5月15日(金)20時~、第9回LIFE SHIFT LIVE「子育て世代の地方移住~リモートワーク、起業、事業承継で広がる可能性」を開催しました。ゲストは、38歳のときに家族5人で千葉県から長野県に移住した藻谷ゆかりさん(56歳)。当日は、地方移住や2拠点居住に関心のある子育て世代をはじめ、移住者を受け入れる側の方、地方企業や事業承継を支援している方など、さまざまな立場の方が参加され、充実した学びの場となりました。以下、その概要をレポートします。

■オープニングトーク(20:0020:15

大野誠一(ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO)

ライフシフト・ジャパンの活動の紹介とともに、数多くのライフシフターへのインタビューから明らかになった「ライフシフトの4つの法則」についてレクチャーしました。■ゲストトーク(20:1521:00

Part1.藻谷ゆかりさんのライフシフトに学ぶ

藻谷ゆかりさんを招いたトークタイム。まずは河野純子(ライフシフト・ジャパン執行役員CMO)が聞き手となって、藻谷さんの起業・地方移住というライフシフトのプロセスを「ライフシフトの法則」に照らしながら伺いました。

 

ライフシフトの第1法則は、「5つのステージを通る」です。藻谷さんの場合はどうだったのでしょうか。

ステージ1.心が騒ぐ

藻谷さんは横浜生まれの横浜育ち。就職時には起業も地方移住も考えていなかったとのこと。転機となったのは上司の勧めで挑戦した米国留学時。「人生にはいろいろなオプションがあることを知り、また夫とも出会い、結婚。このころから子どもは地方で育てたい、地方で雇ってくれる人を見つけるのは難しいから、いずれは起業したいと思うようになりました」(藻谷さん)。

ステージ2.旅に出る

とはいえ留学から帰国後は会社に戻り、子どもが生まれても同じ会社で働き続けていました。しかし育休取得者も珍しい時代で子育てとの両立には難しさが。そこで藻谷さんは、外資系企業ならもっとうまくいくかもしれないと考え転職をします。「1年ごとに2社を経験。ただ自分にも未熟さがあったとは思いますが、年子を抱えて働く難しさには変わりがありませんでした」(藻谷さん)

ステージ3.自分と出会う

外資系企業への転職を経験したことで、藻谷さんは「大きな組織で子育てと仕事を両立することは難しい。起業しかない」と決心することになります。どうしたら起業できるかいろいろ考え、米国留学中に出会ったインド人の友人がお土産にくれた緑色の紅茶に驚いたことを思い出します。そして珍しいインド産紅茶の輸入・インターネット販売であればビジネスチャンスがあると考えます。

ステージ4.学び尽くす

全く未経験の分野での起業。藻谷さんはお土産をくれたインド人の友人を頼って、コルカタの茶園を紹介してもらい、その製法を学びにインドへ飛びます。その後も毎年、新茶のテイスティングをするためにインドに学びにいって事業を軌道にのせていきまました。

ステージ5.主人公になる

起業から4年後、いよいよ長野県への移住を実現させます。移住場所は夫の仕事の都合で東京まで2時間程度、湿気がなく、地価も安く…と考えていくと必然的に信州に。地方は実は働いている女性も多く、また移住者も多いエリアだったこともあり、人間関係に苦労することはなかったとのこと。子どもたちもたくましく育ち、今では長野で育ててくれてありがとうと言ってくれているそうです。

ライフシフトの第2の法則は、「旅の仲間と交わる」です。ライフシフトは、決して一人旅ではなく、様々な人と交わりながら進みます。藻谷さんの場合は、前述のインド人の友人が大きな役割を果たしました。

「インドの紅茶をお土産にくれ、農園も紹介してくれた友人が、寄贈者であり預言者であり支援者でもありました。また私が起業する1年前にすでに起業していた夫が師でしたね。門番は母親。コンピュータに向かって紅茶を注文する人はいませんと。後になって、あなたは先見の明があったのねと言ってくれましたが(笑)」(藻谷さん)。

ライフシフトの第3法則は「自分の価値軸に気づく」です。藻谷さんはどんな価値軸を大事にしてライフシフトしたのでしょうか。ライフシフト・ジャパンがワークショップで使用している18枚の「価値軸カード」を見ながら伺いました。

「子ども3人を育てながら、会社をやっていると、価値だなんだとは考えられなかったですね(笑)。強いて選べば『家族とともに』『仕事も生活も』『好きな場所で』『自分の裁量で』…という感じですが、とても自ら選ぶような状態ではなく、生活していくので必死でした。一方で、2年前に子育てもひと段落して紅茶ビジネスを事業譲渡した際には、パーソナル、ソーシャルな思いが強くなっていました。『経験と能力を生かす』とか『社会貢献』『気になるテーマを』などです」(藻谷さん)。

ライフシフトの第4法則は、「変身資産を活かす」です。「変身資産」とはライフシフトを実現した人が共通してもっているマインドセットや行動特性。ライフシフト・ジャパンは10の「変身資産」があると考えています。この中で、藻谷さんご自身が持っている、強みと感じているものを伺いました。

