PROFILE

富永紀子(とみながのりこ)《No.25》

・わしょクック株式会社 代表取締役社長
・神奈川県在住、49歳。55歳の夫、9歳の息子の3人暮らし。大学卒業、化粧品会社、製薬会社のマーケッターとして数社に勤務。その傍ら2014年に副業として自宅で外国人向け和食教室「わしょクック」をスタート。2016年、47歳で製薬会社を退職し「わしょクック」に専念する。2017年には(社)外国人向け料理教室協会を設立、認定講師の育成に努める。現在45人の認定講師が誕生、全国に32のフランチャイズ教室がある。
・座右の銘:意志あるところに道は開ける

富永多賀志(たかし)
・わしょクック株式会社 代表取締役専務
・55歳。大学卒業後、化粧品会社で営業部門を歩む。2017年、54歳で早期定年退職制度に応募し、妻が代表を務めるわしょクックに参加。主に営業、財務、人事領域を担う。
・座右の銘:後悔しない人生を歩む
わしょクック株式会社 http://washocook.jp/ja/

私も夫も、いつかは海外に住みたいという漠然とした想いはありましたが、それが具体的な目標になったのが、今から10年前の2008年にニュージーランドを旅したときです。50代のご夫婦が営む1日1組限定のロッジに泊ったのですが、その温かい家庭料理でのおもてなしや地元の人とのふれあいに感激して。ニュージーランドは移民の国なので、多様性があって懐も深いんですね。移住するなららここだ!と心に決めました。

義母との同居が転機となり、「外国人向け料理教室」を着想

10年後の2018年に移住しようと決めたものの、どうしたらそれが実現できるのか、当初は全く見当がつきませんでした。2人とも忙しく働いていたので、夕食時がブレストタイム。日本の文化を紹介したいから旅館をやろうかとか、うどん屋さんを開こうかとか、悶々とした日々が数年間、続きました。その間、子どもにも恵まれて、ますます日常生活は忙しくなってしまって。

転機となったのは、2011年の夫の転勤。青森に単身赴任することになり、2歳の息子の子育てをサポートしてもらうために、義母との同居をスタートさせました。その義母が作ってくれる和食の優しい味に触れ、「これだ!」と思ったのです。日本的な温かさと伝統にあふれている家庭の味を世界に広めよう、まずは日本在住の外国人向けの料理教室から始めようと方針が固まりました。

早速、義母に料理を習おうとしたら分量はすべて「適当」。これでは外国人はわからないと、必死でレシピに落とし込みました。また食育指導士の資格を取ったり、料理教室をリサーチしたり。会社勤めと子育てをしながら準備を進め、2014年に週末起業という形で自宅で外国人向け料理教室「わしょクック」を開始しました。
10年後の海外移住を目標に、夫婦で試行錯誤を6年。 妻が副業で始めた「外国人向け料理教室」が3年で軌道にのって 夫も参加。夢の実現が見えてきた! 富永紀子(とみながのりこ)さん、多賀志(たかし)さん《ライフシフターNo.24》

まずは平日5時間と週末を使って、副業としてスタート

その後も、2年半は2足の草鞋。本業に支障が出ないよう、平日「わしょクック」にかける時間は、通勤時間とランチタイム、帰宅後の1時間、合計5時間と決めました。忙しい日々でしたが、会社で働きながら本格的な起業の準備ができたことはとてもありがたいことでした。それに副業とはいえ1日5時間という時間は決して短いものではありません。週末の時間も含めると、かなりしっかりと事業運営ができるものです。

実際に徐々に手ごたえを感じるようになり、2016年には会社を辞めて「わしょクック」の仕事に専念する決断をしました。安定した収入が得られるか不安はありましたが、夫もまだ会社員を続けてくれているし、いざとなったらまた会社員に戻ってもいいと考えて挑戦することにしたのです。夫はもちろん、「わしょクック」のロゴにも登場してもらった義母も賛成してくれました。

「わしょクック」に専念してみて、好きなことを仕事にできる楽しさを実感しています。責任も重いですが、すべて自分に返ってくるのでやりがいは大きいですね。息子と過ごす時間が増えたことも嬉しいこと。息子は学校で「うちのお母さんは外国人の料理の先生なんだよ」とか、「ニュージーランドに住んでレトリバーを飼うんだ」などと夢を語ってくれていて、それも力になります。

「わしょクック」に専念したことで教室運営、認定講師の育成だけでなく、地方再生のお手伝いや法人研修など事業にも広がりが出て、3期目に入った今年、会社員時代と同じぐらいの収入を得ることが可能となりました。また、ニュージーランド移住という目標まで残すところあと1年となった昨年、夫も会社の早期定年退職制度に応募して退職し、「わしょクック」に参加しました。
10年後の海外移住を目標に、夫婦で試行錯誤を6年。 妻が副業で始めた「外国人向け料理教室」が3年で軌道にのって 夫も参加。夢の実現が見えてきた! 富永紀子(とみながのりこ)さん、多賀志(たかし)さん《ライフシフターNo.24》

夢は、口に出して話すことで具体化していく

現在は、夫婦2人でニュージーランド移住を前提とした「わしょクック」の体制づくりを進めています。日本では100教室の展開が目標で、ニュージーランドをはじめとする海外展開の準備もスタートさせました。ニュージーランドへの移住が目標だった今年中に叶うのか、もう少し時間がかかるのかまだわかりませんが、着実に実現がみえてきたところです。

原点はニュージーランドのあのロッジ。10年前に感じた地元ならではの温かいおもてなしとコミュニケーションの楽しさを、日本の文化である和食を通じて世界中に提供していきたいと思っています。

10年前は漠然とした夢でしたが、口に出して語ることで自分の意思も固まり、自ら動くことで応援してくれる人も増えました。これからライフシフトを考えている人には、まずは何か動いてみてほしいと思います。特に女性の場合は、「子育てがひと段落したらこんなことをやってみたい」といった漠然とした夢は持っているものの、自分にはできないかもしれないとか、今は忙しいからとか、何か理由をつけて動いていない人が多いように感じます。まずは一歩、踏み出してみると、必ず違う景色が見えてきます!

<夫、富永多賀志さんから一言>

妻は思いたったらすぐに行動する派、私は慎重派。よいパートナーシップでここまで夢の実現に向けて歩んでこられたと思います。とはいえ、昨年までは週末に子どもの世話をする程度しか妻をサポートできなかったため、今は私のほうが少し前のめりかもしれません。早期定年退職して「わしょクック」に参加することを楽しみにしていましたからね。

これからライフシフトを考える方には、10年後の自分の姿をどう描くのか、できるだけリアルに想像してみてほしいと思います。10年というスパンは、いろいろな夢を実現できる十分な時間です。最初は10年後のなりたい姿に向けて何をするか漠然としていても、口に出して言うことで徐々に霧が晴れ、いつかその漠然が形となってくると思います。