10月16日(金)20時~LIFE SHIFT LIVE「フィジー人に学ぶ幸福の習慣~幸福なライフシフトのヒント」を開催しました。ゲストは、「世界幸福度ランキング」で何度も1位に輝くフィジー共和国に移住した永崎裕麻さん(43歳)。当日は20代~60代まで幅広い方々ご参加いただき、「幸福を引き寄せるフィジー人の習慣」とともに、永崎さんのライフデザインや子育ての考え方に触れ、刺激に満ちた時間を過ごしました。以下、詳細をレポートします。

<開催レポート>
■オープニングトーク(20:00~20:10)
大野誠一(ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO)が、ライフシフト・ジャパンの活動の紹介とともに、数多くのライフシフターへのインタビューから明らかになった「ライフシフトの4つの法則」についてレクチャーしました。

大野誠一(ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO)

■ゲストプレゼンテーション(20:10~21:20)
続いては、ゲスト永崎裕麻さんからの自己紹介です。永崎さんにライフシフターインタビューにご登場いただいたのは2017年11月。その後3年間の変化も含めてお話いただきました。

永崎裕麻さん。当日は日本から3時間早いフィジーから登壇

まずフィジー共和国の紹介を少しします。フィジーはオーストラリアの東側にある、人口90万人の小国です。オーストラリア人やニュージーランド人に人気のリゾートで、日本人にとってのハワイのような存在。ラグビーが盛んで、日本代表のリーチ・マイケルもフィジーとニュージーランドのハーフです。いまはコロナ禍で観光客が入れず閑散としていて、こんなふうに贅沢にプールを使ったりしています(笑)。

移住したのは14年前。大阪で会社員をしていましたが、「世界住みやすい町ランキング」というデータに出会って、心が騒ぎました。そのランキングの1位はウィーンでしたが、自分にとっての1位を探そうと世界1周の旅に出ました。2年間で80ヵ国を回り、旅の集大成で内閣府の「世界青年の船」に乗ったときに、これまで回ったどの国の人よりも幸せそうなフィジー人に出会って移住を決めました。

フィジー人と一緒に暮らすうちに彼らは「幸福を引き寄せる習慣」を持っていることに気づき、それをまとめたのがこの本です。表紙はフィジー人のおじさんです。世界で子どもが幸せそうにしている国はたくさんあるけれど、おじさんが幸せそうな国はほかにないと感じたからです。

「世界でいちばん幸せな国フィジーの世界で一番非常識な幸福論」(いろは出版)

3年前のインタビューからの変化でいうと、東京大学の柳川範之先生が提唱している「40歳定年制」に共感して、75歳ぐらいまで働くのであれば40歳ぐらいで一度休憩をしたほうがいいと考えて、1年間働かずにまるまる家族と過ごしました。仕事をしなかったらお金がなくなったので(笑)、41歳からはフィジー人の価値観を学びながらライフスタイルをアップデートする英語学校「カラーズ」の校長をしています。

昨年末からは、デンマークにも拠点をもって日本とフィジーとの3拠点生活をはじめましたが、今はコロナでストップ。再び、家族との生活を満喫している毎日です。今日はよろしくお願いします。

■トークセッション(20:20~21:50)
ここからは、河野純子(ライフシフト・ジャパン執行役員CMO)が聞き手となり、事前に参加者から頂いた質問に永崎さんにお答えいただく形でトークを進めました。

聞き手・河野純子(ライフシフト・ジャパン執行役員CMO)

河野 デンマークとの3拠点生活にチャレンジされていたのですね。なぜデンマークだったのでしょうか。
永崎 5歳と2歳になった子どもたちに、いろいろなタイプの「幸せな大人の姿」を見せたいと思ったからです。フィジー人の幸せは子どもがそのまま大人になった感じ。子どもたちがずっとフィジーで生きていくのならいいのですが、最終的にどこで暮らすかわからない。そう考えるともっと成熟した国であるデンマークの大人の姿も見せたいなと。

河野 フィジーもデンマークも、幸福度調査で上位にランキングされる国ですが、タイプが違うんですね。
永崎 そうですね。幸福度を測る調査はいろいろあるのですが、最も有名なのが国連の調査で、北欧諸国が強い。フィジーが何度も1位になっているのは米国ギャラップ社の調査です。この2つの調査は聞き方が違うので単純に比較はできませんが、「主観的な幸福度」を測っている点では同じです。一方でGDPや寿命、貧困率などの「客観的な幸福度」を測る調査もあって、こうした調査でのフィジーの順位は凡庸な結果です。これは客観的幸福度と主観的幸福度がずれているということで、幸福の構成要素と考えられている「常識」が実は違うのではないかと感じています。

