PROFILE

稲葉哲治さん(No.41)
・エシカルペイフォワード・プロデューサー
・EDAYA・プロボノ、SOIF・共同代表
・「『エシカル男子の会』をつくる会」・代表、HRコンサルタント

1979年生まれ。東京都在住、38歳独身。
開成中学、高校、東京大学と、いわゆる”エリートコース”を歩むも、大学を中退。ニート期間を経て、28 歳でセゾングループの会社に入社。若年無業者やシングルマザーの就労支援など人事関連の新規事業を数多く実施。途中、知人と共に「若者が楽しく働くしくみづくり」を目指す会社を起業。しかし、収益化を急いだためかえって自由な活動ができなくなったことから 33 歳で会社員に戻り、人事やHRコンサルなどの仕事と、多数のエシカルプロジェクトをともにライフワークとして行う、ハイブリッドキャリアを築き上げている。

座右の銘:木鶏・開物成務・誰もが「生きにくい」社会づくり
影響を受けた本:『終わりと始まり』ヴィスワヴァ・シンボルスカ、『狂気について』渡辺一夫
http://www.tedxsaku.com/speakers/2015/11/post-15.html

現在、私は会社員としてHRコンサルタントの仕事にフルタイム(週 5、9 時~18 時)で従事しながら、「エシカル」をキーワードに様々なプロジェクトに取り組んでいます。「エシカル」は直訳すると“倫理的な”、“道徳上の”といった意味ですが、ファッションや食などの「消費」にかかわるものだけでも、「エコ」のように環境への配慮を意味するだけでもなく、世界中のさまざまなものとのつながりを過去や未来も視野に入れて配慮し、そこで自分はどう在るかを考えて行動する、「つながりを想い、これからを選ぶ」ことです。

いつをライフシフトした時と考えるか次第ですが、起業した会社をつぶして会社員に戻り、会社の仕事と多数のエシカルプロジェクトをみんな混ぜこぜで“ライフワーク”とする現在のハイブリッドキャリアのスタイルを選択したときの年齢は 33 歳で した。

大学を中退後、パラレルキャリアを経て、起業

私は東京大学を中退した、いわゆるドロップアウトエリートです。そういった意味では、中退をした時が一 番のライフシフトだったのかもしれません。ニートとコンビニ店員を経て 28 歳でセゾングループに入社したのですが、その入社当初から会社と社外のNPO等の仕事をパラレルで行うナチュラルボーンパラレルキャリアでした。親代わりの上司でもある常務が同様の働き方をしていて、その方の背中を見て学んできました。

その後、32 歳のときに若者のキャリアを支援する会社を起業しました。それまでパラレルで行ってきたことを一本化したのです。支援してくれる会社に陣借りして、その会社の仕事も行いつつ、すぐにはお金に ならないやりたいことを実現するため、社会潮流を作ろうと学生たちと活動する一方で、目先の資金を稼ぐために新卒採用サービス事業を行うなどしていました。時間的には自由には動けましたが、短期的な売上に縛られながら事業を行うことになり、やりたいことが存分にやれない不自由さを感じてストレスが多かったのを覚えています。

本当にやりたいことを行うために、再びパラレルキャリアを選択

再びパラレルキャリアに戻るという決断をしたきっかけは、共同経営者が学生たちを就活塾に登録させてマージンをもらう判断をしたことでした。そのようなビジネス自体は否定しないのですが、自分たちは学生たちと区別なく同じ仲間として社会に向けた発信をしていこうとしていたので、このままでは一番大切な理念・ビジョンを失うと思い、会社をつぶすことにしたのです。会社員に戻り、会社という道具を使ってさまざまなことを行いつつお金も稼ぎ、同時に長期的に本当にやりたいことを行うために時間や労力を投資するパラレルキャリアに戻ったほうが自由で効率的だと考え、決断したのです。

