やましたひでこ公認断捨離®トレーナーとしてセミナーや個人宅の断捨離サポートを行っている原田千里さん。ファッション業界で29年働いてきたなかで、大きな仕事を任せてもらうためには、仕事そのものの経験やスキルよりも人間力を磨くことが大切だと気付き、ビジネス哲学・心理学、コーチング、カウンセリングなど、さまざまな専門的な学びを続けてきました。50代に入って仕事に行き詰りを感じるようになったとき出会ったのが断捨離です。大切だと思っていたモノが実は不要で、生活を圧迫していると知り、一念発起、大断捨離を敢行。モノと一緒に執着や恐れを手放し、汚部屋からも脱出して、断捨離トレーナーの資格を取得しました。52歳で独立起業、広告代理業と並行して断捨離トレーナーとしての活動を開始。63歳になった現在も2本柱で仕事を続けながら、ワンルームで “所有しない自由な暮らし”を試行錯誤しながら実践中です。生涯現役を目指すという原田さんのライフシフトをうかがいました。
原田千里さん(NO.136)
■1962年生まれ。高校卒業後、メーカー勤務を経て上京。ファッションビジネスのコンサルティング会社で29年間勤務し、在職中に武蔵野大学人間学研究科修士課程修了。50歳のときに断捨離と出会い、断捨離提唱者やましたひでこに師事。52歳のときに独立起業し、株式会社ポジティブストローク研究所を設立。広告代理業と並行して断捨離トレーナーとしての活動を開始。どちらも本業と位置付けて、広告の仕事では「伝え方」と「見せ方」を、断捨離の現場では「生き方」と「在り方」の視点を持ち、仕事を続けている。プロコーチ、日本家族問題相談連盟認定カウンセラー、アンガーマネジメントトレーナー・交流分析士インストラクターの資格を持つ。
■座右の銘:しばられず、逃げず、自由に生きる。
人生はRPG。経験値に変えて楽しみきる。
仕事をしながら実務に役立つ学びを続ける
静岡で暮らしていた私は中学生の頃から「大人になったら絶対東京に出る!」と決めていました。父から何度も「若い頃に東京で暮らしていて楽しかった。刺激的だった」と聞いていて、東京への強い憧れがあったからです。
何のために行くのか、行ってどうするのかは決まっていませんでしたが、とにかく東京に行くことが目標でした。高校卒業後はいったん地元のメーカー就職し、そこで100万円を貯めて、19歳で上京。華やかな表参道の交差点に立った時、「この街で働く!」と心に誓ったのです。
しばらくはアルバイト生活をしていましたが、23歳で念願が叶い、表参道のファッションコンサルティング会社に入りました。仕事は営業です。当時は80年代のバブルの時期で景気もよく、売上は好調でした。その後、プロモーション企画の部署に配属され、経験もないのにプランナーという肩書に。海外ブランドの日本展開の企画を担当し、実務から学ぶことも多かったのですが、「売上を上げるために購買する人の心理を専門的に学びた」いと思うようになりました。そこで仕事をしながら大学の社会心理学科(通信教育課程)に入学し、統計や集団心理を学んで4年半かけて卒業したのです。
90年代に入るとバブルは崩壊。プランナーの仕事はなくなり、既存の売上不振店の立て直しを任されました。じつはこれが天職だったようで、私が手がける店は100%売上がアップし、自分でも驚きました。売上不振店は在庫が多いのが共通点です。商品を置くための陳列什器も多いので通路は狭くなり、そこに品出し途中の箱が放置されていて、掃除が行き届かなくなり、店の空気はどんより、お客様は来ない、スタッフのモチベーションは下がる一方という悪循環に陥っていました。私はまず、店頭在庫量を減らすため、ターゲット客に合わせて品揃えを組みなおして、店内のゾーニングを変え、スタイリングを意識した陳列とディスプレイをしました。すると「うちの店にこんな商品あつたかな。」「これなら売れる気がする。」とスタッフの目が輝き始め、店の空気が明るくなったんです。そんな活気のある店の雰囲気を見てお客様が入ってくるようになると売上も上がっていきます。こうして在庫も減っていき、仕事が面白くて仕方ありませんでした。
しかし一時的に持ち直しても維持できないお店もありました。「成果が出て喜んでいたのに、すぐにモチベーションが低下してしまうのはなぜだろう。」と悩んでいましたが、必要なのは、自発的にモチベーションを上げられるリーダー的な存在だと気づきました。そういった人材を育成するスキルを身に着けたいと思って、私は42歳の時にコーチングを学び始めました。学び始めて気づいたのは、「自分が変わることが他人を変える近道」だということ。売上げ拡大のやり方を伝える前に、スタッフの話を真摯に聞くようにしたんです。愚痴とも思える本音を話してくれるようになり、それを否定しない私のあり方に信頼を寄せてくれるようになりました。すると、スタッフの動きが自然と変わりました。コーチングが面白くなった私は、コーチ養成講座の講師の資格まで取得し、副業として大学で社会人向けの講座も受け持つまでになりました。ダブルキャリアがスタートしました。
