PROFILE

夫:並木渉さん(ライフシフターNo.36)

ライフシフト年齢 31歳

・カンターキャラバンジャパン代表
神奈川県在住、32歳。
製薬会社の経営企画部門でフルタイム勤務していたが、妻の流産、不育症をきっかけに、働き方や妻との関係を見直そうと製薬会社を退職し、ベンチャー企業に転職。
その後、「自然の中ではたらく」をテーマに活動する団体、KantoorKaravaan(カンターキャラバン)と出会い、2017年、KantoorKaravaan Japanを立ち上げる。
現在KantoorKaravaan Japanでは、「はたらくに余白を」をテーマとし、オフィス仕様に改装したキャンピングトレーラーを自然豊かなところで開放し、「自分たちだけの贅沢な時間」を過ごしてもらうサービスを提供する。
また、営業系フリーランスとして3社の営業、経営企画業務をリモートで請負う。
影響を受けた本:ヴィクトール・フランクル「夜と霧」

妻:並木美緒さん

ライフシフト年齢 30歳

神奈川県在住、31歳。
メーカーの経理財務部門でフルタイム勤務をしていたが、2014年、28歳の時に流産により体調を崩し、退職。妊娠するが流産を繰り返す病気である不育症と診断され、医療費の家計への圧迫や子どもを授かれない不安、フルタイムの仕事に戻れないかもしれないという焦りから家で塞ぎがちに。
夫のベンチャー企業への転職やKantoorKaravaan Japan立ち上げの姿を見ることで、「自分の子どもがダメでも他の子どもやその家族と接したい」という想いから、独学で保育士資格を取得。午前中は保育士、午後は前職を活かした経理財務業務をスタートアップ企業から請け負う生活を始める。
現在は、経理系フリーランスとして4社の経理財務業務を請負いながら、カンターキャラバンメンバーとして夫を支える。
影響を受けた本:ジョージ・オーウェル「動物農場」
■カンターキャラバンジャパン
http://kantoorkaravaan.jp/

私は製薬会社の経営企画部門、妻はメーカーの経理財務部門で、それぞれフルタイムで働いていました。平日は仕事一色で、土曜日は寝だめ、日曜に家事と買い物をして一週間が終わる日々を送っていましたが、2014年に妻が流産して体調を崩し、退職したことで生活が大きく変わりました。
妻はその後も流産を繰り返し、不妊クリニックを転々としたものの原因がわからず、「不育症」という「妊娠するが流産を繰り返す病気」だということが判明したのは、3回目の流産後にたどり着いた不育症専門クリニックでした。医療費の家計への圧迫、子どもを授かれない不安、フルタイムの仕事に戻れないかもという焦りから妻は家で塞ぎがちになり、夫婦仲も急速に冷え込みました。

パートナーシップや余白をもった働き方をライフワークにしたくなり、転職を決意

妻との関係を見直す中で、ふたりとも「夫婦、家族のパートナーシップ」や「(心も体も)余白をもったはたらきかた」に強い関心を持つようになり、このテーマをライフワークに仕事をしたいと考えるようになりました。そして、製薬会社を退職して、女性の働き方の変革や再就職を支援するベンチャー企業に転職をしたのです。
その後、オランダで「自然の中ではたらく」をテーマに活動しているKantoorKaravaan(カンターキャラバン)という団体を知り、「これだ!」と感じてKantoorKaravaan Japanを立ち上げました。
KantoorKaravaan Japanは「はたらくに余白を」をテーマに、オフィス仕様に改装したキャンピングトレーラーを自然豊かなところへ移動させ、贅沢な時間を過ごしていただくサービスを提供しています。「自然の中に籠もる」体験をすることで、自分や家族、日々一緒に仕事を頑張っている仲間とだけで濃密な時間を過ごしたり、一時でも会社という組織から自分を隔離させることで自分を見つめなおすなど、「心に余白をもてる」空間を目指しています。

最大の不安はお金。家計の大改革と、複数の企業から仕事を請け負うことでリスクを分散

製薬会社からベンチャー企業に転職したタイミングと、その後KantoorKaravaan Japanを立ち上げたタイミングで生活環境が大きく変わりましたが、その2回とも、不安に感じたのはやはりお金です。経済的に安定した製薬会社からベンチャー企業に転職することによる経済的な問題をどうするかは最大の課題でした。妻は当時、専業主婦だったため、夫婦で大企業にフルタイムで働いていた時と比べると、世帯年収が4割程度にまで落ち込みました。
製薬会社時代と同水準の生活をすると一瞬で家計が破綻するため、まずは引っ越しをして家賃などの固定費を大幅に下げ、保険を見直したり、外食もやめるなど、家計の大改革を行いました。
その後、KantoorKaravaan Japanを立ち上げたときは、時間確保のために、正社員だったベンチャー企業での働き方を業務委託に切り替えたので、「正社員」という安全地帯がなくなることによる不安がありました。そのため、複数の企業から仕事を請け負うことでリスクを分散しました。

