ライフシフト・ジャパンは、7月7日(水)13時から、ライフシフト・フォーラム 「人生100年時代の新・経営論 『変身資産』が会社を変える」をオンラインで開催しました。当日は200枚のチケットが完売。多彩なパネリストによるプレゼンテーションや「カイシャの未来研究会2025」コアメンバーとのクロストークなど、密度の濃い3時間をともに過ごしました。以下、その詳細をレポートします。

 

セッション1『変身資産』が増えるエコシステムを“見える化”する~フラッグシップ企業研究から見えてきた4層構造

最初のプログラム、セッション1「『変身資産』が増えるエコシステムを“見える化”する~フラッグシップ企業研究から見えてきた4層構造」では、冒頭、ライフシフト・ジャパン 代表取締役CEOの大野誠一が全体の流れを説明するとともに、生き生きとした100年ライフの実現を目的に設立された同社の事業概要を説明した。

個人が変わるためには、会社も変わらなければならない。2018年12月から、企業の人事責任者や大学の研究者とともに、大野が主宰者となり、新しい会社像を探る「カイシャの未来研究会2025」の活動を行ってきたこと、その成果として、18の提言からなる「会社を『出会いの社(やしろ)』にしよう。」を発表したことを説明する。


そこから発展する形で、2020年8月から、トップや社員の“想い”を大切にする経営を「ヒト・ドリブン経営」と名付け、それを実践しているフラッグシップ企業11社を取材し、ライフシフト・ジャパンのサイトで発表した。この後に続くセッション2で登壇する3名の経営者はその11社のうちの3社のトップだ。

フォーラムのキーワードとなっている『変身資産』。各自が心の中にストックしてきた見えない資産のことで、大野は、2021年5月にそれを測定するアセスメントを発表したことも説明する。人生に変化を起こす「心のアクセル」10項目、変化を止めてしまう「心のブレーキ」10項目から構成される。その中身を把握しておくことが、100年ライフを旅するための基盤になる、というのだ。

■個人を変身させ、企業を変革させる経営

ここで、話者がライフシフト・ジャパン 取締役CRO & ライフシフト研究所所長の豊田義博にバトンタッチされる。豊田はその11社の取材をもとに、「ヒト・ドリブン経営」のモデルを説明する役回りである。

豊田いわく、そのモデルは、①Attitude(姿勢)、②Condition(状態)、③Concept(構想)、④Philosophy(哲学)という4階層に分かれる。「各企業のトップだけではなく、社員2名にも取材させてもらった。そのことがモデルづくりに大いに役立った」(豊田)。

第一階層は、やらされ感からではない、主体的に仕事に向かう「姿勢」を表わす。仕事が純粋に楽しい。仕事が「他人ごと」ではなく「自分ごと」になっており、本来の自分が表現でき、仕事を通じ、今後のキャリアや人生に関する新たな想いが次々に生まれてくる。

その状態をさらに詳しくみたのが、第二階層だ。個々の想いの共有が奨励され、その想いの総体として、会社の想い、つまり、ビジョンやバリューが形成されている。「経営者がかっちり定義するのではなく、社員一人ひとりが自分たちで作り上げるケースが多い」(豊田)。

仕事と人生をともにする多様な「旅の仲間」の存在も、特筆すべきことだ。それは社員に限らない。フリーランス、インターン、アルムナイ(卒業生)など、多様な仲間が参集する。管理もゆるい。働く時間、場所は各自に任され、「わがまま」と評されるような仕事のやり方が許容されている。

こうした組織のコンセプト(構想)に着目したのが第三階層だ。情報共有や公開が徹底し、場づくりがうまいこと、評価や報酬の決め方が個別化していること、「人生の主人公は自分自身だ」という自覚を生むような行動指針の存在、などが指摘される。

最後の第四階層は「会社は掲げたビジョンや個人の想いを実現する単なる箱に過ぎない」といった会社観と、「社員は会社の維持成長のための人的資源ではない。一人ひとりの個性や強みを存分に発揮し、想いを実現してほしい」という社員観で構成される。「『ヒト・ドリブン経営』は一人ひとりのライフシフトを支援すること、つまり、変身資産を豊かに発揮させる経営ともいえ、それが企業そのものの変革と成長にも大きく寄与している」(豊田)

セッション2 パネルディスカッション①フラッグシップ企業の経営者は、何を大切にしているのか?

