ライフシフト・ジャパン代表・大野誠一が毎回、各界のオピニオンリーダーを迎えて、withコロナ時代の新しい生き方・働き方を語り合うオンラインイベント「LIFE SHIFT DIALOGUE~未来への対話」。第1回はゲストにフリーランス協会・代表理事の平田麻莉さんをお招きし、『副業・パラレルワーク・フリーランスの未来』について語りつくしました。その充実の内容をダイジェストでレポートします(2020年11月13日開催)

ゲスト:平田麻莉さん(フリーランス協会・代表理事)/PR会社ビルコム、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。現在はフリーランスで広報コンサルティングや出版プロデュースを行う。2017年1月にプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会設立。 ホスト:大野誠一(ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO)/株式会社リクルートにて「ガテン」「とらばーゆ」「アントレ」等の編集長を歴任後、パナソニックに転身。ローソンHMVエンタテイメントを経て、2017年10月にファザーリングジャパン安藤哲也とともにライフシフト・ジャパンを起業。日本発のライフシフト社会の創造に取り組む。共著「実践!50歳からのライフシフト術」(NHK出版)がある。

 

コロナの影響は大きかったが、注目も高まった副業・フリーランス

大野 2020年はCOVID-19の感染拡大によって日本人の働き方、生き方が大きく変わる区切りの年になりました。フリーランスを取り巻く環境も5年、10年前倒しになったと言われています。どんな変化があったのか、そしてフリーランスの未来はどうなっていくのか。本日は平田さんにじっくり伺います。まずはフリーランス協会のご紹介からお願いします。

平田さん(以下敬称略)正式名称はプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会で、「誰もが自律的なキャリアを築ける世の中へ」というビジョンを掲げて、会社員の方も含めてキャリア自律を実現していくための選択肢を増やしていく活動をしています。具体的には①環境整備のための政策実現②自律的な働き方への理解を促す啓発活動③活躍の場(マーケット)の創造の3つが柱です。現在の会員は約4万3千人。日本最大規模のフリーランス・ネットワークになっています。

大野 ありがとうございます。では2020年を振り返って、どんなことが起きたと感じていますか?

平田 4月の緊急事態宣言から、フリーランスは突然仕事がなくなるといった大きな影響がありました。私たちの調査でも9割の方が「影響があった」と回答しています。保障がある会社員に比べて厳しい面が露わになったわけですが、一方でこんなに大変だったにもかかわらず、今後もフリーランスを続けたい人が約9割でした。その理由は①働く場所や時間が自由だから②自分の技能を発揮できるから③頑張り次第で収入を増やせるというもの。会社員の人たちもテレワークで時間ができ、残業代がなくなったりしたこともあって副業やフリーランス、起業への関心が高まった1年でした。

フリーランスは再現性をもって成果を出すことが必須

大野 ではフリーランスや副業という選択肢を考え始めた会社員が意識すべき基本的な注意事項はどんなことになりますか?

平田 フリーランスは再現性をもって結果を出すことが必須条件になります。会社員はプロセスで評価される場合もありますが、フリーランスはプロとして仕事を請け負うため、成果があがらないと収入が得られないわけです。また大きな会社で成果をあげていたとしても、それが自分の力ではなく、会社の名前や商品力のおかげであれば再現性がありません。ですから会社員時代に自分の専門性は何かを認識し、それを人に伝えられるようにしておくこと、できれば副業をやってみて、自分の力での再現性を確認しておくことがよい準備になると思います。

大野 そういったプロとしての専門性に加えて、他にも必要な要素はありますか?

平田 よく言われるのは、何があってもとりあえず形にすることですね。自分一人で全部やりきるというよりも、期待に合わせて、帳尻を合わせて形にすることが大事です。当協会が毎年発表している「フリーランス白書」のデータでも、フリーランスとして働き続けるうえで大切なものとして、「専門性」「自分を売る力」「人脈」に続いて、「やり遂げる力」が入ってきています。

営業活動よりも、期待を越える成果と自己投資が大切

平田 それとフリーランスの方は自己投資に対する意識が高く、7割の人が自己投資をしています。一方で営業活動をしている人は3割しかいません。これは興味深いですよね。これからフリーランスになる人はどうやって顧客を獲得したらいいのか不安に感じると思うのですが、実際に活躍している人は、目の前のひとつひとつの仕事で期待値を超える成果をきちんとあげることで、リピートや紹介で仕事が途切れず回っています。