河野 では幸せの構成要素とは何なのか。それが今日のテーマですが、永崎さんはフィジー人の特徴として4つをあげていますね。まずは「共有」という習慣です。
永崎 フィジー語で「ケレケレ」という言葉があります。プリーズ、ちょうだい、ありがとうといった意味ですが、なんでも「ケレケレ」と言ってシェアをしていきます。モノだけでなく、お金もです。基本的にすべてがみんなのもの。日本だったら窃盗にあたることも多発しますが、分け与えるということは、自分が周囲に役立てるということ。これは幸せを実感できる大きなファクターなのだと思います。最も不幸なことは誰からの必要とされないことですから。

河野 幸福を引き寄せる2つめの習慣が「テキトー」とのこと。
永崎 本を書いたときは「テキトー」という言葉を使いましたが、最近は「脱力」という言い方をしています。几帳面な日本人から見ると、フィジーだけでなく世界中の国が「テキトー」なんで、よりフィジー人らしさを表す言葉が「脱力」かなと。日本人は危機意識が高く、日々ガードを高くして生きています。その結果、パンチは食らわないけれど、しんどい。フィジー人はたまに殴られるかもしれないけれど、ノーガードで力まずに生きるほうを選んでいる。その寛容さがゆとりや幸福感を生んでいると思います。

河野 3つめは「今に集中」。過去や未来ではなく、今を大切にするという習慣ですね。
永崎 フィジー人はよく約束を破るんです。例えば映画に行く約束をしても、ドタキャンする。約束したときは行きたかったけれど、当日になって行きたくなくなったら、自分の気持ちに素直に行動します。日本人だったら約束を破ったら信頼関係が崩れるから無理して行きますよね。約束が義務になっているわけです。でもフィジーは寛容度の高い社会。ドタキャンしても信頼関係が壊れることはないから、我慢しないし、義務感を感じることもない。もともと未来のことを考えることが得意ではないし、なんとかなると思っています。実際、99%なんとかなってますし、なんとかならなくてもいいとも思っています。

河野 日本における幸福論の第一人者である慶応義塾大学の前野隆司先生は、幸福の4因子の1つに「なんとかなる」という因子をあげていますね。
永崎 前野先生は「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「あなたらしく」を幸福の4因子にあげていて、どれか1つでも飛びぬけて強い民族は幸福だと言っています。フィジー人は「なんとかなる」が飛びぬけています。

河野 4つめの習慣が「つながり」ですね。
永崎 フィジー人はお金よりも、人とのつながりを大事にしています。幸福は1人では感じられず、人と人の間に存在するものなので、幸福を引き寄せる大事な要素です。そのつながりの強さの背景にあるのが「依存力」の高さ。お互いに依存しあうからこそ、強いつながりが築けるのだと思います。とにかくGIVE&TAKEの総量が多いので、いまどれぐらい誰に借りがあるのかなど計算しきれない。この状態は等価交換に縛られている日本人にとって慣れるまでに時間がかかります。

例えば、ある日ライムを10個買って帰ってきたら、隣の人に「6個ください」と言われたので、過半数越えかあ(笑)と思いつつ、あげたんですね。数日後、我が家のドアノブに袋が下がっていて、中を見たらライムが2個入っていたんです。あげたつもりだったものが返ってきたのでプラスの感情になるはずが、僕は「4個足らん!」と思っちゃった。まだまだ等価交換にしばられている。これ、自分はこんなに頑張ったのに評価されないと思うのと一緒ですよね。でも世の中は等価ではないということに慣れていけば、自分が楽になるのだと思います。

河野 ありがとうございます。続いて参加者からの質問をいくつか。まず幸福は目的でしょうか、手段でしょうかとの問いです。
永崎 目的でも手段でもあり、どうとらえるかで生き方が変わると思います。例えば心理学者のショーン・エイカーは「成功するから幸せなのではなく、幸せだから成功する」と言っています。であれば幸せのハードルを下げて、とっとと幸せになったほうがいい。目的であれば、すぐ達成してしまったらやることがなくなってしまうので、遠くに置いた方がいいですよね。

河野 続いての質問です。人生が長くなる中、日本では定年後の幸福が課題になっています。永崎さんは後半人生をどのように考えていますか?
永崎 人生100年時代になり、AIも進化する中、年齢を重ねれば重ねるほど、人は暇になるのだと思います。経済学者のケインズも、2030年には経済問題が解決され、余暇の使い方に悩む「退屈リスク」が高まると予言していました。僕は「猫に小判、豚に真珠、人に自由」と言ってるんですが、自由という素晴らしいものをどう取り扱うか、特に日本人は苦手なんだと思います。

僕の戦略は、65歳以降の「暇な時間」を前借りして、体力もあって子育ても楽しい30代、40代にやりたいことを徹底的に楽しもうというものです。家族とともに後悔しない圧倒的な思い出をつくりたい。もうやり切ったよね、という状態で50代を迎え、仕事は65歳から頑張ろうと思っています。

