9月11 日(金)20時~、LIFE SHIFT LIVE『副業からはじめる起業術』を開催しました。今回のテーマは『副業からはじめる起業術』。ゲストは45歳のときに製薬会社に勤務しながら、外国人向け料理教室「わしょクック」を副業として開始し、2年後に退職して本格起業した富永紀子さん(51歳/ライフシフター・インタビューはこちら)です。
当日は40代~50代の会社員の方を中心に約20名の方にご参加いただき、富永さんの実践的なトークに熱心に耳を傾けました。特に「60%準備ができたらやってみる!」という言葉に、勇気をもらった方も多かったようです。トーク後の懇親感にもほとんどの方がご参加になり、充実した情報交換の時間となりました。以下その概要をレポートします。
1.オープニングトーク(20:00~20:10)
まず大野誠一(ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO)が人生100年時代を楽しむ『ライフシフトの4つの法則』を紹介しました。
2.ゲストトーク(20:10~21:00)
続いて富永紀子さんをお招きしたゲストトークタイム。河野純子(ライフシフト・ジャパン執行役員CMO)が聞き手となって、事前に参加者からいただいた質問にお答えいただく形で進行しました(以下敬称略)。
富永紀子さん
河野純子
◎「起業」「副業」のテーマの見つけ方
河野 では最初に自己紹介をお願いいたします。
富永 わしょクック株式会社代表取締役社長と、一般社団法人外国人向け料理教室協会代表理事をしている富永紀子です。私は薬学部出身ですが、キャリアはずっとマーケッターです。料理はもともと好きでしたが、専門ではなく、起業にあたって料理教室に通ったり、食育指導士の資格をとったりして勉強をしました。
いまやっている事業は4つです。
1.日本の家庭料理を英語で教える「外国人向け料理教室」の運営
2.外国の方に料理を教えることができる伝道師を育てる「認定講師育成事業」
3.認定講師が活躍できる「フランチャイズ校の運営」(現在国内外で110校を展開)
4.法人向け事業(料理を通じたチームビルディング研修、地方再生支援等)
今日はよろしくお願いします。
河野 ありがとうございます。幅広い展開をされていますが、外国人向け料理教室事業については、今回のコロナ禍でずいぶん影響を受けたのでしょうか。
富永 そうですね。お客様の90%が訪日観光客の方でしたが、3月以降は一人もいらしていません。そこでお教室をオンラインに変えたところ、これまで日本にこれなかった外国人の方がご自宅から参加してくれるようになったんですね。マーケットが大きく変わって、新たなチャンスがやってきた感じです。
河野 それはうれしい変化ですね。さて、そんな富永さんに本日はたくさんの質問がきています。まずは「起業」「副業」のテーマの見つけ方に関して、「本業の延長や関連がある分野とするか、経験はないけれど興味のある分野でいくか、迷いがあります」との質問です。
富永 私の場合は、いずれは海外に移住したという思いが出発点で、ニュージーランドを旅した時に「外国人にとってその国の家庭料理はとても価値がある」という気づきがあったんですね。それで「外国人に和食を教える」という事業で、起業と海外移住を実現しようと決めました。私の専門は料理ではなく化粧品のマーケッターでしたから、化粧品の分野で起業するほうがいいのではと迷った時期もありましたが、料理のほうが好きだったので、料理の分野でマーケティングのスキルを使っています。
河野 好きな分野でスキルを活かすという組み合わせですね。続いては「未経験の分野での起業を考えていますが、50代からでも間に合うでしょうか」との質問です。
富永 全然間に合いますよ。人生100年時代、まだ50歳は折り返し地点ですから。ただ50歳からまったく新しいことをはじめて、トップ中のトップを目指すのは難しいと思います。私も40代から調理師免許をとって、和食を極めていこうとは考えませんでした。料理教室に通ったり、食育指導士の資格をとったりして「料理の教え方」を学びましたが、それは自分のコンテンツを作っていく上で必要だと考えたからです。
河野 これから新しいことをはじめるには、自分らしい切り口が大事だということですね。「認定講師制度」も富永さんの事業の特徴ですが、これも最初から構想にあったのでしょうか。
富永 はい、ぼんやりとありました。やはり自分ひとりだけで「和食」の文化を広めていくことは難しいですし、ひとりでやる事業には「収入600万円の壁」があるんですよね。それでもいいという考え方もありますが、私はせっかく会社を辞めてチャレンジするのだから、1000万円台にのせていきたかった。そのための仕組みとして「認定講師制度」を考えていました。
◎本業とのバランスのとり方
河野 次は副業と本業のバランスのとり方についてです。「製薬会社にいながら副業を開始する際にハードルになった事は?」との質問をいただいています。
富永 ハードルは、平日は企業との打ち合わせができないということでしたね。料理教室や認定講師育成の仕事は週末にできましたが、企業とのコラボレーションや研修などはどうしても平日の昼間なので、そこは難しかったです。ただ、平日でも通勤時間の往復3時間と、ランチタイム1時間、子どもを寝かしつけたあとの1時間、合計5時間は「わしょクック」のための時間として確保していました。
