6月26 日(金)20時~、LIFE SHIFT LIVE『自分と向き合うジョブレス時代の過ごし方』を開催しました。ゲストは、「ほぼ日」取締役CFOを辞し、1年3か月の『ジョブレス時代』を経て、2020年3月よりオンライン 1on 1 を提供する「エール」取締役に就任した篠田真貴子さん(インタビュー記事はこちら)。当日は、約40人の参加者から事前に寄せられた幅広い質問に、ご自身の経験を踏まえて丁寧にお答えいただきました。その飾らない確かな言葉から、参加者は多くことを学ばれたようです。以下、その概要をレポートします。

1.オープニングトーク(20:00~20:10)/人生100年時代を楽しむ『ライフシフトの法則』最初に、大野誠一(ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO)が100人以上のライフシフターインタビューから明らかになった、人生100年時代を楽しむ『ライフシフトの4つの法則』を紹介しました。

2.ゲストトーク(20:10~21:00)/自分と向き合う『ジョブレス時代』の過ごし方続いて、ご近所に咲いた紫陽花の花をバックに篠田真貴子さんが登場。大野が聞き手となって、参加者から事前にいただいた質問にお答えいただく形で進行しました(以下、敬称略)。

◎『ジョブレス』の価値とは?

大野 今日のテーマは『ジョブレス時代の過ごし方』ですが、まず多かった質問が「ジョブレス時代に不安はなかったですか?」というものでした。

篠田 不安はありました。でも幸運にも1週間で払拭されたんです。たまたまなんですが、前職時代から登壇することが決まっていたカンファレンスが、退職して1週間後にありまして、そこで初めて会社名のない「篠田真貴子」として人前に出たわけです。そしてそれがつつがなく終わって、「あ、会社名がなくてもこうやって世の中とつながっていけるんだな、素の私でも社会に居場所があるんだな」という感覚を得たんですね。それが心の安定につながっていきました。

大野 なるほど。そして1年3か月の『ジョブレス時代』を経験されたわけですが、篠田さんにとってどんな価値がありましたか?

篠田 それまでは常に組織に属していて、やれと言われる仕事がある状態だったのですが、それが全くない状態になった。そうすると、誰にも頼まれてもいないのに自然に興味がわいてしまう方向があったり、私に頼む義理もないのにわざわざ何か頼みたいと言ってくださる方々がいたりして、それを客観的に眺めたときに、自分はこのあたりの領域に興味があるんだなとか、最低限の需要があるのはこのあたりかなということに気づいていきました。1年3か月は、自分の棚卸しをするのに必要な時間だったのだと思います。

大野 では『ジョブレス』ビフォー&アフターでいうと、どんな変化がありましたか?

篠田 以前よりはちょっと、メタに自分を見れるようになりました。社会にはいろんな人がいて、その中のひとりとして自分がいるという感覚です。それまで自分と所属組織が中心にあったのですが、社会の中で自分の身をどこにおいたらいいのかという視点を得られるようになりました。過去の自分の職歴、看板と距離が置けたのもよかったです。周りの方からも元〇〇だからとか、前の知見をそのまま活かして、といった期待をされなくなって、「篠田真貴子」として評価されるようになりました。

大野 「ジョブレス」は、自分を探究できる時間といえそうですね。書籍『ライフシフト』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット)の中でも、40代~50代の中年期に「エクスプローラー期(自分を探究する時期)」を経験することの大切さが書かれています。とはいえ経済的なことや、その後の転職に不利になるのではないかと不安に思う人もいます。

篠田 あまりに不安になってしまうと客観的に自分を見れなくなってしまうので、時期は選ぶのかもしれません。経済的な条件、ご家族の状況にもよりますね。それとブランクはその後の転職に不利になるのではないかとの心配ですが、私ももともとはそういう感覚を持っていました。これはご自身がキャリアのどのあたりにいるのか、ということにもよるのかもしれません。私の場合は、特にネガティブな状況は生まれませんでした。時代もあるかな。SNSで交流もできるので、インプットがないといった不安もなかったですし、もし仮に次の仕事を得る際に私の「ジョブレス時代」に疑問を呈する方がいても、私のキャリア上、「ジョブレス」がいかに意味があったかを自信をもって言えたと思います。

◎「人生が私に求めていること」を知る方法

大野 続いてジョブレスのその先に、どうやって自分の方向性を見つけていくのかというお話に移ります。篠田さんはどんな着眼点でそれを見つけていったのでしょうか。

篠田 2点あって、1点目はみなさん当然よくおわかりだと思いますが、仕事の評価は他者が決めます。自分がどうしたいかは続けていく上での動機付けにはなりますが、需要がないところに仕事はない。自問自答しすぎるとそれがずれていくので、私は「呼ばれたところに行く」が大原則だと思います。そのうえで、私は『あなたの人生の意味』(デイビット・ブルックス)という本で、私たちの人生には常に「自分はどういう人生を生きたいか」という問いと、「人生は私に何を求めているのか」という相反する2つの問いがあることを学びました。前者は成功が大切で追及していくと功利的になっていきますが、後者はむしろ成功だけでは危険だという考え方で、失敗しても自分を深く理解して人間として成熟していくことが大切です。この本を通じて、他者が、あるいは世の中が、あるいは人生が私に投げかけてくる難しい課題、機会をちゃんと受け止めることに意味があると考えるようになりました。

