10月2日(金)20時~、LIFE SHIFT LIVE「大人女子会②40代からの起業の壁の乗り越え方」を開催しました。ゲストは、2020年4月に更年期カップル向けのコミュニケーションサービス『wakarimi』を立ち上げた高本玲代さん(45歳/インタビューはこちら)です。当日は起業や更年期障害に関心のある40代・50代の女性が海外からも参加され、高本さんの穏やかな笑顔と語り口に安心感を覚えつつ、密度の高い実践的な情報に熱心に耳を傾けていました。以下、詳細をレポートします。

<開催レポート>
■オープニングトーク(20:00~20:10)
河野純子(ライフシフト・ジャパン執行役員CMO)ライフシフト・ジャパンの活動の紹介とともに、数多くのライフシフターへのインタビューから明らかになった「ライフシフトの4つの法則」についてレクチャーしました。

■ゲストトーク(20:10~21:00)
続いて高本玲代さんにご登場いただき、河野が聞き手となって、事前に参加者からいただいた質問にお答えいただくトークタイムです。

河野 まず自己紹介をお願いします。
高本 はい。更年期カップル向けのコミュニケーションサービス『wakarimi』を運営している高本です。滋賀県の琵琶湖のほとりのド田舎に夫と2人の娘と住んでいて、事業運営は複業もしながらフルリモートでやっています。

スタートアップの世界は、実は男性社会。起業する人も、投資をする人もほとんどが男性。すべての時間を事業に捧げる「爆速フルコミット」が求められて、投資家もみんな東京にいます。ですのでド田舎で子育て中の私にはまだ起業は無理かなとも思いましたが、こんな状況では40代の私たち女性が求めているサービスが生まれないのではないかとも感じていました。

そんな中、女性起業家を育てる株式会社uni’queのインキュベーション事業「Your」に出会ったことが『wakrimi』の実現につながりました。「Your」は、女性が弱いファイナンスやITの支援が受けられ、複業スタイルやリモートワークでも起業ができる仕組み。現在、自分の更年期障害の体験を活かしながら、事業をブラッシュアップしています。今日はよろしくお願いします。

河野 早速、最初の質問です。高本さんが起業を考え始めたきっかけをお聞かせください。
高本 夫の転勤に帯同して米国に滞在していた際に、たくさんの起業家に出会ったことです。日本だと失敗を回避することが重要視されますが、彼らは「失敗も経験」ととらえて、やまほど失敗している。失敗を繰り返しながら成功するまでやるから、成功するんですね。そんな姿を見て事業を起こすのも面白そう、と考えました。39歳のころです。

河野 そして帰国後、お二人目のお子さんの出産を経て、41歳のときに具体的に起業の準備をはじめたんですね。はじめの一歩についてお聞かせください。
高本 いろいろな起業支援セミナーに行ってみることから始めました。ただセミナーの中身は玉石混交。なかなかちゃんとした方とつながれずに苦労しました。参加者からお金をとることだけが目的のセミナーもあるので、実際に事業をやって成功されている方なのか、起業家を育ててきた実績のある方なのかを見極めないといけないですね。

河野 そんな風にして、のちにメンターとなる奥田浩美さんと出会い、シリコンバレーで開催された「女性起業家育成プログラム」に参加されたわけですが、ここでは具体的にどんなことを学んだのでしょうか。
高本 あまり内容をわからないまま参加しちゃったんですが(笑)、起業家としての「あり方」「資質」を学び、自分を解放していくプログラムでした。例えば、女性は求められる条件が10個あったら全部満たしていないと手を上げないけれど、男性は3つ当てはまっていたら手をあげてチャレンジする。起業はそういうところを問われる。子どもがいるとか、これはできないとかいった理屈ではなく、自分がやってみたいと思ったら手をあげることが大事。そういったことを学びました。

河野 参加されてよかったですか?
高本 そうですね。よく自分のライフステージを変えたければ、付き合う人を変えなさいと言いますが、これを機に自分の周囲のネットワークが180度変わり、スタートアップの中枢にいる人につながれました。このとき出会った仲間とヘルスケア系のスタートアップを立ち上げることになり、それが神戸市と米国のベンチャーキャピタル500 Startupsによる「500 KOBE ACCELERATOR」に採択されて7週間のプログラムに参加することになりました。これは貴重な機会でした。

