55歳の教科書-坂の上の坂を生き抜くために 』(ちくま文庫)が発売されたばかりの藤原和博さんと、ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO大野誠一の対談形式でお届けするオンラインセミナー「『60歳からの未来』を旅する6日間」。9月9日(木)午後9時からDAY3「Death & Money」が開催されました。以下、その概要をレポートします。DAY4「希少性への旅路」は10 月10 日(木)午前10時開催です。詳細・お申し込みはこちら(Peatix)をご覧ください。

■老後資金はいくら必要か。マネジメントする勘所6つを初公開!

佐藤(司会):みなさん、こんばんは。藤原和博さんが校長を務める「朝礼だけの学校」副校長の佐藤譲です。「『60歳からの未来』を旅する6日間」の3日目、本日のテーマは「Death & Money」です。注目のテーマということでお申し込みも多く、少しだけ増枠してお届けします。藤原さん、大野さん、よろしくお願いします。

藤原 本日は「死とお金」という鮮烈なタイトルですが、まずは気になるお金の問題からいきましょう。金融庁が2年前に「年金だけでは老後資金は2000万円足りない」という試算を発表して大問題になりました。しかしこれは意外と正確な数字です。僕が約25年前に出した書籍『処世術』(新潮社)のなかでもかなり詳しく試算していますが、やはり1800万円~2000万円足りません。

ではどうするか。現役時代に貯金をしてそれを取り崩すしかないのか。最初に僕のほうから本当にいくら必要で、その収支をマネジメントする「勘所」はどこにあるのかをプレゼンテーションします。これはいままで話したことがなかった、本邦初公開の情報です!

(1)まずこの議論をすすめるうえで自分のポジショニングをはっきりさせる必要があります。今日は夫婦もしくはパートナーがいる人をモデルに話します。当然ながら独居か、孫もいる大家族かなど家族構成によって必要なお金が異なります。またこうした家族構成や、経済的にRICHかPOORかという話と、幸福観は違った軸になることも前提となります。

(2)その前提にたち、支出を明確にします。これはみなさん自身がきちんと計算すべきですが、モデルケースを示しましょう。住宅ローンと子どもの教育は終わっているとして、それでも住居費は月5万円(修繕費・水道光熱費)かかります。加えて生活費が20万円(1日1000円として食費6万円、娯楽費4万円、通信交通費3万円、医療費2万円、税金3万円、その他2万円)かかるので、合計月25万円のお金が必要ということになります。

(3) 次は収入です。社会保障給付(年金)はいくらあるのか。非常に単純化して整理すると、会社員(厚生年金)と専業主婦(夫)といういま最も一般的な世帯の場合、月20万円前後です。となると月5万円(年60万円)の赤字ですので、生涯あと30年とすると1800万円の赤字となるわけです。金融庁の試算とほぼ合致しますね。

(4)では収支のマネジメントをどうするか。その勘所を6つ紹介しましょう。

①まず損益分岐点を下げて赤字をできるだけ小さくする。例えば夫婦でゲームのように生活費の切り詰めを考えてみる、維持費のかかる別荘や車を手放すなどです。

②60歳までに収入を生み出す資産をつくる。不動産の賃貸収入や株式配当などです。

③予期せぬ出費をあらかじめ想定しておく。例えば家族の病気、事故、本人の介護。僕の場合、民間の介護保険に入っています。それから親の介護や負の相続。そして自然災害の多い日本では家の損壊への備え。在宅介護のための改装費用もありえます。

④ここまでは守りの話でしたが、ここからは攻めの話です。まず子どもの教育費はなくなっても、自分自身の教育費は確保しておく。習い事、学び直し、大学院など生涯学習費は予算化しておきたいところです。

⑤余裕があれば外注費(委託費)は増やす。腰を痛めたりしないように家事代行を頼む、IT系の若手にネットショップの開業を委託するなどです。自分がエキスパートの分野でコミュニティづくりをするのもいい。例えば僕は「朝礼だけの学校」をやっていますが、オンラインであれば弟子を育てる寺子屋なども低コストでできる。こういった前向きな費用は見込んでおきたい。

⑥最後はリバースモゲージの活用です。家を売って現金を得つつ生きている間は住み続けることができるリバースモゲージは一つの選択肢として活用できます。

以上が僕からのプレゼンテーションです。続いて大野さんから「老後資金が足りないなら現役時代を伸ばせばいいんじゃないか」という視点からの話をしてもらうことにしましょう。

■働き続けることでリスクを減らす。主流は「新しい自営業」

大野 いまの藤原さんのプレゼンテーションで「月5万円、30年間で1800万円の赤字」という現実が理解できたと思います。だったら定年以降も月5万円程度を10年、20年と稼ぎ続けることで、リスクを減らせるんじゃないかというのが、ここからの話です。「Live Longer、Work Longer」(長く生き、長く働く)というのは、世界的なキーワード。書籍『ライフシフト』の中でも、リンダ・グラットンは「80歳代まで働く時代が来る」と語っています。

日本においても今年の4月1日に、いわゆる「70歳就業法」(改正高年齢者雇用安定法)が施行になって、企業には70歳までの就業を支援することが努力義務化されました。この法律の注目すべき点は、これまでの雇用延長という方法だけではなく、業務委託とかNPO活動といった「雇われる以外の働き方」も支援の対象となっている点です。60歳からの働き方として、従来は雇用延長が主流だったわけですが、せいぜい65歳まで。その先も長く続く人生を考えれば、「雇われない働き方」が主流となるはずで、今回の法改正はそのきっかけになるかもしれません。