「自分たちは今どう生きたいか」を夫婦で話し合い、二人での事業をスタート

製薬会社時代までの私は、「仕事=お金のため」と考え、仕事に一切の「想い」を持たないスタンスだったので、ベンチャー企業へ転職したり、KantoorKaravaan Japanを立ち上げたりする私に、妻は驚きを隠せないようでしたが、その変化を喜んでくれました。妻自身もこのままではいけないと思ったのか、「自分の子どもがダメでも他の子どもやその家族と接したい」ということで、独学で保育士資格を取得。午前中は保育士、午後は前職を活かした経理財務業務を企業から請け負う生活を始め、少しずつ元気になっていきました。
すると、今まで話すことのなかった「はたらくとはなにか」「生きるとはなにか」といった問いを、自然と互いに投げかけ合うことが多くなりました。その中で「自分たちは今どう生きたいか」や「どんな世界で今生きたいか」といったところに話が及び、結果的にKantoorKaravaan Japanを一緒にやることこそが、「自分たちが生涯かけて取り組みたいこと」だとはっきりしたため、二人で事業を行うこととなりました。

自由度が高く、精神的にも健康に。夫婦で過ごす時間が圧倒的に増加!

生活スタイルは大きく変わりました。製薬会社時代はリモートワークができませんでしたが、現在は外で働く日もあれば家にこもって作業をする日もある、といった感じで、日によって過ごし方が大きく変わります。
また、KantoorKaravaan Japanのサービスは週末の稼働が多いのですが、やりたい仕事なので週末に働くことに対するストレスはありませんし、妻も同様にフリーランスで働いているため、平日夕方に早く上がって妻と食事をするといったことも可能になり、自由度がとても高くなりました。以前と比べて、毎日二人で過ごす時間は圧倒的に増えました!
また、精神面で一番変わったのは、「人の評価を気にしなくなった」ことかもしれません。
フリーランスの仕事やKantoorKaravaan Japanとして自身の事業を興すというのは、良い意味でも悪い意味でも「責任は全て自分がとる」ことになります。
自由であることは責任を伴う、ということを実感する毎日ですが、その結果、上司等の評価を必要以上に気にすることがなくなり、また「人依存」から脱却することで、対人関係のストレスがなくなり、精神的にとても健康になったと感じています。
ライフシフトすることで、世帯年収は下がりました。
現在は夫婦ともにフリーランスなので、周りからは「大丈夫なの?」と心配されますが、一度痛みを伴う改革をしたことで「お金はこの程度あれば生きていける」という目安がわかりますし、だからこそ今の挑戦ができているとも思っています。

自分や大切な人との関係を見つめ直す時間があるからこそ、明日への活力を見いだせる

KantoorKaravaan Japanの立ち上げを一日もはやく安定させ、多くの方に興味関心をもっていただき、利用していただくことが今後の目標です。
現在は、神奈川県の相模湖周辺の自然豊かな街「藤野」を拠点に活動しており、キャンピングトレーラー型オフィスを週に1,2回、平日休日問わず不定期で開放して、都会で頑張っているビジネスパーソン、マネージャー層などいろいろな方に「自分たちだけの贅沢な時間」を提供中です。
また、平日は営業系フリーランスとして3社の営業、経営企画業務をリモートで請負う仕事をする一方で、KantoorKaravaan Japanの活動として、キャンピングトレーラー型オフィスを開放していない時もカンターキャラバンの営業で企業をまわったり、SNSの更新や内部の戦略ミーティングなどに時間を使っています。
時短勤務やリモートワークなどの「働き方改革」が叫ばれて久しいですが、いつでもどこでも「繋がる」ことに疲弊する人が増えていると感じます。たまにはゆっくりと、自分や自分の大切な人との関係を見つめ直す時間があるからこそ、明日への活力を見いだせるのではと考えます。

大切な人たちを大切にしながら、計画通りに行かないことを楽しむ!

正直なところ、「人生100年時代」という言葉にはあまり興味がありません。私は「100年生きるからライフシフトした」わけではないからです。それよりも、「今を楽しく、常に明日死んでも後悔のないように、大切な人たちを大切にしながら思いきり生きていきたい!」ということを考えています。
先に絵を描いてそのとおりに進む方法もあるかもしれませんが、私は、今やりたいことをひたすら進め、振り返ったらなにか素敵な絵が描かれていたらいいな、くらいの気持ちで日々過ごしています。
人生は思い通りにならないことが多いけれど、計画通りに行かないことを楽しむ、という風に構えておくことが大切だと思っています。

転職だけでは何も変わらない。考え方を変えることで、腰を据える場所が変わっていく。

今が不安、不満で、仕事なり生き方なりを変えようとするのであれば、一度立ち止まってみたほうがよいかもしれません。私は製薬会社で働く前に、新卒でメーカーで働いていたのですが、転職することで不満が解決されると信じて製薬会社に転職しました。しかし、仕事に対する姿勢や想いが変わらなかったので、場所を変えてみても何も変わらず、不満だらけの毎日でした。
今、改めて思うのは、変えられるのは、むしろ自分の考え方だったということ。自分の考え方が変わると、自然と腰を据える場所も変わっていくように思います。
そして、なんとなくでも前向きな「やりたい」気持ちを持ったのであれば、片足からだけでもよいのでその世界に飛び込んでみると良いと思います。飛び込んでしまえば、意外となんとかなるものです。というより、想いがあれば、必死で「なんとかする」のかもしれません。かくいう私も、KantoorKaravaan Japanを立ち上げたばかりなので、これから躊躇せず、どんどん面白い世界に飛び込んでいきたいと思っています!