その結果、様々なエシカルプロジェクトに取り組むことができるようになりました。具体的には、エシカル商品のセレクトショップ「エシカルペイフォワード」のプロデューサーとして、店舗運営、各種イベントや発信事業、バイイング、ブランドの事業相談、「エシカル」についての講演を行うほか、「エシカル」をファッションだけではなく人事・セクシュアリティ・教育などに広げるためのフォーラムなどを企画・実施したりしています。

また、いわゆるマジョリティとなってしまったがゆえに社会変化に取り残されている男性陣を内側から変革するため、「エシカル」に共感する男性をつなぎ育てる「『エシカル男子の会』をつくる会」を設立し、この秋からクラウドファンディングの実施やフリーペーパーの発行等で事業を活性化させることも予定しています。さらには、親しい社会起業家の事業にプロボノより深くコミットするため、「エアCOO」にも就任する予定です。

その他にも、フィリピンの山岳少数民族カリンガ族の持つ竹文化をモチーフとしたアクセサリーをキーアイテムとして、マイノリティのエンパワーメントを目指すプロジェクトEDAYA(エダヤ)のプロボノとしての活動や、「参加型社会投資イベントSOIF(ソイフ)」の共同代表など、活動範囲は国内外と幅広く、パラレルキャリアを実現しています。

また会社員としての人事・HR関連の仕事も本当にやりたいことである上、社外で行っている活動ともかかわってくることも多いため、僕は自分のライフスタイルを“パラレルキャリア”ではなく“ハイブリッドキャリア”だと言っています。

「エシカル」を切り口にした“コレクティブインパクト”を目指して

再びパラレルキャリアに戻るというライフシフトをしたことで、自分自身を資産として、何に投資をすれば投資対効果が大きいかを考えるようになりました。生活スタイルとしては、ひとつの仕事が終わったらすぐ次の仕事をする生活であり、さらに社外の仕事も複数あるので、常に何らかの大事なタスクを抱え、自分で自分を追いつめ続けている状態です。

時間的にはかなり余裕がなくなったように思います。また、複数の仕事をしているので人格分裂しているような感じもあります。一方で、好きなこと、本当に目指したいことを遠慮なく続けて実現にむけて時間をかけて歩んでいるので、精神的にはかなり楽しいですし、自由にわがままをできていると思います。

経済面に関しては、会社員としての仕事があるので安定しています。一方で社外の仕事はお金が出ていく投資的なことも多くありますが、非金銭的な報酬は豊富にもらっていると思います。

今後の目標として、「エシカル」を切り口にしたコレクティブインパクト(=異なる領域の人々が、組織の壁を越えてお互いの強みを出し合い社会的課題の解決を目指すアプローチのこと)を目指したいと思っています。 また「エシカル男子」を集めて男性の内側から男性を変えるチャレンジにも取り組みたいです。

私は約10年間社会活動に関わっており、さまざまな領域のプレーヤーと信頼関係を築いてきました。またかつて学生だった子でも、一角の社会活動を行えるようになっています。そういった関係が結びつけば、コレクティブインパクトにつながると思っています。

おそらく今私は、人生の第2サイクルの終盤に入ってきていると思っています。第3、第4サイクルのことは考えず、しっかりと第2サイクルの人生を死ねるようにしていきたい。そのことが、より面白い第3、第4サイクルへの転生を拓くことになると思っています。

ライフシフトを考えている人に伝えたいことは、「シフトしようと頭で考えること、流行だからと模索するような生き方は間違っている」ということです。また、今日からライフシフトするぞと思って急に変化するものでもないと思います。自分がやりたいこと、エゴを追及し、その他のルールには縛られずただの道具として活用していけば、いつの間にかグラデーションのようにライフシフトは起こっているものだと思います。社会とつながり続けている人間としてのエゴイズムを追及することが大事。また一方で、生き方などは正解がない、ゴールがない、なにか行えば必ず反作用があるものだと思います。その中で右往左往しつつもやり続けることが大事だと思っています。みんなで「面白くて大義のあること」をやり続けたいです。