大野 自己投資というのは、実際にはどういうことをやっているのでしょうか。

平田 書籍の購入が1位ですが、2位は「仕事を受ける際に自己への投資にあたるものを選んでいる」というものです。フリーランスで働く人のほとんどが元会社員で、会社員時代に培った専門性を活かして独立していますが、どんな職種であっても今持っている専門性はやがて陳腐化してしまいます。当協会のアドバイザーをお願いしている慶應義塾大学大学院特任教授の高橋俊介先生も「フリーランスは10年に1回は看板を掛け変えないといけない」とおっしゃっていますが、確かに活躍している人は常に新しいテーマを吸収する、新しいツールを使えるようになるなど、ちょっとストレッチできる案件を積極的に受けている印象です。

大野 変化の激しいこれからは3年に1回ぐらい看板を掛け変える必要があるかもしれないですね。いろんな人と付き合うことも大事かと思いますが、いかがでしょうか。

平田 その通りですね。人脈というと営業のためと思われがちですが、いろんな世代・業界の人と付き合うことで、刺激を受け新しいインプットがもたらされるメリットのほうが大きいですね。それがいずれ協業のきっかけにもなります。

「70歳就業法」の背景、そしてフリーランスを選択しやすい社会とは?

大野 さてそんなコロナ禍の中でいわゆる「70歳就業法」が成立し、2021年4月から施行されます。これは70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務にするものですが、その方法として従来の雇用延長だけではなく、「フリーランス」という選択肢も推奨されるという大きな政策転換が含まれています。

平田 政府においても、書籍『ライフシフト」が話題になった2016年ごろから「人生100年時代」に国民をどう支えていくかが大きなアジェンダになっていました。経団連も「これ以上の雇用延長は無理」と白旗を挙げ、年金でも支えきれない。そうなると自律した働き方が必要であり、その解としてフリーランスが注目されたという経緯があります。

大野 政策的にも注目されるようになったフリーランスという働き方ですが、「自助・共助・公助」のバランスについてはどう考えていけばいいのでしょうか。会社員と違って個人で事業をすることを選択したわけだから、自己責任を問われる立場ではあるものの、ある程度のセイフティネットも必要ではないかという議論がされています。

平田 当協会では、当事者たちの課題意識を実態調査に基づき政府に提案し、政府においてもさまざまな環境整備が進んできています。それを整理したのがこちらの表です。私としては右側の2つ「業務トラブル対策」と「ライフリスク対策」は、働き方によって差があってはいけない「公助」が必要な領域、一方左側の「事業リスク対策」は「自助」が求められる領域ではないかと考えています。大野 わかりやすい分類ですね。そして今回のコロナ禍の中での平田さんの奮闘によって、政府が「事業リスク対策」にも目を向け、持続化給付金の対象としてくれたのは画期的でした。

平田 そうですね。自己責任の領域とはいえ、今回のコロナの影響は個人ではどうしようもなかったので、必要な施策だったと思います。政府がフリーランスや副業のような多様な働き方を推進したいといっても、選択しやすくする環境が整わなければ実現しません。「業務トラブル対策」については、昨年度から今年度にかけての厚生労働省と公正取引委員会の動きで取引ガイドラインや無料弁護士相談窓口ができるなど、ずいぶん改善が進んでいます。「ライフリスク対策」についても総論は認められていますが、財源も必要ですので少し時間がかかるのが実情です。

テレワークで進んだ「副業」をめぐる動き

大野 企業も業務委託でシニア人材を活用する仕組みをつくるなど、変化してきました。地方自治体において「副業人材」を募集する動きもみられますね。

平田 コロナはもちろんないに越したことはなかったわけですが、恩恵もあったと思います。その1つがテレワークの普及です。これまでインフラもなく、出社しなければ仕事ができないと思われていたものが、半強制的にやらざるを得なくなったことで、会社にいなくともコミュニケーションを取れることが実感できました。それがさまざまな人材の活用、副業の推進につながっています。

大野 デジタル化の中で、新たなプラットフォームができ、ジョブマッチングが進んでいる側面もあります。ただコロナの影響で厳しい状況に追いやられた航空業界のパイロットがUber Eatsで働いているなど、まだまだ副業で自分の能力を活かすことが難しい現状もありますね。

平田 そうですね。現状の副業は労働集約型のサービスに集中しがちで、ホワイトカラーの副業先が未開拓という課題があります。当協会としてもホワイトカラーがいろいろな専門性を活かして高単価で働けるように、ジョブ創出の活動を行っているところです。また、労働集約型のギグワーカーはフリーランスなのか、労働者なのかという線引きもあいまいです。働き手に対する過度な保護や規制はシェアリング・エコノミーといった新しい民業を圧迫することにもなり、慎重な議論が必要です。

大野 ちなみに日本ではいま、フリーランスで働いている人は7%(460万人)というデータがあります。平田さんはこれからどれくらい増えていくとお考えですか?