河野 副業を趣味で終わらせずに起業に結び付けるために、富永さんはいろいろなKPIを設けていたそうですね。
富永 はい。最初のころはブログを一生懸命書いていました。週に3回は必ず更新するとか、登録者を1日10人増やすとか。そうした小さくてもきちんとKPIを設定してコツコツと積み重ねていった結果、ブログからメディアの取材が入ったり、仕事が入ってきたりするようになりました。
河野 お料理教室の最初のお客様も、ブログを読んだメディアの方だったそうですね。
富永 そうなんです。その当時まだ外国人のお客様は一人もいなかったんですが、やっている風にブログを書いていたら、とある雑誌から取材依頼が来て(笑)。それで「御社のスタッフの方で外国人の方がいらしたら、連れてきてください」とお願いしたんです。
河野 なるほど。とにかくやってみることが大事ですね。
富永 そうですね。「まだお教室の準備ができていないからブログが書けない」とか、「100%準備ができていないと始められない」とか考えていると、その間にマーケットも変わってどんどん遅れていっちゃいますよね。だから私は60%準備ができたら、Goだと思っています。あとはやりながら調整していけばいいと。
◎会社を辞めるタイミング
河野 続いては会社を辞めるタイミングについてです。富永さんの場合は、かなり手ごたえをつかんでの決断だったのでしょうか。
富永 実はかなりというわけではなく、いろいろなことが重なった結果、腹をくくったという感じです。ひとつは息子が学校に呼び出されるようになってしまったこと。会社でミスが続いてしまったこと。企業と取り組みをしたくて平日に有給休暇をとったりしていたのですが、もうそれでは対応できなくなってしまったこと。そして10年後にニュージーランドに移住したいという目標まで残りあと3年と迫ってきたことも大きかったです。もうこれ以上ずるずるしていられない、人生は一度きりだし、いざとなったらまた会社員に戻ってもいいと考えて決断しました。なので収入面では不安はありましたし、実際に辞めて1年間は、「わしょクック」からの給与はセロ円でした。
河野 それでもそのタイミングで「わしょクック」に専念してみて、良かったでしょうか。どんな変化がありましたか?
富永 それは全然変わりましたね。自分の本気度も、周りの見る目も。企業との契約もとれるようになって、売り上げも倍以上になりましたし。それにすべての時間を「わしょクック」に使えて、自分でなんでも決められるようになったというので、責任も重いですが、ストレスがなくなりましたね。
◎事業のスケールの仕方
河野 今日は事業のスケールの仕方に関する質問もたくさんいただいています。まず「認定講師制度」の仕組みについてお聞かせください。
富永 仕組みとしては、認定講師の育成を「和食の普及と社会貢献」をミッションに掲げた社団法人でやって、卒業生の活躍の場として株式会社わしょクックがあるという形にしています。認定講座にはベーシックコースとビジネスコースがあるのですが、資格を与えて終わりではなく、そのあときちんと仕事としてやっていけるように、集客面や運営面でのフォローアップに力を入れています。今でいえば、オンラインレッスンのOJTをしっかりやっていますね。また認定講座自体もオンラインで展開しているので、海外居住者にも受講いただき、ロンドン、ミラノ、ニュージーランド、シンガポールでも開校していただいています。
河野 ちなみに認定講師として活躍されている人と、そうでない人との違いはどんなところにありますか?
富永 活躍する人は、講座で習ったことを、素直に、すぐに、愚直にやる方ですね。私はこれを3つの直と言っています。それと志がしっかりある人はぶれなくていいですね。
河野 事業スケールにあたって、助成金などは活用されましたか?との質問も。
富永 はい、活用しまくっています(笑)。「小規模事業者補助金」など、いろいろあるんですよね。特に今年はコロナ関係でたくさん活用できるものがありますよ。私は商工会議所の方と仲良くなって、教えてもらっています。申請に必要なビジネスプランの書き方なども、丁寧に教えてもらえるので、ぜひ皆さんも地元の商工会議所を活用してみてください。ビジネスコンテストの情報などももらえるので、挑戦してみると、そのプロセスの中でもたくさんのことが学べますよ。その学びは賞金よりも価値があります(笑)
河野 富永さんはメディア露出も多いですが、どんな工夫をしていますか?
富永 私がニュースリリースを書いて、最初に持っていったところは市役所でした。市役所にはメディア部というところがあって、私の地元では40メディアぐらいが出入りしています。そこに「市民からの情報提供」として置いてもらえるんですよね。商工会議所にもそんな機能がありますし、WEB上でリリースを配布できるサービスもあります。とにかく自分から情報発信をしていくことが大事ですね。
河野 事業が軌道に乗ってきたタイミングで、旦那さんも「わしょクック」に参加されましたが、夫婦で働くことのメリット、デメリットを教えていただけますか?