続いてのセッション2は「フラッグシップ企業の経営者は、何を大切にしているのか?」と題したパネルディスカッションである。​​​​パネリストはいずれも経営者で、ヤッホーブルーイングの井手直行氏、ガイアックスの​上田裕司氏、エンファクトリーの加藤健太氏だ。大野がファシリテーターをつとめる。

ヤッホーブルーイングは1997年創業のクラフトビールの製造販売会社で、国内首位のシェアを持つ。個性的ネーミングの製品で知られ、顧客を「ファン」と呼ぶ。熱狂的ファンをつくりだす数々の仕掛けが評価され、一橋大学が優れた経営を行う企業に毎年授与する「ポーター賞」を2020年に受賞している。

ガイアックスは1999年に創業したIT企業で、ネット上でのソーシャルメディアサービス事業に取り組む一方、リアルな場でも人と人を結びつけるシェアリングエコノミーサービスも実施。さらに、アイデア段階のごく初期から起業を支援する「スタートアップスタジオ」という顔もあわせ持つ。

エンファクトリーも同じIT企業で創業は2011年。多様な「縁」を数多く築くことを目指して、ネット通販事業、130職種以上の専門家とユーザーをマッチングさせるマッチング事業、プロジェクト開発受託事業を展開する。創業当初から掲げている人材理念「専業禁止!!」が有名だ。

■「知的な変わり者」が尊重される

コメントのトップバッターを任されたのは井手氏。当初は普通のビール会社であり、転機となったのは業績の悪化だったという。「つくっても売れない。社員も辞めていく。いくらお客様に尽くし商品を数多く購入してもらっても、社員がついてこない。そこで一計を案じた。業績を度外視し、チームビルディングに注力した。その結果、業績は回復し、いいチームが維持され、社員も幸せを実感するようになった。今では社員は大切な家族という位置付けだ」

自社の文化を「ガッホー(頑張れヤッホー)文化」と名付ける。上下関係がゆるいフラットな組織で、「究極の顧客志向」を追求し、社員には「知的な変わり者たれ」と呼びかける。「知的な変わり者」とは「勉強を怠らず、何かひとつでも他の人に負けない強みをもった尖った人間」をいう。上意下達で、金太郎飴的な均質さが求められる従来の日本企業とは対極にある。

■人生のゴールをなぜ上司と共有するのか

ユニークさではガイアックスも負けていない。同社では社員を経営者に育てるカーブアウト(切り出し)という仕組みが機能している。「ある事業の責任者がカーブアウトして自分の事業にしたいと言い出した。認めていいか、社内では侃侃諤諤の議論になったが、最終的にOKを出した。その事業を運営する元社員の会社は上場し、大きな利益をガイアックスにもたらしてくれ、大正解だった」(上田氏)

自分の人生のゴールを明確化したうえで、上司に共有し、目標設定と振り返りを行う「マイルストーンセッション」という仕組みを四半期に一度のペースで実施する。始めたきっかけを大野が問うと、上田氏はこう答えた。「自らの人生を基軸に物事を考えることが、最大のモチベーションリソースになる。お金や機会といったリソースが不足している、われわれベンチャーでは特にそうだ」

■社員の生きる力を涵養するための「専業禁止」

エンファクトリーの加藤氏に対しては、大野が「専業禁止」の理由を聞いた。「創業時に東日本大震災があった。その前にリーマンショック、バブル崩壊があり、潰れるはずがないと思っていた大企業が次々に破綻した。自分たちもいつ命を失うかわからないから、好きなことをやるべきだ、と創業メンバーで話したことがきっかけだ。そもそも副業を会社が禁じること自体がおかしい」

現在、社員の6割が副業を経験している。「社員には生きる力を身に付けてほしい。そうした力を備え、一人ひとりが自立した人間だけが集まった会社は楽しい」(加藤氏)

続いて大野が、先に豊田が紹介した経営モデルへの感想を3人に尋ねると、「うちに合致する」「まさにうちのことを言われているようだ」という感想が異口同音に返ってきた。

■「社員に冷たい会社」を目指す

最後にコロナ禍への対応を含め、今後について各自がコメントした。

井手氏は今や当たり前になったリモートワークのレベルアップを模索する。「そのメリット、デメリットを勘案しながら、さらに上のワークスタイルを実現していきたい」。

上田氏は、人生100年時代を見すえ、思わず居付きたくなる「社員に暖かい会社」ではなく、外に出たくなる「冷たい会社」を目指すという。「ソーシャルメディアにおける各社員の影響力アップを心がける。それによって各自のネットワーク力を上げ、いつでも転職できる、いつでも独立できる状態を整備していきたい」。

