨーロッパの人たちと対等にディベートしたい! 自分の語学力で海外旅行を楽しみたい! 英語でファシリテーションができるようになりたい! と、私の英語に対する「学びの意欲」は増加の一途です。私のキャリアは会社員時代が第1ステージ、起業した今が第2ステージで、子育て・会社経営を経た今、第3ステージに向かっていると感じていますが、それは英語を駆使して何かにチャレンジするステージにしたいと思っています。

技術の進歩によって安価で性能のよい「翻訳機」ができていますが、私はそんな時代だからこそ「英語を学ぶ」ことを選択しました。語学を学ぶということは、単に「言葉が通じあう」だけでなく、自分の持っていなかった視点を教えてもらったり、逆に自分の固執した考え方に気づかされたり。語学への挑戦を迷っている方は、ぜひ新しい扉を開いてみてください。