「雇われない働き方」といってもいろいろあります。これまでもフランチャイズに加盟する、自分の店を持つ、ベンチャーを起業するといった働き方を選択する人はいましたが、初期投資やリスクの面から多数派とはなりえなかった。しかし個人事業主、フリーランス、ひとり起業といった、小さな自営業であれば初期投資もリスクも小さくてすみます。「60歳からの未来」の働き方は、こういった「新しい自営業」が主流になっていくのではないかと思います。

ライフシフト・ジャパンが出版した『実践!50歳からのライフシフト術』(NHK出版)の中でも、例えばこんな方々を紹介しています。

・会社員時代に様々な職種を経験した中で、人事の仕事に一番やりがいを感じていたことに気づき、60歳から資格を取得してキャリア・コンサルタントとして働き始めた方
・自宅の余った部屋を活かして、定年後に夫婦で民泊を始めた方
・50歳から美容師資格を通信教育で学び始め、定年後に介護美容サービスを始めた方
・犬好きを活かして犬の散歩サービスを事業化した方

こうした小さな自営業で長く働いているロールモデルに学ぶ、大切なポイントをまとめます。

①働くことイコール雇われることではありません。「雇われる働き方」のその先を考えることが大事です。

②これまでの経験・キャリアをコンテンツ化すること。社内では自身の経験の希少性に気づかないものですが、一歩外に出てみれば意外とニッチな専門性を持っているものです。自身の経験を客観的に振り返り言語化しておけば、それを発信してチャンスをつかむことができます。

③いやいやでは長く続きません。好きなこと、得意なことにフォーカスすることが大切。

④自分自身のDX化も欠かせません。民泊を始めた方もAirbnbと翻訳アプリをフル活用していました。これからの自営業にデジタル対応力は必要不可欠。SNSでのプロモーションも欠かせません。ためらわずにチャレンジすべきでしょう。

⑤そして「60歳からの未来」は、稼ぐことだけが目的ではないはず。これからの人生で自分は何を大切にしたいのか、その価値軸をしっかり考えることが大切です。

以上を意識していけば、70歳どころか、80歳、90歳、100歳でも収入を得続けることができる時代がやって来ると思います。

■60歳から、自分は何の屋台を引くのかを考えてみる

藤原 60歳からの未来の働き方は「新しい自営業」が主流になるという話、いいですね。数億円のお金を集めて起業するのとも違う、昔ながらの自営業とも違う、もっと個人的な新しいタイプのニッチな自営業が続々と生まれていく、それがDXでネットワークされていく、そんな未来像です。実はヨーロッパでは、自分で自分を雇う、セルフ・エンプロイドというのは一般的。日本も成長社会から成熟社会へと移行する中で、みんな一緒に会社に雇われる時代から、ひとりひとりが自分を雇う時代へと、移行していくのだと思います。

では自分はどんな自営業を目指すのか。僕は『自分は60歳からどんな屋台をひくのか』と考えてみるといいと思います。屋台というと、ラーメン屋とか、焼き鳥屋といったイメージがあるかもしれません。それもOKです。実際に特定の駅前でメロンパンを売って大成功している人もいます。ただ形あるものを売るだけが、ここでいう屋台ではない。犬の散歩も、介護美容サービスも、自分が好きなことで、自分だけの屋台をひいて、自分を売りこんでニーズをつかんだわけです。それが発展して、「犬の散歩だけの学校」「高齢者の髪をカットするだけの学校」とか、「なんとかだけの学校」がどんどん増えて、みんなが先生になっていく。そんな社会をイメージしてみるといい。

大野 みんなが先生になるというのは、いい目標ですよね。そのためにはテーマを小さく絞り込んでいくことが重要。ぐぐっと思い切り狭い所に行けば先生になれると思います。

藤原 そうそう。犬の学校はいっぱいある。でも「レトリバーに餌をやるだけの学校」はない。そういうことですね。

■「死」を強く意識することで、「生」が輝く

藤原 さて、最後に「死」の話をしましょう。「メメントモリ」という言葉があるように、死を強く意識することで、生が輝くというのは古くから言われていることです。僕が提唱している「よのなか科」には2つの授業があります。ひとつは人生のエネルギーカーブを描くというもの。ワークシートの左端に「生」と書き、右端に「死」と書く。そしてその間をこれまでどんなカーブで生きてきたか、この先どんなカーブで生きたいかを描くんです。そうすることで自分の死を強く意識できるようになります。詳しくは「目覚まし朝礼」の第10週(69回~73回)を見てください。

もうひとつが、「もしあなたの寿命が120歳、130歳と延びたら何をしたいですか?」「逆に余命3年と言われたら何をしますか?」という質問に答える思考実験です。そして「もし余命が3か月だったらやりたいこと」をリスト化して、本当にそこまで大事ならなぜ今やらないのか?と問いかけていく。こうすることで、今ここに生きるということにビビットになり、今に真摯に向き合えるようになると思うんです。大野さんは「死」についてはどう思いますか?

大野 僕はまだまだ達観できていませんが、ライフシフト・ジャパンがやっているワークショップの目的は決して長く生きることではありません。まさに今ここを生きるために、ライフシフトの視点を持つことが目的です。僕自身も今ここを生きることにもっと集中していきたいと思っています。

藤原 ありがとうございました。さて今日も「ニッチな分野を見つけていくことが大切」という話が出ましたが、次回はまさにユニークネスの追及がテーマです。「希少性への旅路」、10月10日(日)午前10時~になります。ぜひご参加ください。

*当日の録画はこちらからご覧いただけます。