河野 アメリカ・ダートマス大学のデービッド・ブランチフラワー教授が、人生の幸福度と年齢の関係について世界132か国で調査したところ、人生における幸福度が最も低い年齢は、先進国で47.2歳、発展途上国で48.2歳という結果が出ていますね。
永崎 そうなんです。40代が人生の底なんですね。その原因は働きすぎて時間にゆとりがないことにあるのではないかと思います。なので僕は働きすぎず、40代を人生のピークにもっていこうとしています。

河野 なるほど。「今に集中」という考えにもつながりますね。ありがとうございました。では時間となりましたので、ここで休憩に入ります。

■質問タイム(21:05~22:00)
ここからは前半の話を聞いて感じたことをシェアしながら、参加者が直接、永崎さんに質問をする時間です。いくつかの質疑応答をご紹介します。

Qフィジー人と日本人の一番の違いは、お金に対する感覚だと思いました。日本人は変化するときにお金がなくなる恐怖がある。そこにリスクを感じるから変化できないのだと思います。「貯蓄額は不安の総量だ」という話も聞いたこともあります。
永崎 そうですね。日本人は「フィジー人はどうしてお金がなくても幸福なのか」と聞きますが、フィジー人は「日本人はどうしてお金がないと幸せになれないと思うのか」と驚きます。僕の場合は、お金のリスクよりも、やりたいことをやらずに人生が終わってしまうことにリスクを感じます。世界一周についても「よくそんなリスクをとれましたね」と言われますが、先延ばしにすればするほどやれずに死ぬリスクが高まるわけですから。

フィジーに移住して年収は1/3になりましたが、南国の太陽を毎日浴びる価値って、年収300万円ぐらいの価値?毎日、笑顔で「こんにちは」と言われるのは1回500円の価値?などと考えると、年収1000万円を超えていくんですよね。それと貯金は身体の外に安心財を貯めることですが、僕は利回り最強の投資は自分への投資だと思っています。

Q.40代はやりたいことをやるというお話でしたが、抱負や目標はありますか?
永崎 荷物が多いのは好きではなく、目標とか抱負も好きではありません。「抱負」って負けると書きますし、精神的な荷物を背負うイメージがあります。やりたいことは「変化を楽しむ」こと。僕にとって幸せは「感謝×変化」だなと思っていて、住む場所を変えることが一番大きな変化をもたらします。なので、今は3拠点生活に挑戦中ですが、あと2か所、子どもの幸福度が世界一のオランダと、環境幸福度が世界一のコスタリカを加えて、5拠点生活にチャレンジしてみたいと思っています。

Q.お子さんの教育のことはどんな風に考えていますか?
永崎 子育ても身軽がいいなと思っています。「最軽量育児」と言っているのですが、生きていてくれれば100点という考え方です。子育てについては、個としての成長とか、教育資金は5000万円必要だとか、そりゃあったほうがいいと思うことがたくさん言われているので、自分たちなりに何かしらの上限を設定しておかないと迷います。我が家は気楽にやろうとしています。

ただ、「みんなと同じ」というのは危険なので、人とは違う変わったストーリーを作ってあげたいと考えています。そういう意味で、フィジーで生まれ、5か国で育ったという経験は、子どもたちにとって資産になると思いますし、少なくとも「人と違うことが当たり前」と考えられることは武器になるんじゃないかな。

以上となります。永崎さん、ご参加くださった皆様、ありがとうございました。

<参加者アンケートより>
・とても分かりやすいお話ありがとうございました。寛容さが作り出す幸福な世の中。組織にも当てはめると思いました。ありがとうございました!
・改めてフィジー人の「脱力」と「足るを知る」との共通性を学びました。
・永崎さんの価値観や人生に対する考え方に刺激を受けました。
・「常識」は、決して絶対的なものでも、共通のものでもないので、「今、ここ」において、意味のない「慣性の常識」に振り回されず、自分の感性を大事にして、常識をアップデートすることが大切だと学びました。ありがとうございました。
・「ケレケレ」という言葉、GIVEしたものが返ってくるから不満が生まれるという話が印象的でした。
・いろんなライフシフトがあるものだと思いました。人生イロイロですね。
・等価交換や所有権が絶対ではないという当たり前のことだが、語ってくれた点。
・「幸福」に関して、新たな気付きがありました。ありがとうございました。
・自分の中のアンコンシャスバイアスに気づき、「アンラーニングを学ぶ」ことができました。
・理屈ではなく、ライフシフトした人の実際の状況を知ることはライフシフトを考えるきっかけとなると感じました。

以上となります。コメントを寄せてくださった皆様、ありがとうございました。今後のライフシフト・ライブの予定はこちらをご覧ください。