「朝礼だけの学校」校長の藤原和博さんと、ライフシフト・ジャパン代表取締役CEO大野誠一の対談形式でお届けするオンラインセミナー「『60歳からの未来』を旅する6日間」。DAY5「物語の紡ぎ方」が、11月11日(木)午前11時から開催されました。以下、その概要をレポートします。DAY6「あなただけの1万時間」は12月12日(日)正午から開催です。詳細・お申し込みはこちら(Peatix)をご覧ください。

■山を重ねることは、谷を重ねること

佐藤(司会):みなさん、おはようございます。藤原和博さんが校長を務める「朝礼だけの学校」副校長の佐藤譲です。藤原さんの新刊『60歳からの教科書―お金、家族、死のルール』(朝日新書)の発売を記念してシリーズでお届けしているオンラインセミナー「『60歳からの未来』を旅する6日間」。5日目の今日は「物語の紡ぎ方」がテーマです。今回も満席でお届けします。藤原さん、大野さん、よろしくお願いします。

藤原:今日はあなたの「人生の物語」を、誰にどのように語っていくのか、という話です。例えば、自分の人生を一冊の本にまとめたとき、その本を読んでくれるのは誰でしょう。もしそれが自慢話のオンパレードだったら、読んでくれる人がいるでしょうか。元上司が、定年後に自分史をまとめて送ってきたらどうしますか? 僕だったら間違いなく読まないけれど、捨てるのも失礼だし、困っちゃいます。ベストセラーとセットで図書館に寄付するとか?(笑)。

ではどんな内容だったら読んでもらえるのか。結論ははっきりしています。「挫折、病気、失敗」のようなあなたのマイナスの要素をどれだけ面白おかしく語れるかということです。「挫折、病気、失敗」はあなたの人生の資産。それを乗り越えた経験こそが、あなたの家族やあなたが属しているコミュニティの人が読みたい話です。

これまでこのシリーズの中で、人生はひとつの山を登る富士山型から、いくつもの山を登る八ヶ岳連峰型に変わっていくという話をしてきました。今日、注目してほしいのは、山の部分ではなく、谷の部分です。

谷があるから山がある。それをよく理解するために、ぜひ「人生のエネルギーカーブ」を描いてみることをお勧めします。書き方は、「朝礼だけの学校」70回をみてください。

僕の場合も、楽しかった小学校時代が一転、中学校にサッカー部がなかったことからドボンと落ち込み、高校時代は復活しましたが、大学では今でいう五月病で3か月間、引きこもるという経験をしました。リクルートに入社後は盛り上がるんですが、30歳でメニエール病になり、出世レースから身を引いて、37才で海外に逃げ出しました。でもこの谷がなかったら、その後47歳で、義務教育では東京都初の民間校長に挑戦することもなかったはずです。

山を重ねることは、谷を重ねること。特に45歳までは挫折や失敗だらけでいいんじゃないかと思います。その谷が深ければ深いほど、後半人生に反転してきます。谷の経験を人格にしっかりと刻み、またそれを面白おかしく人に語れるようになることで、周囲からの信任が高まりエネルギーも集まってきます。僕はこれを「マイナスイオンの法則」と呼んでいます。

■「自分が主人公」の人生を歩んでいる人の多くが挫折を経験している
大野 「自分が主人公」の人生へとライフシフトした人たちの物語を聞いていても、失敗や挫折、病気がきっかけだったというケースは多いですね。今日も書籍『実践!50歳からのライフシフト術』(NHK出版)や、ライフシフト・ジャパンのホームページに掲載している「ライフシフター・インタビュー」に登場いただいた人の中から、いくつかケースを紹介したいと思います。

◎古田弘二さん(77歳)
業績が悪化しつつあった会社を53歳で早期退職し、保険業で華々しく起業するも大失敗。1年足らずで無一文になり、アルバイトで生計をつないでいたころ、愛犬の散歩中にその行儀のよさが評判になり、犬の散歩業で起業。「儲かりそうだという理由で起業したことが失敗の要因。いまは大好きな犬の散歩が仕事になり、1日40キロ歩くので同級生の中でも一番健康」(古田さん)

◎文美月さん(48歳)
31歳で起業した「アクセサリーEC」が急成長したものの、ちょっとしたミスがきっかけで大炎上。精神的ショックから1年半、引きこもる。売上は激減、事業も縮小する中、「やり方」よりも「あり方」を考えるように。事業を通じた途上国支援をきっかけに食品ロス問題に気づき、48歳で食品ロス削減事業「ロスゼロ」を起業。

◎チャーチル聡子さん(40歳)
36歳で会社を退職、「子どもたちに農業体験を提供するフリースクール」を目指して起業するも、理念先行で1年足らずで資金がつき挫折。自分の未熟さ、仲間をつくる難しさを実感して元いた会社に戻る。そこでやりたかった教育事業に携わるようになる。