河野 「500 KOBE ACCELERATOR」ではどんなことを学んだんですか?
高本 シリコンバレーのトップクラスの起業家や投資家から直接メンタリングを受けながら、自分の事業をブラッシュアップしていくプログラムなので、実践的な内容でした。ただかなりハードルは高いので、これから事業をつくっていくフェーズであれば、いま私が参加しているAPT(東京都女性ベンチャー成長促進事業)のほうがいいと思います。

河野 さまざまな学びを経て、「wakarimi」の立ち上げに至ったのですね。事業は順調ですか?
高本 立ち上げから半年、試行錯誤を続けながら前進しています。夫婦のコミュニケーションで更年期障害を乗り越えていくというコンセプトは新しい概念なので、そういう文化を築いていけるのかがカギです。更年期障害で悩む人は1200万人と、かなり大きなマーケット。海外ではすでに40~50代の女性の体調不良による離職が明確な企業課題になっていて、1000社以上の会社が対策を打っています。「wakarimi」も企業との取り組みに可能性を感じています。

河野 Yourの仕組みは「爆速フルコミット」が求められないため働きやすいとおっしゃていましたが、女性が起業する際に壁となりやすいシステム構築の課題はどうやってクリアしましたか?
高本 これから起業する際にIT技術の活用は欠かせないため、エンジニアとのネットワークは大切ですよね。私の場合はuni’que代表の若宮のネットワークで、とても優秀なエンジニアとチームを組んでいるので安心ですが、自分で探すのであれば例えば各自治体が実施しているハッカソンのイベントに参加してみるとか、あるいは起業家同士のネットワークも有益です。「あの開発会社さん、すごくいいよ」といった情報は頼りになります。

河野 もうひとつの課題、ファイナンスについてはどうですか?
高本 ファイナンスは勉強すれば大丈夫です。私も最初のヘルスケア系企業では資本政策が合わずに1年未満で空中分解するという経験をして、勉強しました。女性は資金力もファイナンスの知識もなく、痛い目にあうことも多いようです。もしスタートアップ系のファイナンスに興味があれば、「起業のファイナンス」という本がお勧めです。

河野 女性起業家はスケール志向がない、実際に事業も拡大しないというという課題をあげる人もいます。
高本 必ずしもスケールする必要はなく、スケールさせたいのかどうかが大事だと思います。私の場合は社会を変えていくという事業なので、より多くの人に利用してもらいたい、つまりスケールを目指すということになりますが、自分の周りの人を幸せにしたいという事業であれば、無理に拡大する必要はないですよね。それと、事業の拡大はテクニカルなこと。拡大させたいと思ったら、協業を進めていくなど、ステージごとに打ち手があります。

河野 複業とのバランスや、家庭との両立はどうしていますか?
高本 基本は、半分以上は自分の事業のことをやっていて、合間合間で複業をやっています。ただ複業のほうが忙しい時もあるので、そこは調整しながらですね。家庭との両立の話は、そもそも両立しようと思っていません(笑)。何をもって両立というかは人それぞれですが、私は自分と子どもたちがご機嫌でいられればそれで充分。部屋がきれいに整っているとか、素晴らしい料理を出すとかは考えていません。結構、いろいろしでかしていますが、なんとかなっています。夫も「この人はこういう生き方しかできないだろうな」と尊重してくれているのかな。一応、私の活動もFacebookでシェアしてくれたりして、応援してくれてます。

河野 起業のきっかけにもなったご自身の更年期による体調不良とは、どのように付き合っていますか?
高本 体調と相談しながらやっています。悪い時は休んでいますし、逆に「いま体調がいい!」というときはスイッチ入れて頑張っています。睡眠時間を削りながらコンスタントに力を発揮する男性を見るとすごいなと思いますが、いろいろな働き方があっていいんじゃないと思うと気が楽になりますよ。

河野 最後に今日は更年期の体調不良を抱えているという方も参加されていますので、『wakarimi』のサービス内容のご紹介とともに、上手な付き合い方をアドバイスいただけますか?
高本 更年期の体調不良は人によって違います。だからこそ悩むのですが、適切に気をつけてリテラシーを高めていけば、仕事のパフォーマンスを高めていくことができます。『wakarimi』はLINEを活用して、以下の4つの機能を提供しています。