加藤氏は今後の日本ではますます自分たちが足場をおくスモールビジネスが広がると考えている。「そうしたスモールビジネスの集合体を支援する活動に力を入れていく。上田さんと同じことを考えており、社員がそちらに移っていくのは大歓迎だ」

セッション3 パネルディスカッション②日本の大企業・伝統企業は、どう変わるのか?

10分間の休憩をはさみ、セッション3 がスタートする。二つ目のパネルディスカッション「日本の大企業・伝統企業は、どう変わるのか?」である。NECネッツエスアイ ビジネスデザイン戦略本部長の吉田和友氏、ニューホライズンコレクティブ合同会社代表の山口裕二氏、野澤友宏氏がパネリストを、明治大学大学院教授でライフシフト・ジャパン フェローの野田稔氏がファシリテーターをつとめた

■「いい会社」を、「強くて優しい会社」に変える

まずはNECネッツエスアイの紹介である。7800名もの社員を擁する東証一部上場の大企業。NECの電話工事部門を発祥とする通信工事会社で、デジタルと5G(高速かつ大容量の第五世代移動通信システム)を駆使した「働き方改革の実例」「豊かな街づくり」「安心安全な社会サービス」を提供している。

同社はテクノロジーの変化により、電話交換機の設置といった既存事業が頭打ちとなり、変革を迫られている。吉田氏が話す。「日本型のいい会社が、この3年で、社会情勢の変化にすばやく対応する強い会社、社員一人ひとりの人生に寄り添う優しい会社に変わりつつある。大きなきっかけとなったのは、既存事業の落ち込みと生え抜きの人材が初めてトップに立ったことだ」同社はテレワークを前提にした分散型オフィスを首都圏に7か所設置するなど、働き方改革の先頭を走る企業のひとつだ。

ここで、2020年1月より、北海道函館市で、フルリモートワークで働く女性社員と画面がつながる。結婚を期に地元函館に戻る際、同地には同社のオフィスがないため、退職を考えていたが、引き止められ、同社では異例なことに、フルリモートで働けることになった。「会社には本当に感謝している。その恩をきちんと返し、もっと貢献したい」と語った。

■人生100年時代、個人の価値を最大化する

次に、ニューホライズンコレクティブ(NHC)の概要が紹介された。同社は2021年1月に立ち上った、大手広告代理店、電通が出資する子会社で、「人生100年時代、個人が社会に対して発揮する価値を最大化する」をミッションに掲げる。そのための具体策が、個人・企業・社会の新しい関係を生み出すオープンコミュニティである「ライフシフトプラットフォーム」だ。

寿命が伸びると、「学業・仕事・老後」の3ステージのうち、「仕事」の部分が長くなる。そこにうまく対処するためには、学び直しの場や時間、新しい仕事にチャレンジする機会、実際の仕事に取り組める環境が重要となる。それを叶える装置がライフシフトプラットフォームなのだ。

ここに参加できるのは電通の社員。一旦、退職して個人事業主となり、NHCと業務委託契約を結ぶ。以後、一定の業務を受託し安定報酬を得ながら、新しい仕事や学びにチャレンジする。「早期退職と独立にまつわる3つの不安、つまり、収入の不安、仲間がいなくなる不安、仕事が獲得できないという不安が払拭できる」(野澤氏)仕組みであり、「会社が、退職者のその後まで考えるという新しい関係性の構築」(山口氏)をも意味する。電通を辞め、業務委託に移行したのは現在200名強。40歳以上という電通社内の対象者の10数パーセントにあたる。

「子会社にしなくても、電通の社内でも可能な事業ではないか」という野田氏の問いに、野澤氏がこう答える。「電通は巨大ロボットのようなもの。こうした小回りの良い仕事にはなかなか対応できない」

さらに野田氏が「電通と競合しないか」と畳みかけると、「クライアントから指名されるタレント的人材もいて、競合はあり得る。逆に電通とコラボする可能性も大いにある」(山口氏)