50代への不安から大学院に通い、断捨離トレーナー講座を受講
こうしてがむしゃらに働いてきましたが、40代後半になると、本業に対する不安が強くなってきました。トップが交代すれば、若い人が登用され、自分の契約先が減っていく未来が見えています。「50歳を過ぎて会社を放り出されたらもう動けない。新しいこと始めなければ」という危機感があり、50歳のときに武蔵野大学の大学院に入学。興味のあった人間関係学を学びました。さらにこの時期に知ったのが断捨離という言葉でした。じつは私の部屋は足の踏み場もないほどモノだらけで、会社のデスクは資料が山積み。仕事が忙しいんだから仕方ないと言い訳しながら、まったく整理ができておらず、家も会社も落ち着ける空間ではありませんでした。断捨離では”部屋の状態は住む人の心の状態を表している”と言いますが、捨てるという概念がなかった暮らしはまさに私の心の状態でした。大量の本や資料は努力の証しであり、大量の洋服は頑張っている自分へのご褒美です。大量のモノに囲まれて、いつも忙しく動き回って、不安を感じる暇がないようにしていたのだと思います。
断捨離を本格的に学ぼうと思いましたが、これまでの経験から、教える側の立場になってからのほうが、本当の理解が深まることがわかっていました。そこでいきなり断捨離トレーナーになるための講座に申し込みをしたのです。この講座は研修を受けるだけでなく、最後に自宅のチェックがあり合否が決まります。モノであふれかえっている我が家でしたが、私は期限が決まれば頑張るタイプです。まずは2トントラックを予約し、そこに積むモノを選んでいきました。ただ1回では到底足りず、もう1回2トントラックを呼んで、いらないモノを大量に捨てて、無事合格することができたのです。

モノがいっぱいで汚部屋だった自宅の部屋。
前職の仕事と断捨離の現場は根っこが同じだった
会社を辞めたのは52歳のときです。「安全をキープしながら次の世界に移ろうとしても、同じ場所に立ったままイメージすることになる。でも手放してみて立った新しいステージに見える世界はまた全然違う」という断捨離の教えを試してみたくなったんです。
とはいえ退職後、すぐに断捨離トレーナーになったわけではありません。前職の社長が、独立後も1社私に任せてくれたので、それで食いつなぎ、先のことはのんびり考えていました。ところが3年が経った頃、担当企業の契約更新がなくなり、いよいよ収入がゼロの状態に……。そこで「もう断捨離トレーナーとして頑張るしかない」と腹をくくったのです。
最初は区民会館を借りて断捨離講演会をスタートしました。その時に先輩から「講演会はフロントだから、フロントをやったら必ずバックエンドを用意するのよ」と教わりました。そこでバックエンドとして小グループで断捨離の勉強するクラスを提供すると、講演会のお客様がすぐに申し込んでくださったんです。ある方に、たくさんいる断捨離トレーナーの中でなぜ私だったのかを聞いてみると、「着ていたワンピースが素敵だったから」という回答でした。拍子抜けしましたが、これまでファッション業界で働いてきたことが役に立っていたんです。
もうひとつ、私が担当してきた過剰在庫を抱える売上不振店と、断捨離が必要な住まいの問題点は根っこが同じであることもわかりました。どちらも空間がモノに占領されていて、どこに何があるのか把握できなくなり、探し物が増えてイライラしがちです。掃除もしにくくなり埃が堆積しています。一方、繁盛店は店舗空間が清々しく活気があり、「見やすく分かりやすく手に取りやすく」が実現されています。バックヤードも整理され、スタッフ同士の会話も明るく、気持ちよく仕事ができる環境です。住まいも同じ発想で、過剰なモノを減らして、モノの配置を変えていくと、家族のコミュニケーションもよくなって、「この家は居心地がいい」「ここが私の帰る場所」という実感につながっていくのだと思います。
断捨離は単なる部屋の片づけ術だと思っている人も多いですが、断捨離の本質は「人生の自由度を上げる」ためにあります。モノが多いとそれらのためのスペース、モノの維持管理のための時間やそれを使うという労力も必要です。モノを減らし、本当に必要なモノだけに絞り込んでいくと、そこにかける空間・時間・労力も減らせます。その分、本当に大切なコトや、やりたいことにエネルギーを投下できるようになるんです。断捨離によって自由を獲得し、本当に望むコトに向かって生きられるようになることをお手伝いするのが私の仕事です。