①毎朝、女性の体調をパートナーに共有する。
②女性の体調をデータ化する。例えば1か月のうちに半分も体調が悪いなどが見える化するので、男性の意識や行動変容につながる。
③更年期に関する知識を提供する(男性にも同じように勉強してもらう)。
④夫婦のコミュニケーションをシステムでサポートする(女性が何をしてほしいのか、男性は何ができるのか等をシステムが提案することで受け入れやすくする)

個人利用でしたら、月額1500円。1週間の無料お試し期間もありますので、ご興味がありましたらぜひお試しください。

河野 ありがとうございました。

■質疑応答(21:05~22:00)
5分間の休憩をはさんで、後半は参加者からの質問タイムです。高本さんへリアルな相談が寄せられました。以下その一部を紹介します。

Q.現在、企業向けのコンサルティング事業で起業準備中です。全くつてのない企業への営業はどのようにすればいいでしょうか。
高本 対象顧客の要件定義をして、ピックアップしたら上から順にひたすらあたってくしかありません!私の場合は、1社1社のニーズを研究してそれを盛り込んだお手紙をトップの方にお出しする、さらに実務担当者にもアプローチするというサンドイッチ方式でやっています。対象企業の方にお会いできるようなイベントを探して会いに行く、トライアルサービスを用意して実績を作っていくなどの工夫も。起業で成功する人は賢い人ではなく、「とにかく動く人」です。

Q.私も体調にムラがあり、休まざるを得ないときは罪悪感があります。
高本 私もかつては罪悪感がありましたが、いまは自分を実験台として客観的に見るようになりました。今回は這い上がるまでに時間がかかったなとか、今回は早いなとか。人生すべて実験と考えれば、気が楽になりますよ。

Q.体調不良で旦那さんとも衝突したとのこと。どのように乗り越えたのでしょうか。
高本 体調が悪いときは、仕事をこなすことで精いっぱいで家のこ『とができなくなってしまうわけですが、夫はそれを「好きなことだけやっている、家事をさぼっている」ととらえていたんですね。私は私で「なんであなたはわかってくれないの?」と。そうではなくて、自分を主語にして「私はいま体調が悪いのでこうしてほしい」ときちんとコミュニケーションをとっていくことで解決していきました。

以上となります。高本さん、ご参加のみなさま、ありがとうございました。

<参考URL>
『wakarimi』公式サイト
株式会社uni’que 「Your」
500 KOBE ACCELERATOR
APT(東京都女性ベンチャー成長促進事業)
『起業のファイナンス』(磯崎哲也著/日本実業出版社)

<参加者アンケートより>
・難しいイメージのある「起業の最初の一歩」について丁寧に教えてくださり、ありがとうございました。
・高本さんのお人柄が素敵でした。穏やかな笑顔と話し方の中に、強い芯があるのを感じました。
・起業のお話はとても興味深く、「頭の良い人より動ける人」は本当に心に残りました。発展途上の私の気持ちを後押ししてもらった気分です!!
・今回はオンラインだったから余計に思ったのかもしれませんが、参加者同士の距離がとても近く感じました。
・女性は、キャリアと家族との間で選択を迫られることが多いと痛感します。この会に参加したことで、新しい視点や選択肢が見えました。
・実際に子供を育てながら起業している方の話を聞ける機会は少ないので貴重な機会でした。
・やはり起業には熱意と継続するパワーが必要だなと感じました。
・仕事と家庭の両立の仕方は人それぞれであるということを学びました。
・海外ですら、スタートアップは男性中心なのだという事実が印象に残りました。会社が女性の活躍を期待する一方、仕事だけを念頭に邁進できる男性と、家事や子育てをして家庭を支えながら働く女性が、全く同じアプローチで昇進判定を受けることはどこかズレているという違和感を、今回はっきりおかしいと認識できました。更年期障害も、別の前向きな言葉に置き換えたら広めやすいかもしれませんね。
・女性の体調の変化については、個人差もあり、周囲になかなか理解してもらえないということを学びました。ありがとうございました。

以上です。アンケートにご回答くださった皆様、ありがとうございました。今後のLIFE SHIT LIVEの予定はこちらをご覧ください。