及川 敬子(おいかわ たかこ)さん《No.003》
一般社団法人まちのLDK 代表理事
東京都在住。51歳。夫と17歳男子の3人家族。社会起業により、小規模保育園の運営事業者代表をしている。2014年5月に48歳で会社を辞め、2017年9月に開園。開園前の3年ほどは、ボランティアで子育てひろばや子どもの居場所づくりを実践するかたわら、保育園に適した物件を探し続けた。小規模保育園をまちづくりの核となる施設として位置づけ、子育てひろばや子どもの居場所、多世代交流の場などを網の目のようにめぐらせ、子どもたちがまちの様々な人に見守られながら育つ環境としくみづくりをめざしている。ネット発信による地域メディアも運営。
座右の銘は、「人生プラスマイナスゼロ/楽あれば苦あり」。
http://machino-ldk.org/
以前は、全国紙の新聞記者として、地方勤務で警察回りや役所回りを経験し、本社では芸能記者(放送局やタレント、番組取材)を皮切りに生活・家庭関連の取材、2000年に子どもが生まれてからは妊娠・出産・子育て・保育などについて取材執筆してきました。
選挙や大事件があれば24時間、土日祝日、盆暮れ正月関係なく、呼ばれればすぐ駆けつける体制で、日中は取材で駆け回り、夕方執筆、翌朝掲載の記事を担当していたら深夜まで会社にいる生活でした。
子どもが生まれてからは、0歳で育休から復帰、保育園に送り、取材に走り、翌朝の記事がなければお迎え時間に間に合うようダッシュで会社を出て、子どもが寝た深夜に執筆するような生活でした。多くは日帰りですが、国内出張や海外出張もこなしていました。子どもが小学生になると、学童保育や塾に通わせながら朝から夜まで働く日々。異動により、夕方出社し午前3時4時に帰宅する職場に変わったときもあり、子どもと直接話せず、メモのやりとりで会話するような時期も2年ほどありました。
これからは会社のためではなく、社会のために働こうと決意
仕事に役立ち、勉強になるからと2008年に保育士資格を取得。自らの経験や、子どもが育つ環境を取材する中、いずれ会社を辞めたら地域の子育て支援に携わりたいと思っていました。深夜勤務の職場にいたとき、心身共にすり減り、この先は管理職や記者以外の部署が待っていると悟ったのと、50歳を前に、会社員生活はあと10年だけど人生はあと30年はあると考え、人生の折り返し地点にいると考えました。体力気力のあるうちに社会起業し、これからは会社のためではなく、社会のために働こうと決意しました。ちょうど2015年に保育新制度が始まるタイミングでした。私にもチャンスはあると信じて、粘り強く、七転び八起きの精神で突き進み、会社を辞めたときは夢物語だった小規模保育園の開園を、現実のものにしました。
わが家は夫婦独立採算制なので、夫は「金銭面の援助はできないが、やりたいならやれば」と、比較的あっさり退社を認めてくれました。最初は、50歳になると退職金の上乗せなどがあるため「あと2年我慢できないか」と粘られましたが、この先の見通しについては認識が一致しており、理解してくれたのだろうと思います。積極的に応援するという感じではなく、「俺に迷惑をかけない限りでやってくれ」という感じです。
地域は面白いことがいっぱい詰まったワンダーランド
社会起業した今、心身共に開放された感があり、それまで自分は本当はとてもストレスフルな職場にいたのだと気づかされました。前職のときは定期的に温泉や旅行に行かないと心身が持たなかったのですが、今はどこにも行きたいと思いません。地域は面白いことがいっぱい詰まったワンダーランドです。かつては世界を駆け巡るジャーナリストを志していたのに、今は毎日半径2キロ以内を駆けまわっています。マス(グローバル)からローカルへ、足元を見つめる生活に楽しみとやりがいを感じています。
保育事業は、今は追い風ですが、いつ補助金を減らされるかわかりません。ですからこれからは、他の地域起業的スモールビジネスを育てなければならないと思っています。それがなんであるか、まだわからないでいますが、地域メディアなのか、子育て支援事業なのか、ほかの新たな事業なのか、模索していきたいと思います。
情報を集めて準備し、ベストなタイミングでライフシフトを
ライフシフトを実現させるには、ただやみくもに「やりたい」思いだけではなく、将来のイメージ、目標を鮮明に描き、その実現のために何をすべきか、筋道を立てて考える必要があると思います。たとえば私の場合は保育園を作ることが目的ではなく、子どもがまちぐるみで育つ環境をつくりたいというのが目標であり、保育園の運営はその手段の一つに過ぎません。
海に引く波、寄せる波があるように、ものごとには「今だ!」というタイミングがあるようです。機が熟していないのに焦って無理を通そうとしても、通らないものです。なんだかうまくいかないな、と感じるときは、焦らず、じっと我慢して機が熟すのを待つことが大切です。波が引いたら、次は波乗りができるような寄せ波が来ます。それを逃さないように、感覚を研ぎ澄まし、情報を集めることをお薦めします。情報は強力な武器です。自分がシフトしようとしている分野の情報は常にアップデートし、通になっているぐらいのつもりでいるといいと思います。