『坂の上の坂 55歳までにやっておきたい55のこと』の著書もある藤原和博さんと、ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO大野誠一の対談形式でお届けするオンラインセミナー「『60歳からの未来』を旅する6日間」。8月8日(日)午後8時からDAY2「『現役』の未来像」が開催されました。以下、その概要をレポートします。なおDAY3「Death & Money」は9月9日(木)午後9時開催です。詳細・お申し込みはこちら(Peatix)をご覧ください。

■現役であり続けるには、「希少性」を高めることが大事

佐藤(司会):みなさん、こんばんは。藤原和博さんが校長を務める「朝礼だけの学校」副校長の佐藤譲です。「『60歳からの未来』を旅する6日間」の2日目、本日のテーマは「『現役』の未来像」です。「生涯現役」という言葉がありますが、今の時代の「現役」とはどういうものなのか、藤原和博さんとライフシフト・ジャパン代表、大野誠一さんとの対談形式でお届けします。

藤原:こんばんは。東京オリンピック閉会式の裏番組にようこそ(笑)。今日のテーマは、どうやったら人生の賞味期限を延ばすことができるのかですが、キーワードは「希少性」です。まずこちらの図をご覧ください。

日本人の時給の幅を示したものですが、800円から80,000円まで、100倍の差がある。これはなぜか。どうしたら左から右に行けるのか。その答えが「希少性」です。左側はマニュアルワーク。誰でもできる。右に行けば行くほど「あなただから頼みたい」というかけがいのなさがあがってくる。自分の価値、希少性が高まれば、賞味期限を延ばすことにつながるのです。

ではどうしたら希少性を高めることができるのか。2つの方法があります。ひとつは需要の増える分野でまだ供給の少ない仕事をしていくこと。もうひとつは、需要は一定でも自分しかやっていない仕事をしていくこと。例えば1つだけのキャリアやスキルでは難しいですが、自分ならではのキャリアやスキルを3つ掛け合わせればそれは可能になってきます。

ちなみにこれからやって来るロボット/AI社会はどこの仕事を奪っていくと思いますか? 真ん中のサラリーマン・公務員・教員の部分、ホワイトカラーの事務業務から奪っていきます。左側は人間がやったほうが安くできるからです。ですからホワイトカラーの人ほど、できるだけ右に行くことが大事です。

■自分の心の中にある「年齢バイアス」を乗り越える

大野:藤原さんの話を聞いて、若いころから希少性を目指して、3つ4つの軸足を作ってきた人はいいけれど、60歳からでもそれができるのか?と思った人もいるかもしれません。そこで、ライフシフト・ジャパンで3年目に出版した書籍『実践!50歳からのライフシフト術』(NHK出版)に登場いただいた事例をご紹介します。

この本では50歳前後まで普通の会社員だった22人が、どうやって「生涯現役」の人生へとシフトしていったかを紹介していますが、例えば大手商社を退職して60歳からNPOを立ち上げて77歳のいまもアジアで学校建設を続けている谷川洋さん、定年退職後のゴルフ・旅行三昧の生活に飽きて69歳で地域活性に取り組むNPOを立ち上げた塙茂さん、大手都市銀行を退職した60歳からパソコンを学び、82歳でシニア向けゲームアプリを開発して世界的にも有名になった若宮正子さん。いずれも、60歳から自分の希少性を高めるチャレンジをしています。

「今さらこの年齢では…」と思ってしまうのは、「年齢バイアス」。ライフシフト・ジャパンが体系化した「変化を止めてしまう心のブレーキ」のひとつです。まずはいくつになっても自分の賞味期限を伸ばすことはできるということをお伝えしたいですね。

■組織はあなたのことを記憶しない

藤原:そうですね。ただ定年後に新しいチャレンジをしている人の話を聞いていると、突然はじめたように見えるけれど、僕はそうじゃないと思うんです。会社員時代から本業以外のいろいろなコミュニティにちょっと足を突っ込んでいて、小さなきっかけが育っていたんじゃないかと。Day1で「八ヶ岳連峰型人生」(リンク)の話をしましたが、現役でい続けるうえでは本線とは別に、いろいろな支線、つまりコミュニティに属していることがとても大事です。

なぜコミュニティが大事なのか。その本質を2つ紹介します。1つは、コミュニティは「脳をつなげる装置」だということ。会社の中だけでコミュニケーションをしていると、脳の回路がパターン化して固くなってしまう。脳の回路をいろいろなコミュニティにつなげておけば、柔らか頭でいられるのです。2つめは、会社や役所などの組織はあなたの人生を記憶しないということ。組織は機能なので組み替えが可能。あなたがいなくなれば、別な人が取って代わるだけです。ではあなたの人生を記憶するのはどこか。それが家族を含めたコミュニティなのです。

大野:コミュニティの重要性はまさにその通りですね。先ほど紹介した方たちも、60歳以降のチャレンジを助けてくれたのは、会社員時代のコミュニティではなく、まったく別なコミュニティに属する人たちでした。これは多くのライフシフターに共通すること。ですから、どんどん新しいコミュニティをつくっていくことがチャンスにつながっていくと思います。あるいは懐かしいコミュニティに再度つながってみるのもよい。いずれにしても今いる居心地のいいコミュニティにズボッとはまっていては新しい一歩を踏み出すきっかけがつかめないと思います。

■興味のあることを「とにかくやってみる」

藤原:僕自身も「教育改革実践家」としての本業をしながら、40代半ばから興味のあったデザインワークに関するコミュニティに属しはじめ、時計やリュック、校舎建築などにかかわっています。50代からはテニスや、東日本大震災をきっかけとした雄勝町の支援、そしてラオスの学校建築支援と、興味と縁のあったコミュニティで足場を作っています。本業をやりながら新たなコミュニティで自分の足場を作るには5~10年はかかる。60歳になったときに本業とは別に、上に2本、下に3本ぐらい別なコミュニティが走っていると、「現役の未来」につながっていくのではないでしょうか。

まずは自分の興味に応じて、何かをやってみる。一歩踏み出してみることが大事。これをやったらうまくいくかなどと計算はしないほうがいい。無謀さが重要。一生懸命やっていると、必ず助けてくれる人が現れます。

大野:そうですね。先ほど紹介した若宮正子さんの座右の銘も「とにかくやってみる」。成功するのが見えてから始めようなんて考えたら、いつまでたっても始められません。人生が長くなっている今、60歳過ぎても「とにかくやってみる」という意識を持つこと。これが現役でい続ける第一歩かなと思います。

藤原:「朝礼だけの学校」に参加してくれている方の中にも50代、60代で新しいチャレンジをしている人がたくさんいます。こういう人は話題も豊富で、何かにつけて会いたくなる、「懐かしい人」です。こういう「懐かしい人」になれれば、お声もかかり、現役でいられるのではないかと思います。自慢話オヤジ、昔話オヤジにならす、「懐かしい人」を目指しましょう。

佐藤 藤原さん、大野さん、ありがとうございました。「組織はあなたを記憶しない」という言葉、心臓の鼓動が早くなりました。さて、次回は9月9日(木)午後9時から、「Death & Money」です。「60歳からの未来」には避けては通れないテーマです。ご参加、お待ちしています。