大野 具体的に、人生は篠田さんに何を求めているのか、その答えにどうやって気づいたのでしょうか。

篠田 私の場合は本当にラッキーで、『ジョブレス時代』にもカンファレンスで話す機会や、文章を書く機会をいただきました。基本『ジョブレス』ですから収入は関係なく、自分が本当に面白いと思うものを選ばせていただいたんですね。そうすると、「人と組織の関係」とか、「人生の中で働く意味を問う」といったテーマにお声がけいただくことが多く、喜んで出かけていく自分がいたわけです。「ああ、自然体の自分で何か価値が生めるのはこのあたりかな」と思うようになり、その文脈で「エール」との出会いがありました。

大野 今後の方向性として「今までの経験と新しいチャレンジのバランスをどう考えるか迷っています」という質問もいただいています。

篠田 前職の経験を使わずに新しい場所で価値を発揮することはあり得ないわけですが、自分の経験だと思っているものが、実は会社のネームであったり、イメージであったりすることには注意が必要だと思います。私もはじめは峻別ができていませんでしたが、「元ほぼ日だから」、「昔マッキンゼーにいたから」ということと、これができるというのは全く違います。本当の意味での自分の血肉になっている経験を峻別する必要があると思います。

◎人と比べず、自分を受け入れる

大野 「篠田さんは誰かと比べて苦しくなることはないですか?」という質問もいただいています。

篠田 45歳ぐらいまではすごく苦しかったです。私は30代後半で、業績があがらずいわば退職勧告的な状況で逃げるようにマッキンゼーを辞めています。かなり傷ついたし、落ち込んだ。それから10年ぐらい、自分はダメなんだという意識から脱却できなかったんですね。だから周囲で活躍している人を見ては、どうして自分にはそういうチャンスがこないんだと腹立たしく思っている自分がいました。男性の友人とも比べていて、「あなたたちは子どもがいても100%仕事に没頭して成果を上げられるけど、自分は乳幼児をかかえて時間的にも精神的もコミットできない。このハンデはなんなの?」という気持ちがありました。

大野 そこから抜け出せたのはなぜだったのでしょうか。

篠田 「ほぼ日」に出会ったことですね。それまでの私は、いわゆる世の中的に素晴らしいとされる学歴を修め、素晴らしいとされる会社をいくつか経験して、今思えば、「世の中的によいとされるカード」を集めていたような人生でした。その中のどうでもよい微細な差にとらわれていたんです。でも「ほぼ日」というこれまでの物差しでは測りようのない場所で働く機会を得たことで、結果的にそこから抜け出せた。そこでしか経験できない仕事、見えない景色があって、これは面白いと思ったんです。「申し訳ないけど、立派な大企業で味わえない。ざまあみろ。私しかこの問題を解いている人はいない」という感覚を得たのが大きかったですね。

大野 なるほど。でもインタビューを読んで、マッキンゼーでの挫折経験を話せちゃうのがすごいなと思いました。何かきっかけはあったのでしょうか。

篠田 1つは2013年初めに、自分のキャリアのことをはじめてWEBメディアに取材いただいたのですが、インタビュアーが伊賀泰代さんというマッキンゼーで採用マネジャーをされていた方だったのです。もう隠しようがなかったし、「自分はこういうところが足りなかったと思う」と素直に話せたんですね。それがすごくよかった。2つめがその数年後に女性向けのカンファレンスに登壇する機会があり、「失敗談を話す」というテーマだったので、自分なりに振り返って考えることができました。そしてそれが記事になったときに私の期待をはるかに越えた反響があって、そういう自分をみなさんが「それで大丈夫だから」と言ってくださったんだという感覚がありました。

◎これからの人と組織とは?

大野 篠田さんはこれまで組織と格闘してこられたわけですが、ジョブレス後に特定の組織に属さずにフリーランスで働くという選択はなかったのでしょうか。

篠田 フリーランスは考えなかったですね。組織は面白いし、悩ましい。良い組織になっていくというようなことに意欲や興味があるんです。組織の中に入って「くんずほぐれつ」をいつまでもやるのはしんどいし、アドバイザーや社外取締役のような立場で外部からサポートしていく方法もありますが、いま51歳、もう一回組織の中に入ってできるな、と。フリーランスで自分のワークロードを調整するのは、もうちょっと先でもいいし、もうちょっと力がないと自分にはまだ無理かなとも思いました。

大野 「ALLIANCE~人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用」を監訳されたのも、組織に興味があったからですか?

篠田 あの本を読んだときに、「これ、私のことじゃん」という感覚があったんです。それまで歩んできた道のりが、組織の中にどっぷりではなく、1/3ぐらいはみ出していたので。個人と企業の関係が、雇用か非雇用か、大企業かベンチャーか、といった極端な二択ではなく、いろんな関係がありえることを世の中が認知してくれると、私が楽だなと。

大野 今回のコロナ禍の中で組織と人の関係も変わりそうな気配ですね。今の時点で感じていることはありますか?