「私の場合は、『みんなと同じでなくても平気』『人生に起きる変化を楽しんでいる』『どんなことからも学んでいる』、この3つかなと思います。子どものころから、みんなと同じじゃなくても平気でしたし、変化も楽しんできました。今の仕事で取材をしていても、1つの取材からいろいろなことを学び、また次につなげていくことが得意だなと思います」(藻谷さん)。

2.地方移住を実現する4つの働き方と、事業継承の持つ可能性

続いて、「起業×事業承継×地域活性」をテーマに講演や執筆活動を行う専門家としての藻谷さんに、移住を考える人にとって気になる「地方での働き方・収入の得方」についてレクチャーいただきました。

まずこちらが、藻谷さんが「週刊エコノミスト」(2020.5.5/5.12号)で執筆した記事から抜粋いただいた「地方での新しい働き方」。

藻谷さん自身は、「都会でしていた仕事を地方にもっていく」という左上のパターンです。リモートワークの普及で、このパターンは今後も増えていくと考えられます。そして右上は、藻谷さんの夫、エコノミストの藻谷俊介さんのパターン。「都会でしていた仕事を都会と地方の2拠点で行う」というパターンです。

そして今回、詳しく説明いただいたのが左下、「違う仕事×完全移住」を実現する『事業承継』という選択肢です。具体的には、競売で長野県の『小石川旅館』を400万円弱で手に入れて移住した石坂大輔さんの事例を紹介。「石坂さんが見事に旅館を再生させた要因は、①土地を知らない若者だからこその『ビギナーズマインド』②新しい価値を付加する『増価主義』③外国人を招いた『地産外招』の3つです。そして非常に残念なことに地方では今回のコロナ禍で経営を諦める人がいることから、事業承継の機会は増えていきます」と話しました。

事業承継に興味のある方は、ぜひ藻谷さんの著書「衰退産業でも稼げます~代替わりイノベーションのセオリー」(新潮社)とともに、事業承継のマッチングサイトであるトランビや、バトンズをチェックしてみるとよいでしょう。最後に、地方移住で重要な3つのポイントを教えていただきました。

「それは『What何をするか』『Whereどこに移住するか』『Whyなぜ移住なのか』です。なかでも『Why』がもっとも大事。これがわかっていないと、結局、戻ることになります。移住にはメリットもデメリットもあり、メリットのほうが大きいと感じられるなら住み続けることができます。どうして移住するのかをご自身もご家族も考えてほしいと思います」(藻谷さん)

 ■休憩タイム(21:00~21:10)

ここで10分間の休憩タイムです。オンライン懇親会に備えて、飲み物やおつまみを用意していただきつつ、さきほどの「価値軸カード」の画面を見ながら、自分がこれまで大事にしてきた「価値軸」、これから大事にしていきたい「価値軸」について考えるプチワークも体験していただきました。

■オンライン懇親会(21:10~22:00)

オンライン懇親会は、Zoomのブレイクルーム機能を使って、3グループに分かれて実施しました。1グループの人数は6~7人程度。それぞれライフシフト・ジャパンのメンバーがファシリテーターとして入り、自己紹介や意見交換を行いました。藻谷さんにも順番に各グループを訪問いただき、直接質問にお答えいただきました。様々な立場の方が場所を超えて集い、多様な意見が交換され、多くの学びと刺激が得られたようでした。

以下、質疑応答の抜粋です。

Q 藻谷さんは見ず知らずの土地になじむために何かしていた工夫はありますか?

A 地元の人たちの悪口は言わない。特に子どもの前では絶対に言わないというのは気を付けていました。子どもを通じて伝わりますからね。

Q 地方でも子どもに十分な教育を与えることができるでしょうか。藻谷さんの子どもたちは思った通りに成長しましたか?

A もし受験エリートを育てたければ、都市部の私立中高一貫校の教育を与えることが近道かもしれませんが、私たちはそれをよしとしなかったわけです。ただ県立の名門校が近くにあることは確認し、子どもたち3人は無事その高校に進学してくれました。その先の大学選びは本人次第でしたが、3人ともたくましく育ってくれたと思っています。それと地方でもユニークな教育を提供する私立小学校ができたりもしています。選択肢は多いのでぜひ調べてみるとよいでしょう。

Q 移住後、収入はどう変わりましたか?

A 会社員を辞めて起業した際には収入は落ちたものの、移住前後では収入は変化しなかったですね。私の場合、都会でしていた仕事をそのまま持って行けたからです。ただ一般的には同じ職種で転職すると給与は2~3割下がる場合が多いですね。中には1/10になったという人も。それでも、なんとか暮らしていけるものです。

■アンケートより

・藻谷さんの講演は、とても勉強になりました。オンライン懇親会も共通のテーマに関心のある人たちと情報交換ができ、有意義でした。

・オンライン懇親会で同じグループだった方とは、Facebookでつながることができました。違うグループだった方ともつながってみたい。

・地方移住に興味ある人たちが全国から気軽に集まって、学んだり、情報交換できる良い機会でした。

・藻谷さんのお話は大変参考になりました。懇親会も楽しかったですが、短い時間内で、バックグラウンドの全く異なる初対面の方とわかり合い実のあるコミュニケーションをするのは中々難しいとも感じました。

・素晴らしいイベントをありがとうございました。藻谷さんとのディスカッションの時間がもう少し欲しかったです。

 

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