富永 正直に言うと、最初は難しかったですね。夫婦って性格が違うので補完しあえるところはメリットですが、ぶつかることも多い。我が家の場合、私は60%でやっちゃうし、アバウトな性格。夫は慎重で細かい性格。3年目になってようやく夫は経理や人事などの細かい部分をみて、私がマーケティングの部分をやってと役割分担がうまくできるようになった感じです。とはいえどんなに意見が食い違っても、絶対的な信頼感があるところはよいところです。
河野 では最後の質問ですが、富永さんは副業からはじめて起業してよかったでしょうか。
富永 もちろんです。何かを始めていきなり収益をあげられることってないと思うんですよね。なので会社員で継続収入を得ながら、それを次にやりたいことに投資をするというのは、リスクのない良い方法だと思います。特に今のコロナ禍で在宅ワークをされている方は大チャンスですよね。通勤時間がなく、時間も自分でコントロールしやすいですから、いまこそ起業に向けてしっかり準備を始めるといいと思います。コツコツやっていれば、必ず会社の「辞め時」がやってくる思います。
河野 ありがとうございました。
3.懇親会(21:05~22:00)
続いて5分の休憩をはさんで、小グループに分かれての懇親会です。1グループ4~5人で、自己紹介や意見交換を行いました。富永さんには各グループを15分程度ずつ訪問いただき、より個別性の高い質疑応答にご対応いただきました。
最後は再び全体会。各グループの代表者から、どんな話題が出たのかを発表いただきました。各グループとも、富永さんにたくさんのアドバイスをもらいながら刺激的な時間が過ごせたようです。以下、その内容です。
・私のグループには、個人事業主の方が2人いらっしゃり、とても勉強になりました。また最後に富永さんがおっしゃった「会社にいることがベースではなく、自分の人生は自分が事業主であると考えていくとよい」というアドバイスが腹に落ちました(Iさん)
・参加者それぞれにさまざまな迷いがあるものの、無理に何かに絞らずに、このよう会に参加したり、いろいろやりながら、軸足を右に、左に、前に、後ろに動かしてみて、だんだんと的が絞れていくのかなと感じました(Yさん)
・私自身はすでに独立して1年がたちますが、ひとりでやることの限界はまさにおっしゃる通りで、今日はノートいっぱいに本当にたくさんのことを学びました。時に富永さんがいまもインプットを続けていらっしゃると聞いて、私もこの秋は「学びの秋」としてもう一度学んでいきたいと思います(Nさん)
最後に富永さんからのメッセージです。
「みなさん、夢を語ってください。ぼんやりとした夢でも語ることでいろいろ質問されるので、それを真摯に受け止めて、明文化してしていく。それがストンと落ちたら、再び語っていくと、そこから人脈やオポチュニティが広がって、夢に近づいていけると思います。私たちのニュージーランド移住もそんなふうにして前にすすめてきました。あとはコロナ次第ですが(笑)」
勇気づけられる言葉で閉会となりました。富永さん、ご参加くださったみなさん、ありがとうございました。
4.参加者アンケートより
・「とにかく、やってみる」という行動力が大事だと思った。また、したいことをするために、今までのスキルを手段に使うという事が印象に残った。
・確固たる目標を見つけるべきであること(それが見つからないから参加したのですが…) 、そしてその目標に向かって時間的な制約があるのなら、端折るという選択肢もあるということが印象に残りました。
・人生の目標から逆算して起業について考えたという点が勉強になりました。
・副業でも起業でも事業家目線は大事であること。
・話し手の実体験と合わせて、同じ目標や同じ価値観の方たちのナマの声が聞けてとても良かった。
・共通の未来思考をシェアできた。それにより自分のモチベーションも上がるし、仲間を応援したい気持ちになる。
・大企業から、異分野で事業を始める方法やその醍醐味、そのノウハウなど聞きたいことを聞くことができました。
・私のグループは、海外での活動、英語、料理など共通するワ-ドがたくさんあり、仲間の意見や思い、悩みをシェアできたことが一番の収穫です。
・和食を世界に広める、NZに移住するなど明確なビジョンを持つことから、戦略に落とし込むという考え方や仕組みづくりがとても印象に残りました。
・申込時は時間が長いな…と思いましたが、受講中はゲストト-クをもっと聞きたい!とさえ思いました。
・講師の商売センスが素晴しい。
・人生とは手探りの中で進んでいくものだと思っています。そんな中、人生100年ともなれば、私たちは何度も岐路に立たされる事でしょう。その都度何かしらのヒントをいただけたらとても心強いです。これからもいろいろな方のお話を聞かせてください。
・懇親会の時間が充分に取れたのが良かった。
アンケートにご回答いただき、ありがとうございました。今後のライフシフト・ライブの予定は、こちらからご覧ください。