独立してからは、断捨離の提唱者であるやましたひでこ公認の断捨離トレーナーとして、企業セミナーや個人宅での断捨離個別サポートまで、幅広く活動しています。捨てたいのに捨てられない、片づけたいのに片付かないと訴える方は、捨てられない自分、片づけられない自分を責めている方が多いのですが、片づかない原因はモノが多すぎるからだと、ただそれだけだと、多すぎるモノを減らせば、すべて解決するのだから、とお伝えしています。家の中にモノがあふれてしまった原因は、手を動かしながら対話をする中で、ご本人に、ご本人のタイミングで気づいていただくようにしています。気づきを促す場面で、カウンセリングでトレーニングしてきた傾聴技法が活きていると感じています。

個人宅で断捨離をサポート。
38平米のワンルームで暮らし、家具はサブスク
私自身も断捨離で自由度が上がり、人生が楽しくなりました。今は一人暮らしですが、結婚して二人暮らしだった時期もあります。元夫とは、一緒に小さなサロンをやろう、年に2回は海外生活を楽しもうといった共通の夢がありました。しかし、彼の事情で共通の夢の実現が難しくなり、それぞれの人生を生きるために離婚をし、ひとり暮らしに戻りました。
じつは離婚後、次に住む家が見つかるまで、しばらく前夫と同居生活をしていました。中央区のマンションで家賃も不要、というメリットに甘えていました。すると断捨離の師匠であるやましたひでこさんから「そこに住んでいると本来のあなたの力が出せないのでは」とアドバイスがあり、おすすめの部屋まで提示してくれたんです。その部屋は港区のタワーマンションの一室で、家賃ゼロの暮らしからしたら足が震えるほど高額でした。この家賃を払っていけるのか不安でしたが、断捨離トレーナーの住まいとして自分の部屋を公開して、自宅でセミナーをすれば断捨離空間の維持と、ビジネスの両面でメリットがあると考え直して、思い切って引っ越しを決めました。すると「自宅サロンを見てみたい」という生徒さんが集まって、仕事は軌道に乗りました。
2年間、自宅をサロンとして仕事をしましたが、自宅と仕事場が一緒という生活に徐々にストレスを感じ始めました。また部屋が広いとそれだけモノも多くなります。モノの管理も実はあまり得意ではありません。そこで自宅でのセミナーはやめて、マンションの共有スペースである会議室やミーティングルームを利用すれば、もっとコンパクトに暮らすこともできるのではと考えました。今は同じマンション内で60平米の部屋から38平米のワンルームに引っ越し、家具もサブスクでレンタルというスタイルです。なるべくモノを所有せず、身軽に暮らすことができています。
じつはスーツケース1つでどこにでも行ける私になりたいという目標もあります。これまで静岡と東京にしか住んだことないので、国内、海外を含め、気になる場所に住んでみたいのです。今はオンラインの時代なので、どこにいても仕事はできるはずです。

多くのモノを所有せず整ったワンルームでの暮らし。
ライフシフトと断捨離をつなげて形にしたい
人生100年時代、生涯現役で仕事をしていくつもりです。私はライフシフト・ジャパンにもパートナーとして所属していますが、ライフシフトの入り口は断捨離であると考えています。人生の主人公になるために、他の舞台に行くのではなく、まずは今自分のいる舞台を整えると見えてくるものがあるはずです。恐れや不安、思い込みなどの心のブレーキを外すのは容易ではありませんが、モノを捨てれば、モノに張り付いた思い込みや執着心も一緒になくなります。そんな断捨離とライフシフトの繋がりを1つの形にして、皆さんにお伝えしていきたい。その体系化は来年にはご提供できると思います。
シングルなので「独身で寂しくないの?」と聞かれることもありますが、全く寂しくありません。結婚と離婚を経験してわかったのは、私はひとりが向いているということです。孤独死が社会問題になっていますが、断捨離には「意識縁」という考えがあります。血縁があろうと、地縁があろうと、関係性が遠ければ孤独です。でも意識で繋がる縁、たとえば断捨離という共通言語を持っている人とは会ったそばから会話が成り立ちます。自由に生きたいという意識で繋がった断捨離メンバーで、旅行にもよく行きます。変にベタベタせず、みんな自立していて、意識縁の世界は、すごく心地がよいのです。将来的には断捨離仲間とシェアハウスを作って、気の合う仲間で暮らすのもいいねと話しています。

還暦記念に意識縁の仲間と記念撮影。
(取材・文/垣内栄)
*ライフシフト・ジャパンは、数多くのライフシフターのインタビューを通じて紡ぎだした「ライフシフトの法則」をフレームワークとして、一人ひとりが「100年ライフ」をポジティブに捉え、自分らしさを生かし、ワクワク楽しく生きていくためのワークショップ「LIFE SHIFT JOURNEY」(ライフシフト・ジャーニー)を個人の方及び企業研修として提供しています。詳細はこちらをご覧ください。
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