篠田 組織と自分の距離感の見直しというのは確実に起こっていますよね。先日の内閣府の意識調査でも、過半数の方が今回のコロナ自粛で「家族と過ごす時間が増え、今後も保ちたい」と答えています。これまでの働き方改革は、会社に長くいないでくださいというものでしたが、他にしたいことはない、家も居心地が悪い、飲みに行くのもお金かかるということで、居場所がなかった。けれども今回、いい意味で家族を再発見したのであれば、「家族と過ごしたいから帰ろう」「家の居心地がよいから在宅で働こう」という動機ができたので、新しい時代に向けてのとても良い出発点になるのではと思います。

大野 そうですね。ありがとうございました。

 

3.懇親会(21:05~22:00)

後半は、少人数に分かれての懇親会です。Zoomのブレイクアウト機能を使って1グループ4~5人に分かれ、参加動機やゲストトークで印象に残ったことをシェアしあうとともに、順番に篠田さんに各グループを訪問いただき、直接の質疑応答を行いました。最後の10分間は、もう一度、参加者全員がメインルームに戻って、グループごとにトピックを報告。最後に篠田さんの「たくさん質問していただいて、それに答えようとする中で、自分の考えが整理されました。一番得したのは私自身かな。ありがとうございました」という言葉で、閉会となりました。篠田さん、参加いただいた皆様、ありがとうございました。

 

<参考情報>

『あなたの人生の意味』(デイヴィッド・ブルックス)

篠田さんが「人生が私に何を求めているのか」という問いに出会った本

『こころの対話25のルール』(伊藤守)

篠田さんが「聞く」ということに着目し「エール」を選んだ原点。

『英語を活かせる国際的な仕事?40代で天職に巡り合うまで』

篠田さんが挫折経験をはじめて語った伊賀泰代さんによるインタビュー記事

 

<参加者アンケートより>

以下、ご参加くださった皆様からのコメントを抜粋してご紹介します。ご回答、ありがとうございました。

・篠田さんの話される言葉が、ご自身の経験と様々な本から学ばれた言葉であり、すごく丁寧で、一言一言が本当にしみました。特にジョブレスだからこそメタ的に自分を見つめ、居場所を感じることができたという言葉が一番しみました。

・これからの自分の人生を豊かにするヒントが凝縮した1時間のトークタイムには、気づきがいっぱい。その後の懇親会もオンラインならではの多種多様な人の価値観や、視点に触れることができました。とても濃い内容です。

・篠田さんのお人柄、ご縁や機会を引き寄せる力がどうやって生まれているのかをよく感じることができました。篠田さんはお話の中で感謝と運に恵まれていることを繰り返しおっしゃっていて、こういう方だからこそ、いろんな機会が次々に訪れるのだろうな、ということも大きな学びでした。心からありがとうございました。

・篠田さんのジョブレス期間は、ジョブレスという言葉で括るのは、実は違うのではと感じてます。内省、自己統合?のような、シフトチェンジする際に必要なステップであり、仕事の有無とはあまり関係ないかも、と思いました。

・ライフシフトには、やはり人脈が大切と思いました。日頃からいろいろな方とのつながりを大切にして、そこからヒントが得られると思いました。仕事は、人に必要とされてなんぼと言う言葉が印象的でした。知識の習得より、人間関係を築くのも、大切なのですね。今から間に合うかなぁ〜?!

・順調なキャリアを歩んで来た方が挫折を機にどの様に思考を切り替えて、それすらも味方に付けてライフシフトして行ったのか、そのプロセスが特に勉強になりました。受講してから、人生は自分に何を求めているのか?そんなことを自問自答しております。

・「他人と自分を比べることはあったか?」という質問に対しての篠田さんの一連の答えのなかで出てきた「(ほぼ日に関わったことで)これは自分しか解いていない問題なんだ!」と吹っ切れたというエピソードがとても印象的でした。

・「本当の意味での血肉になった経験の峻別」が自分にとって必要だと感じました。

・やりたい仕事がいくつかあり、転職を考えていつつも、子どもたちの学費など経済的理由で躊躇していました。ジョブレスは無理にしても今後のキャリアを考え直すとてもいいきっかけを頂きました。

・①仕事の評価は他人がする②自分はどういう人生を歩んで行くのか③人生は何を自分に期待しているのかというお話が一番印象に残っています。

・ジョブレスの状態を自分で選んだかどうか、その中にある自分自身をどう捉えているか、これは次のステージを左右してくると実感。

・篠田さんが、ご自身の経験を包み隠さずお話ししてくださり、参加者の質問に真摯に答えてくださったこと

・過去の経験値に頼らず、「世の中の自分の需要を、客観的に棚おろしする」という視点で、次に向かう方向を定めるというお話が、とても興味深かったです。

・私は、どうもインタビュアー気質で、自分から興味のあることを、どんどん相手に質問を投げかけることで、(求める)答えを探してしまいます。がもっと、人から「聞かれること」を大事にしていけば、何か新しい「自分の有効活用」ができるのではないか?と思いました。