平田 組織の中で力を発揮することが向いている人も多い日本において、独立系フリーランスが労働人口の半数を超えることはないと思います。ただ副業をする人を含めると、50%とか、それなりの数字になっていく可能性はあります。そもそも戦後の日本はアントレプレナーシップにあふれた自営業者が活躍する社会でした。高度経済成長期に会社員に有利な社会制度が整備されましたが、「働く=会社員」という歴史は浅いのです。

大野 今回のコロナをきっかけに新しい自営業の形が生まれて、日本が再び元気になっていくといいですね。

「自分の強みの見つけ方」から「引き際」まで。多様な質問が寄せられたQAタイム

大野 ではここからは参加者からの質問を受け付けたいと思います。まずチャットに寄せられた質問です。「特に専門性がないキャリアだった場合、どうしたらフリーランスになれるでしょうか」とのこと。

平田 専門性のない人はそんなにいないのではないでしょうか。その会社の中で当たり前にやっていたことが、一歩会社の外に出ると重宝されることも多いんですね。例えばスタートアップや地方の企業では、何でも及第点でできる人が重宝されるといいます。総務も人事も経理も、多少は調べながらですが回せますといった感じの方ですね。自分の強みを知るためには、副業のマッチングサービスに登録して相場感や反響を確認してみるとよいと思います。

大野 続いて、フリーランスの長期戦略について伺いたいとの質問です。

平田 フリーランスのキャリアアップは、年齢を問わず、基本的には単価をあげていく方向になります。そのためには付加価値を増やしていく、上流の仕事をやっていくといったように、労働集約型ではなく、企画やコンサルティングの方向を目指すことになるのだと思います。

大野 自分の強みはなかなか自分ではわからないので、それを学ぶ場所があるといいですねとのコメントをいただきました。

平田 そうですね。当協会でもキャリアカウンセラーの有資格者をフリーランス・パラレルキャリア支援アドバイザーとして起用して、客観的なアドバイスをもらえる仕組みをつくっています。フリーランスになると上司がいなくなり、フィードバックがもらえなくなるため、自分でそういう機会を作っていくことが大事なんですね。これも自己投資の1つだと思います。

大野 フリーランス協会の「セルフブランディング講座」が役立ったとのコメントもありますね。

平田 ありがとうございます。フリーランスにとって「セルフブランディング」は重要なことです。ただ「何者かにならなければならない」というプレッシャーを感じている人もいるかもしれません。フリーランスは「期待を越える仕事」をすることが大事なので、あまり最初から期待値を高くしてしまうと自分を苦しめてしまいます。自分ができないことは誠実に話して、そこは専門家と組んでやるなど、期待値をコントロールしていく必要もあります。

大野 フリーランスは「引き際」をどう考えていったらいいのでしょうかという質問もいただきました。

平田 フリーランスは会社員と違って自分で終着点を見つけていかなければならないですから、重要なテーマです。当協会も人生100年時代、本当に何歳までどういう形でなら働き続けることができるのか、まさに『フリーランス白書2021」のメインテーマとしているので、しっかり検証していきたいと思っています。フリーランスが古くから活躍しているメディア業界などをみると、現場からプロダクション経営などマネジメントサイドへ働き方を変えていくケースが多いようです。老後の設計が見えた時点で、無理なく働ける仕事やプロボノ的な仕事へシフトしていく方もいますね。年齢とともに報酬や生活のためではなく、社会のためなどやりたいことにシフトできることを前向きにとらえて、挑戦していけるといいのではないかと思います。

大野 では最後に今日参加のみなさんに一言、メッセージをお願いします。

平田 今日は厳しい側面のお話もしましたが、フリーランスはどんな人と、どんな場所で、どんな仕事をするかを自分で決められる働き方です。そういう決定権を自分で持っていることは、幸福感につながることが調査研究でも明らかになっていますし、自分の人生を生きているという実感ともつながります。ご興味をお持ちの方が今日の対話をきっかけに小さくてもよいので何かアクションを起こしていただければ光栄です。ありがとうございました。

大野 ありがとうございました。

<参考>フリーランス白書2020

*『ライフシフトの学校@オンライン~人生100年&withコロナ時代の生き方・働き方を考えるワークショップ』を1月20(水)から開講します。詳しくはこちら。