セッション 4の オープン・ダイアログ「人生100年時代」の新・経営論 『変身資産』が会社を変える

スタートからはや2時間以上が過ぎ、最後のプログラムとなった。セッション 4の オープン・ダイアログ「人生100年時代の新・経営論 『変身資産』が会社を変える」である。「カイシャの未来研究会2025」のメンバー6名が参加。ユニリーバ・ジャパン取締役 人事総務本部長の島田由香氏、サイボウズ執行役員 事業支援本部長の中根弓佳氏、リクルートHR統括編集長の藤井薫氏の3名に、先の野田氏、豊田、そして、ファシリテーターとして大野が加わる。

■自然体の「我がママ」でいられる会社へ

島田氏が「組織の大小問わず、誰かが本気になれば変革は可能、ということがよくわかった。各社員が『我がまま』ならぬ、飾らず自然体でいられる『我がママ』な組織はやはり素晴らしい」と口火を切れば、「同感。変革のためのヒントをたくさんもらった」と、中根氏が畳みかけた。

漢字に造詣が深く自称“漢字博士”の藤井氏は、今日のキーワードのひとつ、仲間という言葉に含まれる「間(あいだ)」に着目する。「テレワークの問題もあり、人と人との距離感、間合いの取り方がこれほど大切な時代はない。全体を通し、間延びしたり、間抜けになったり、間違いを犯したりしないよう、間をアップデートしなければならない、というメッセージを受け取った」という。

■『変身資産アセスメント』が自己認識のきっかけになる

「すべての変革の基点は人であり、人の想いにあるということを痛感した」と野田氏がいえば、豊田が「人と人をつないでいくガイアックスのプラットフォームは面白い。ほかでも応用可能ではないか」と応じた。

「問題は今日登壇していただいたような尖った人ではなく、普通の人がどうすればいいのかだ」と野田氏が問題提起する。

「普通の人という存在はいない。自分が変わりたい、組織をこう変えたいという想いは誰でも持っているはずだ」と豊田が答えると、「『変身資産アセスメント』をやってみればいい」と島田氏。中根氏も賛同し、こう続けた。「アセスメントは仲間とやるのがいい。いい意味で、自己に対する認識が塗り替えられる可能性があるし、互いが互いを知るよい機会になる」

残り時間も少なくなり、野田氏のよびかけで、NECネッツエスアイの吉田氏、ニューホライズンコレクティブの山口氏、野澤氏も議論に加わる。

先のライフシフトプラットフォームは社団法人化などの話も検討されているようだ。「最大2万人の個人事業主の受け皿になればと。そのことで、日本でも定年のない世界が大きく開ける」(山口氏)。

大野が口を開く。「それは面白い。将来的に120歳まで人間の寿命が伸びるかもしれないことを考えると、今春、施行された「70 歳就業法」なども根本的な解決にはつながらない。定年後に50年もの人生が待っているのだから、その先の不安のほうが大きい。そういう意味でも定年などに縛られず、誰もが自分らしく人生を設計できる社会にしていきたい」

■変わるなら、身体ごと、そして仲間と一緒に

そのライフシフトプラットフォームにNECネッツエスアイの吉田氏が「わが社の5年後、10年後を見据えた動きとして、非常に魅力的だ。ぜひ別途、詳しいお話を伺いたい」と話すと、「われわれはいわば文系脳。最後は必ずDX(デジタルトランスフォーメーション)が必要になるので、ぜひ協働させていただきたい」とニューホライズンコレクティブの山口氏が応じた。

漢字博士の藤井氏が最後に着眼したのは、変身資産の中にある「身」という漢字。「『考える』の原義は『か身交ふ=カムカウ』。頭ではなく、身体ごと交(まじ)わうのが、考えること。頭でっかち、そして一人きりは駄目なのだ。会社の変革も、自身の変身も誰かと一緒に、身体ごと取り組むべきだ」

最後は野田氏が締めた。「今日登壇してくれた人たち、そしてこのセミナーを視聴いただいている人たちは、同じ問題意識をもち、同じ方向を向いていることが確認できた。これが今日の最大の成果だったのではないか。一方で、われわれは日本のなかで、まだ少数派ではないかという気もしている。私の今後の役割は、逆方向を向いている人や、どっちを向けばいいのかわからない人たちに対して、宣教師のように、伝道していくことだ」。

(取材・文/荻野進介)