◎瀬畑一茂さん(47歳)
外資系企業でバリバリと活躍し日本法人の副社長に上り詰めたものの、45歳のとき突然、歯に激痛が走る。ずっと噛みしめていた歯がばきっと割れたことで、長年、無理をしてきた自分に気づく。妻との会話を取り戻し、ありたい姿を見直し、夫婦で信州に移住。地方創生をテーマに起業。

◎佐藤恵里さん(51歳)
第二子を出産後にうつ病に。それ以来、不安定な毎日を10年以上送るも、50歳のときに甲状腺がんを患ったことで「後悔のない人生を送りたい」と一念発起。手術後に行きたかったチュニジアを旅し、そこで美しいチュニジアキリムに出会う。「これを日本に広めたい!」といきなり輸入業を起業。現在は家族も驚くほどのパワーで事業を展開中。

以上、挫折や失敗、病気がきっかけとなってライフシフトした事例を紹介しました。

■一度、外の世界に出てみることで「気づき」が得られる
藤原 大野さん、ありがとうございました。30代、40代で会社の業績が悪化する、あるいは自分の体調が悪化するといった、いわば「黒船」がきたことで、個人としての目覚めがあって、人生をシフトチェンジしたという人が多いですね。ではこうふう「黒船」がこなかった場合は、どうやって次のステージに行けばいいんでしょうか。僕は慣れ親しんだ環境を離れて、一度外に出てみるのがいいんじゃないかと思います。海外とか、被災地の支援とか、名刺や肩書が通用しない世界に身を置いてみるとかですね。

大野 そうですね。日々が順調に流れているときには、なかなかシフトチェンジは難しい。僕の場合も40歳前後で「このままではダメなんじゃないか」と心が騒いで、けっこう落ち込む時期がありました。いわゆる「ミドルの危機」だったかもしれません。その後41歳で初めてパナソニックに転職しましたが、そうやって外に出てみてわかったことがたくさんあります。

 藤原 それと僕は「入射角と反射角の法則」と呼んでいるんですが、落ち込むときは徹底的に落ち込んだほうが、そのあとのはね返りも角度がつく。一番よくないのは、ずるずると落ちて行って、気が付いたら土俵際(定年)みたいなパターンだと思います。

大野 サントリーの新浪社長の「45歳定年」、少し前に東大の柳川先生が言っていた「40歳定年」という提案も趣旨は近いのではないでしょうか。その年代でいったん現在いる場所から意識的に離れてみることで、70代、80代になっても働き続けることができる「気づき」が得られるのだと思います。

藤原 45歳前後で、意識的に自分の身の置き方を変えてみる、60歳から75歳ぐらいまでの間にもう一回変えてみる、そういうふうにしてみると、95歳ぐらいまで生き生きといられそうですよね。犬の散歩業をはじめた古田さんのように、何がめぐってくるかわからない。頭を柔らかくして、まずは動いてみて、どこにつながるのかを楽しむぐらいでいいですね。

大野 そうですね。大事なことは、もうこの年だから…といった「年齢バイアス」を手放すことだと思います。せっかくの人生100年時代。気持ち的に老けちゃったらアウトです。

■組織はあなたの人生を記憶しない
藤原 実際に、自分史を出してみたいという人もいると思います。これはロマンだと思うし、うまくヒットすれば講演の依頼がきて月5万円以上稼げるかもしれない。ただし、今の出版業界の厳しさをみると、ただ「出したい」と言っているだけでは実現しません。

そこでまずは先ほどの「人生のエネルギーカーブ」などを描いて自分の人生を棚卸してみること、そして自分の「谷」の部分を実際に文章にしてみることをお勧めします。後で直してもよいので、序章を書き始めてブログにアップしてみると気持ちも盛り上がります。もう今日から書き始めましょう。

そしてある程度書きたまったら、編集者を雇って、つまり5万円とか10万円を払ってみてもらう。こうすることで、読まれるものに近づきます。プロフィール写真もプロに撮ってもらうといいですね。プロが見た自分というのは全く違うし、そういう姿になる自分がイメージできてモチベーションもあがります。これは賢いお金の使い方だと思いますね。

そして最後に大事なことをお伝えします。なぜあなたの人生を可視化して残すのか。それは、組織はあなたの人生を記憶しないからです。組織は機能の集合体なので、あなたがいなくなれば、他の人がその場所にとって変わるだけです。あなたの人生を記憶する媒体は、あなたの家族を含むコミュニティです。それをお伝えして、Day5を終わります。今日もありがとうございました。

*DAY6「あなただけの1万時間」は12月12日(日)正午から開催です。詳細・お申し込みはこちら(Peatixをご覧ください。