PROFILE

合澤 栄美(あいざわ えみ)さん《ライフシフターNo.017》

・株式会社ミライロ 経営企画室
東京都在住。44歳。開発途上国の支援に21年間従事し、株式会社ミライロに転職。バリア(障害)をバリュー(価値)に変えるを企業理念とし、ハードとソフトの両面でのユニバーサルデザインに関するコンサルティングを提供する同社の経営企画室に在籍。事業計画、組織戦略などに関わるほか、将来的な事業のグローバル化や海外展開に向けた取り組みを主に担当している。
影響を受けた本:国際協力を志すきっかけとなった、犬養道子著「人間の大地」
転職のきっかけとなった、垣内俊哉著「バリアバリュー 障害を価値に変える」
http://www.mirairo.co.jp/

大学卒業後、独立行政法人国際協力機構(JICA)に2017年4月末まで約21年間勤務していました。約3年ごとに異動があり、様々な業務を経験しましたが、合計10年間ほどは途上国の障害者の社会参加支援に関する事業の計画立案、実施促進、評価、調査に携わりました。カンボジア、タイ、パラグアイに駐在したほか、毎月のように海外出張をしている時期もありました。
途上国や日本の政府関係者、障害者団体のメンバー、国際機関職員や開発コンサルタント等、様々な立場の方と接する機会があり、刺激的で充実した毎日でした。特に、国際協力に障害の視点をどのようにメインストリーミングしていくか、障害者の参加をどのように推進していくか、という取り組みに力を注ぎました。
その一方で、日本国内の社会課題についてもっと知りたい、関わりを持ちたいという気持ちもありましたが、勤務時間が長く、また出張や異動が多かったため、事前に計画が立てづらく、そのような活動にコミットしにくい状況でした。

JICAの仕事も大好きだったのですが、勤続20年という節目を迎え、日本国内の社会課題に関わる仕事もしてみたい、他の組織で力試しをしてみたい、社会の変革につながるようなことをしている企業で働きたいという気持ちがむくむくと強くなっていったのです。

ないものは作る、変えた方がいいと思えば提案するというアクションを起こしやすいのがベンチャー企業の魅力

そのようなタイミングで、バリア(障害)をバリュー(価値)に変え、社会を変革するとうたう株式会社ミライロの社員と出会いました。当初は、JICAとミライロとで何か連携ができたらと思っていたのですが、まだ組織づくりの途上にあるこの段階で仲間に加わりたいと思うようになりました。インクルーシブな社会づくりに向けたコンサルティングを障害者等の当事者の知見を活かして行い、対価を得て社会性と経済性の両方を追求するというビジネスモデルに魅力を感じたのです。
2017年5月にミライロへ転職し、現在は経営企画室で、事業計画、組織戦略などに関わるほか、将来的な事業のグローバル化や海外展開に向けた取り組みを主に担当しています。提案書の作成やコンテンツの開発などに関わることもあり、自分自身の関心と経験が活かせる分野であることにやりがいを感じています。
JICAでは、自分の知見が少ない分野にも関わることが多く、その面白さもあったものの、知識が浅く広くなってしまうように感じていました。今は、誰もが安心して暮らせる社会の実現に向けたユニバーサルデザインの推進、それを当事者の視点を大切にしながら行う、というテーマにフォーカスできるので、新しい知識の習得にもますます意欲を感じています。
JICAという大組織から、社員約50人で20~30代が多いベンチャーに移り、仕事の内容や環境も大きく変わり、戸惑う部分もありましたが、ポジティブにとらえています。前職に比べ、内部調整にかかる時間が圧倒的に少なく、意思決定が速いですし、ないものは作る、変えた方がいいと思えば提案する、というアクションを起こしやすいという利点を感じています。

インプットや学びの時間も取れ、良い意味でワークとライフの境目がなく公私ともに充実

以前は駐在や海外出張を繰り返していましたが、今では一つの場所で落ち着いて仕事ができるようになりました。異動のたびに新しい分野の知識や新しい業務のスキルを習得しなくてはいけないというプレッシャーからも解放されたため、肉体的にも精神的にも穏やかになりました。
また、家庭での児童養護(里親)を推進しようという有志の集まりが一般社団法人設立に向かっていて、そのメンバーとしての取り組みも始めたところです。趣味を活かし、高齢者施設でのタンゴセラピーのボランティアも始めました。夜間のセミナーや勉強会にも行きやすくなり、研鑽やネットワーキングの時間が取れるようにもなりました。良い意味でワークとライフの境目がなくなり、プライベートな活動や人間関係が仕事にもプラスになっています。
転職を考えたとき、「これだ!」という確信があったため、ほとんど誰にも相談せず、家族(両親と妹)にも、決断後に伝えました。家族も『バリアバリュー』(垣内俊哉著)を読んで共感し、チャレンジするなら今じゃないの、と応援してくれました。家族以外の周囲の人たちからは、安定した仕事をこの年齢で辞めて小規模の企業に転職することに驚き、考え直した方がよいのでは、という反応が多くありましたが、気持ちは決まっていたので、ぶれることはありませんでした。振り返って考えると、勢いで転職した側面があるのは否めませんが、あまり思い悩んでいると踏み切れなかったと思うので、結果的にはよかったと思います。

国際協力の経験と民間企業での知見を活用し、多様な人がそれぞれの強みを活かして活躍できる社会を作りたい

これからは、ミライロのビジネスモデルが機能し、インクルーシブな社会づくりに向けたハードやソフトの改善は、社会的にも経済的にも意義がある、ということを実証するのが重要だと思っています。そのためにも、まずはミライロのビジネスの基盤や組織の強化に関わりたいと考えています。そのうえで、このモデルを応用して、これまで接点のあった途上国の障害者リーダーたちと協力して起業するなど、多様な人がそれぞれの強みを活かして活躍できる社会づくりの推進に、国際協力の経験と民間企業での知見を活用できるようになりたいです。
同じ組織に20年以上勤続したのは、その組織や仕事が大好きだったからに他ならないのですが、その一方で、「自分は他の組織では通用しないのではないか」という焦りのような気持ちがありました。思い切って新しい道に踏み出してみたら、意外と早く順応し、チャレンジを楽しんでいることに気が付きました。身軽になった気分です。そして、次にまた何か「これだ!」と思うものが現れたら、直感を信じて行動しよう、というしなやかな思考になりました。あの時チャレンジしていたら……と後悔が残らないように挑戦してみよう、と思って転職し、自分自身の適応力や可能性を認識することができて、これからの人生がますます楽しみになりました。
ひとつの組織に長くいると、次へのチャレンジは簡単なものではないと思います。でも、直感を信じて行動してみると、その先に新たな未来が広がっていることもあります。その可能性を探ってみるのも良いのではないでしょうか。